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スーサイド・ツアー(第15話 祈り)
外はまだ暗かった。出る時に大広間の時計を見ると、午前3時半を過ぎている。冷房の効いた屋内から出ると、蒸し暑い6月の熱帯夜が待ち受けていた。
再び夫の遺体にまみえるのかと思うと、美優は胸が張り裂けそうになる。
「美優さん、無理しないで」
翠が、声をかけてきた。
「よければ大広間に残ってて」
「ありがとう。でもやっぱりあたし行かないと」
重たい足を引きずりながら、美優はそう宣った。結局大広間に残ったのは高校生の妹尾だけである。
彼は小心者らしく、突然冬が来たかのように震えていた。
他の者達は、闇の中を進んでゆく。北口を出て池の上の橋を渡る。
向こう岸に出ると、右側つまり東側にある階段から、下に降りた。階段を降りると左に曲がる。
信じたくなかったが、さっきの位置に、やはり夫は倒れていた。まだ、現実味を感じない。
何かの間違いではなかろうか?
無論来週月曜日に一緒に心中するつもりだったが、まさかこんな形で先立たれるとは考えもつかなかった。
どうせ死ぬのに、何で殺されるのだろう?
「やっぱり紙が落ちてた」
指摘したのは、日々野である。彼はしゃがむと、懐中電灯でそれを照らす。
「書いてある文章も、理亜さんが殺された時と同じ。紙質も、紙の大きさも一緒です。しかも、これはコピーした物ですよ。どうやら犯人は、最初から連続殺人のタスクをこなす気だったみたい」
「あたし達は、犯人がしかけたダンジョンにはまったって事かしら」
翠が、誰にともなく話す。
「ちょっと待って!」
一美が叫ぶ。
「だったら今回のツアーを企画した人がラスボスで、犯人はそいつに操られてるの!? 何でそんな狼藉に手を出すの? あたし達何も、悪い真似してないのに」
「一美ちゃんの主張通りで、確かにツアーの企画者には、動機がねえな」
井村が同意の言葉を発する。
「あんたに、ちゃんづけされたくない」
一美は、井村につっかかる。
「いいじゃねえかよ。うっせーな」
井村は、剣山でも踏んだような顔をした。気がつくと、翠が礼央の遺体に向かって手を合わせていた。
(いい人なんだ)
美優は、翠に対する考えをちょっとだけ改めた。美優はあまり普段からドラマや映画を観なかった。
そういったものは作り事の世界だと、少しバカにしていたのである。
どちらかと言えばアウトドア派で、テニスやバレーボールが好きだった。
テレビを観るならスポーツの試合や、ニュースやドキュメンタリーを観る機会が多かったのだ。
そもそもテレビ番組自体あまり観ない。
家にいる時はプレステなどのゲームで遊んだり、YouTubeを観るケースが多かったのだ。
芸能人なんて、みんなチャラい遊び人ばかりだと信じていた。でも、翠にはそんな感じをまるで受けない。
無論彼女の全てを知っているわけじゃないけど。
「ありがとう。礼央のために祈ってくれて」
落涙しながら美優が感謝した。
「礼央はあなたのファンだったから、天国で喜んでいると思う」
翠が美優のそばに来る。そして震える美優の肩を抱きしめた。
「1度この島を調査した方がいいな」
提案したのは、日々野である。
「もしかしたらこの島のどこかに僕らの知らない人物が隠れていて、そいつが犯人なのかもしれない」
「それはいいけど、先に礼央さんを埋葬した方がいいんじゃね?」
井村が、そう口を出す。
「理亜ちゃんの遺体は室内だから冷房入れっぱで放置したけど、礼央さんの方は屋外だから、このままだとハエとか来るぜ」
結局皆で相談した結果、礼央の亡骸は、近くの地面に埋めると話が決まったのだ。
こんな離島に夫が埋葬されるのに美優は抵抗はあったけど、この状況では仕方がない。死んだ後、一緒に天国で過ごせばいいだけの話だ。美優は自分に言い聞かせる。埋葬後、皆で島の探索を始める事になった。