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市場開放(SFショートショート)
22世紀初頭。日本の原(はら)総理は新しく就任したばかりのアメリカ大統領に会うために渡米した。
大統領は90歳だが抗老化手術を受けているので外見は70歳ぐらいに見える。今や人類の平均寿命は100歳まで伸びていた。
「ミスタ・ハラ、実は君にお願いがあるんだ。大統領選挙の時私はアメリカ国民に約束したが、私は自由な貿易が合衆国を、ひいては世界を豊かにすると信じている」
原は、嫌な予感がした。またもやアメリカのリーダーから、新たな要求が来そうであった。22世紀になっても、この国は超大国である。
日本との力関係は変わらなかった。
「という事で、日本に規制緩和をお願いしたい。レイガンを売りたいのだ」
レイガンとは、ハンディタイプの光線銃だ。
「それならすでに日本の警察や自衛隊では、採用されてますが」
「それは、わかっているよ」
大統領は、にこやかに笑った。
「最近日本では、犯罪が多いじゃないか。だから国民が犯罪者から自衛できるようアメリカのように銃を自由化するんだよ」
「ち、ちょっと待ってくださいよ。確かに日本は昔と違って格差が広がり、犯罪も増えてます。でも銃まで自由化したら、さらに犯罪が増えますよ」
「そこをなんとかするのが君の仕事だろう」
原は、文字通り頭を抱えた。
日本に帰国した原総理は、早速行動を開始した。
いきなり法律を変えて、アメリカのように一般人なら誰でもレイガンを持てるようにするのは無理がある。
が、すでに、総理の警護を固めるSPは、レイガンを勤務中は所持している。
なので原は、あくまで勤務中に限り、首相や秘書官が光線銃を持てるような法律を通す事にした。
無論野党は反対したが、与党が議会の過半数を超えているので、強行採決で押し切ったのだ。
そんなある日の事である。原の秘書官がものすごい形相で、原を見ているのに気がついた。
いつもはオドオドしてるのに、今日は一体どうしたのだ? 目が合うと、その顔に突然不気味な笑みが浮かぶ。
「この日が来るのを待ってたんだよ。総理さんよ」
秘書官はいつになく、強気な口調だ。
「一体どうした?」
「うるせえよ。パワハラ野郎!」
怒鳴るが早いか、秘書官は自分のレイガンを取り出して、その銃口をこっちにむける。
「ま、待ってくれ! 話せばわかる!」
「うるせえ!」
秘書官は、レイガンの引き金にかけた人差し指を引く。発射された光線が総理の体を貫いた。
近くにいたSPが、すぐに秘書官にレイガンを撃ち、秘書官も総理と同様血を出しながら、地面に倒れた。
原総理は大地に倒れ、苦痛に体を歪ませながら、これで同情票もあり、与党は次の選挙で大勝すると思った。