プロヴィデンスマギア4ーA

 キオティア帰還~それぞれの行動

キオティアの街に戻ってきたイルマ達は冒険者ギルドに、その足で向かった。そのまま、依頼達成を報告し、報酬を受け取ると労いと、また明日相談したい事があるので、必ず来てくれと言われる。
イルマは、例のトンネルの件かな。と思いつつも旅で疲れていたので、深くは考えずギルドを出ると、モノクロームのエルフ達と別れる事になり、別れ際に自分がプロヴィデンスである事はなるべく秘してくれと頼み込み、ついでに自分から離れて冒険者として仕事をしていく中、プロヴィデンスマギアが使用出来るか、魔力が切れる感覚があるかを調べて欲しいと頼んだが、快く引き受けてくれた。
彼女たちからすると、自分たちが御伽噺の一部になれていると言う感覚もあるので、普段通りにやっている中でイルマの為になるのなら、歓迎すべき事だった。
それと、たまに連絡を取り合おうと約束した。
イルマが彼女たちを見送り、少し名残惜しそうに振り返るフィーとラミに、その度に手を振る。今生の別れでは無いと自分に言い聞かせ、彼女たちが見えなくなるまで、その場に留まった。
クランハウスに帰ると、庭でネコが丸まっており、ヘキサが剣の素振りをしていた。
彼に気付くと、ネコがぴゃっと跳ね上がって屋敷に入っていきイルマの無事の帰還を伝えた。
ヘキサが、おかえりなさいと笑う。
イルマは、王都の様子を聞きながら玄関まで歩く。彼女は、肩を竦めながら自分は特に珍しいものは無かったと言うが、でも、もうすぐ王都では国教の祭りをやるようだと伝えてくれるのだった。
扉をくぐり、ただいまと知らせると、トリアとノイエが出迎えてくれる。
アンナは自室で研究しているらしく、奥の部屋から、おかえりなさいと聞こえてきた。
ルコとマインはと聞くと、ルコは自分の魔道具屋の整理をしているらしく、マインは王国の詰所に呼ばれたらしく屋敷に居ないらしい。
ネコが、ルコに伝えてくるにゃー。と、止める間もなくクランハウスを出ていき、今日はご馳走ですねとトリアは腕まくりした。
イルマは、そんなに気を遣わなくて良いぞと言うのだが、やる気になっているトリアを見ていると、なんだか強く止められなくなる。
とりあえず荷物を部屋に置いてくるから、風呂に湯を貯めて欲しいと伝えた。
トリアは、ノイエに用意をしてくれるように頼んで、ヘキサと一緒にに買い物に出かけるらしい。
イルマは、気をつけて行くんだぞと笑いかけながら自室へと戻る。
自室は、イルマが出かけた時から何ら変わらず整えられているようだった。
ベッドもメイクしてあり、最初おねしょがちだったトリア用に作らせた陶器のおまるも変わらずだ。
ただ、気になるのはベッド横にチェストが増えていた。
特に鍵はかけられておらず、誰でも開けられるようになっている。
首を傾げたが、後でトリアにでも聞けば良いと思い、荷物を置いて外套を脱ぎ、軽装になる。
部屋を出て階段を降りると、ノイエがお風呂の用意が出来たと伝えてきたので、世話されるまま風呂に入ることにした。
風呂で温まり、リビングに戻ると、ルコとマイン、アンナは部屋から帰ってきていた。
主様、おかえりなさいませ。おかえり。と口々に言われると、ようやく気分が落ち着いてくる。
ただいまと言って、買い物組が帰ってくるのを待ってから、お互いの報告会を行うことにした。

まずは、こちらの報告。エルフの里は神樹の里と呼ばれており、詳細は規約もあるので省くが依頼は成功し、モノクロームと神樹をファミリアにしてきた事。そうしたら、不思議な木の実を神樹から受け取った事を報告。モノクロームの皆は、自分達の冒険者の仕事に戻って行った事を伝えた。
そして、少し待って貰って部屋から神樹の実を持ってくる。
ルコに鑑定を頼むと、これは食べた者の潜在魔力を上げる効果があるものだと言う。
夢が広がる貴重品だな。王都の魔力が低い貴族とのコネ作りに使うか売るかしたら高値が付きそうだなと悪い笑みを浮かべるイルマ。
王都と言えば、そちらはどんな風に暮らしたのかと聞くと、マインがにんまり笑って、イルマが喜ばそうなものを色々作ってきたわよ。と、言ってきた。
いったい何をしてきたんだと苦笑するが、トリアが王都に初めて行った事を興奮して伝えてきた。プロヴィデンスの名跡だとかを教団本部巡ってきたらしい。他にも王都の冒険者ギルド、神殿本部、王城を外から見たり。王都に詳しい面子も居たので、宿泊も食事も困らなかったようだ。調味料も豊富なので、海魚の塩焼きや屋台飯が美味かったにゃーと、ネコが報告した。
終わりに、イルマさん、お祭りがあるんですよとも言ってきたので、さっきヘキサにも聞いた情報だったので、詳しく聞くことにした。
どうやら、プロヴィデンス教団の祭りを大々的に王都で一定期間行うようだ。そこで、最高司祭のクリプトロによる演説も行われるらしい。
マインも、さっき詰所に呼ばれた用事も、その護衛につくようにと辞令が来ていた事と、イルマの気が向けば行くと伝えてきたと報告した。
まあ、王都の祭りには興味があるし、ギルドに護衛の任務が来ていたら受けてみるかと請け負った。
報告会が終わると、料理が出来るメンバーは台所に入り、賑やかな我が家と言った様子だ。
イルマは、ルコ達と王都で購入してきたテーブルゲームに興じ、トリア達が作った料理を味わった。
その日の夜、マインを始めとする夜伽で王都で作らせた革製品やバッファローの角で作らせた張り型──有り体に言えばディルドーだ──やらアダルドなグッズを披露され、職人にこんなもの作らせたのかと苦笑したが、結果的に非常に喜んだ。
勿論、それらも堪能し、享楽の夜は更けていった。

 冒険者ギルドにて

次の日の朝、朝と言っても昼前、朝下がりと言うか朝上がりと言ったような時間帯。
イルマはトリアを伴って冒険者ギルドに顔を出した。
イルマが受付に来ると、アンリエッタに代わり、そのままギルドの中、ギルド長室へと導かれた。
久しぶりに会ったガレスは、無言で資料の紙束を手に応接テーブルに置いた。
『お前さんに、指名依頼が来ている』と、そんな事を言って。
紙束を検めると、エイビスに続くトンネル事業についての推移であるようだった。
ガレスは、出された茶を飲みながら唇を湿らせると、説明を始める。
イルマが神樹の里へと旅立ってからすぐ、トンネルがある遺跡を掘り当ててしまったと言う。
その遺跡は、どうやらプロヴィデンス関連の遺跡であり、すぐに王都から研究員と錬金術師のチームが派遣され、トンネル掘削が完全にストップしてしまたったらしい。
イルマは、それを聞いて噂に聞いた京都の土木作業のようだなと、全く関係のない事を考え始める。
そして、イルマが帰ってくる数字前、その遺跡の最奥部にゴーレムが護っており、手が出せなくなったのだと言う。
そのゴーレムは、長年──それこそ100年単位で放置されていた為、ボロボロになっているのだが、運悪く稼働には問題なく、研究チームにも被害が出たらしい。
それで、そのゴーレムを破壊できる者に破壊を依頼したい、と言うのが王都からの……と言うより、王室からの依頼なのだと言う。
イルマは、破壊すれば良いじゃないか。と、素直な感想を漏らすが、ガレスは何とも言えない笑顔を浮かべ、出来ればそうしてる。
と言った。
研究チームの鑑定報告が書かれた紙ペラを机に滑らせる。
そのゴーレムは、どうやら信じ難い事に、神鉄。オリハルコンで作成されていると言う。
魔力ランクはS。オリハルコンが、そもそも魔力ランクSの鉱物。正に神しか加工出来ないと言う代物なのだと言うのだ。
そこで、と。嫌な予感が先程からして、唸っているイルマと、それをちらちらと見ているトリアに、依頼書を差し出してくる。王宮からの指名依頼、指名対象はイルマ・クコザキ。必要魔力ランクは、A+。必要冒険者ランクは不問──。
『お前さんは、エイビスに行きたい。俺たちは、この無理難題を完遂させたい。俺たちは手を取り合えると思わないか? あんた、プロヴィデンスサマなんだろう? ここまで王都にも黙ってた危ない橋を渡ったキオティアギルドに協力してくれても悪い話じゃあ無いと思うんだが』
と、脅しつけてくるのだ。なんて悪人なんだ、とイルマは愚痴をこぼす。
けれど確かに、自分がプロヴィデンスであるだろうと言う事を黙ってくれているのは、キオティア冒険者ギルドだ。
そこを突かれると弱いイルマとしては、分かった。と言って、トリアにクランハウスに行って、マインかアンナを呼んできてくれ。オリハルコンゴーレムを倒す依頼を受けるって説明して、な。
と、言うのだった。
イルマの魔力ランクは、公称Bである。Sランクの魔力を持つメンバーを呼ばなくてはならないのだ。表向き。
トリアは、『分かりました、イルマさん! すぐ帰ってきますね!』と言って、飛び出して行った。
ガレスは、恩に着る! と、アンリエッタと頭を下げる。
その間、ガレスは依頼の詳細を説明する。
今回の依頼には王都からの随伴員として、二名。件の研究チームから研究員、錬金術師の代表者がついてくるという。
メイラックス・ロフラ。王宮学者。
ホーリット・クロルプロマ。錬金術師。魔力ランクは、二人ともC。
メイラックス──メイに関しては、以前名を秘されし神教団絡みの事件の時に一緒になった学者さんだ。
学者と言っても戦闘の出来る学者だ。装備を外したと言え、ナヒ神教信者を王都まで連れて行けるくらいだ。確か、ファミリアには、して、なかった、ハズ。
ホーリットと言う錬金術師は知らないが、知り合いが一人でも居るならありがたい。
しかし、何故錬金術師が一緒来るのかと聞いてみれば、遺跡には珍しい素材がある事が多く、それを発見する為だと言う。
そんなもんか──。と思っていると、ばたばたばたと足音が部屋の聞こえてきた。
扉が開き、トリアとマインが入ってきた。
マインが来たのか、アンナでも良かったんだが──まあ、ふたりが揃っているタイミングならマインが来るか。
それにしても走っていたトリアに合わせてマインが走ってくれていたなんて意外だ──と思っていたら、目の前にマインが立っていた。そのまま、イルマの両手を包むように手に取られる。
『オリハルコンゴーレムですって? やっぱりイルマに付いてきて正解だったわね……!』
あ、こいつ自分からノリノリで走ってきたのか……。
先程ガレスから聞いた情報を二人に話している間に、マインは依頼書にサインを進めている。
そう言えば、と。イルマは、王都でプロヴィデンス教団の祭事があるんだって? と、ガレスに聞くと、彼は頷き、祭事の護衛依頼がギルドに来ていることを教えてくれ、まだ祭事は先の事なので、依頼を終えたタイミングでも依頼を受けるには間に合うだろうと話した。
しかし、ガレスは意外そうな顔をして、あまり表に出たがらない──と言うか王都に近付きたがらないイルマが、そんな依頼に興味を覚えたことを不思議がっていた。
イルマは、自分以外のメンバーが王都へ観光へ行っており、自分も行きたくなったのだと軽く伝えた。
ガレスは、なるほど。と少し考え、これからは王都から降りてきた依頼もイルマに伝えよう。と、言ってきたので、イルマも『それでいいよ』と請け負った。別に受けるかどうかは別だろうと考えたからだ。
ともあれ、トンネルに関しての依頼は受けることにして、挨拶をしてからギルドを出る。
ちょっとマインの目の色が変わっていて、戦闘狂だなあ。と思いはしたものの、依頼に前向きで居てくれることには助かるのだ。
オリハルコンゴーレムは、ミスリル由来の魔物が持つ魔力ランクBと違ってSランクだ。攻撃するのは自分含めてSランクのメンバーのみとなってしまうだろう。現在、王宮が指示する潜在魔力A+のメンバーは居ない。
トリアが昔、潜在魔力ランクEのウルフを、魔力ランクFの彼女が倒していたと言っていた事があったが、あれは相当に力技だったと言う。攻撃の威力が、かなり減衰されるので、仲間を呼ばれたら割と死を覚悟していたらしい。
勿論、イルマがプロヴィデンスのマギアを流し込めば攻撃は通るだろうが、そうでなければ減衰したダメージしか魔力障壁に入らないだろう。
そんなパーティの中、単独でダメージを与えられる彼女達が、頼りになるのは間違いなかった。

 オリハルコンゴーレムと遺跡

次の日。イルマ達はパーティを編成して、王都西にあるエイビスへと跨る山へと向かう。
ただ、そろそろ問題がある。《ミネルヴァズオウル》のメンバーがイルマを含めて6名を超えてしまったので、徒歩旅で無く馬車旅となれば連れて行けるメンバーに制限がかかる。現地にメルとホーリットと言う錬金術師が居るが、それは員数外としておいても良いだろう。
イルマは、ネコと──『にゃー。戦力外通告なのにゃー。にゃーはこれから縁側でずーっと丸まって生きていくのにゃー。はっ、これが柔猫拳の悟り……御先祖さま、にゃーは悟りに至りましたにゃ。……すやすや』いやいや、今回は相手の魔力ランク分かってるからだから。あとクランハウスに縁側は無い。『にゃー(起きた)』……ネコがこんななので、ヘキサをお留守番組に──『と言うか、ルネスタのお守役よね。まあ、こちらにある二人で出来そうな依頼をしておくわ?』ルネスタって誰だ。ああ、ネコか。
クランハウスは自由に使って良いと、ヘキサに合鍵を渡しておく。
王都を経由して保存食と飲み物の補充。王都に寄ってみて、皆の言うように祭りが近付いている浮ついたと言うかそわそわした空気を緩やかに感じた。
それと、一日王都に滞在して、定宿に出来そうな宿屋を決め、泊まることにする。
それとは無関係だが、自分自身の祭りが近付いて浮ついているどころか昂っているマインに襲われそうになっているので、アンナを呼んでその日の夜は一緒に慰めることにした。
それから数日かけて、エイビスのトンネルに到着する。
と言っても、入口には村のようなものが形成されており、寝泊まりどころか生活が出来るようになっていた。
開拓村みたいなものか……。と言っても、現在は作業が停滞しており、どこかだらけたと言うかシラケた空気が漂っていた。
イルマ達は責任者の館を、その辺に居た作業員に聞き、奥の大きめの館へと向かう。
館の傍らに馬車を停め、扉を叩いて用向きを伝える。
すると中から、見知った女の娘が出てきた。メイだ。
メイは、イルマ達が来ることが伝わっていたのか、すぐに中へ通してくれて、もう一人の随伴者ホーリットと面通しが行われた。
ホーリットの事は、ニックネームを付けて呼ぶと危険なような気がしたので、そのまま名前で呼ぶ事にしたのは言わないでおこう。
その日は休み、次の日の朝に遺跡へと向かうことにした。
朝になると食事をした後、トンネルの中へと向かう。トンネル内は当然だが馬車が行き交い出来るようにしなければならない為、ところどころが瘤のように広く作られている。
この瘤のようなものを作る際に、遺跡と繋がってしまったようだ。
程なくして、厳重に警備線が敷かれた行き止まりまで辿り着く。南側の部分が崩落しており、別の空間へと繋がっている。これが、件の遺跡なのだろう。
広がるのは電飾ピカピカのSF空間、と言う訳でも無く、石造りの空間が広がっている。
王都研究員が設置したと言う非常灯のような青い光がほぼ等間隔に置いてある。
明度的には動くには問題はなさそうだが、最奥のガーディアンルームには魔力光があり、戦闘にも問題がない、らしい。
ホーリットが先頭に立ち、迷うことなく最奥への扉の前。
魔力Aランクのメンバーは、サポートに回ってもらうとして、イルマの魔力を流し込むプロヴィデンスマギアなら攻撃が入るだろうとルコは請け負ってくれる。
どうなるかは分からないので、メルとホーリットをファミリアにする。
王都の学者である二人は、自分たちがどのような存在になったのかを、すぐに気付いたが、イルマは必殺《話は後だ》を使う。
準備が整えばイルマは、扉に手をかける。
中は奥に祭壇のようなもの、鎮座しているゴーレム、と言っただけの空間だった。
一体元は何に使っていた場所だったのかと思うが、それよりも。鎮座していたオリハルコンゴーレム。少し、ボロいと言うか、パーツが足りない。右肩からゴッソリと腕が無い。経年劣化だろうか。
こちらが部屋に入った途端、重々しく立ち上がるゴーレム。
弾かれたように突っ込んでいく黒い影、マイン。トリアとノエルは後衛の護衛につき、ルコは氷魔術で牽制する。直接狙うと弾かれる為、足元を狙い行動を阻害する。
マインに続くようにイルマも動き、氷に隠れるように背後に回ったマインが大鎌を振るう。
《クラッシュ》と呟き、魔力を纏わせた一撃が回避しようと動くゴーレムを追尾するように胴を払う。
張られた氷を払うように腕を振るい、氷を破砕し、マインを狙ったゴーレムの動きが止まる。アンナの妨害魔法《クラッキング》で阻害した隙に、イルマの大剣が残った左肩を斬り裂く。
危ういバランスだが、切り札は残している。このまま押し込むとばかりに、相手の攻撃にカウンターを合わせるマイン。
しかし、ゴーレムの瞳が怪しく輝いた瞬間、閃光が走り、こちら全員の身体が切り裂かれるような感触。魔力障壁全損とまでは行かないが、後衛にまでダメージが行ってしまった。
が、こんな時でも元気なのがマインとトリアである。
ゴーレムの光線を掻い潜り、鎌で受けては魔力を返すマインに、死角に回り込んだトリアの巨大化した鉄拳が何度も突き刺さる。イルマのマギアを受けたラッシュが叩き込まれる度、超硬度のオリハルコンが削れ、ゴーレムの身体が傾ぐ。
露出したゴーレムのコアに、マインにプロヴィデンスマギアを注ぎ込み、イルマの魔力障壁を削りきった《マリシャスコード》でコアごとオリハルコンの身体を両断してしまった。
何と言うか、構えていた割には簡単に倒してしまったような感じである。
肌が白いので紅潮した頬が目立つマインを見ていると、彼女と戦った時の方が苦戦したなあと思ってしまう。
まあ、その苦戦した彼女が仲間どころかな関係性になってしまったのだから、言ってしまえば強かったボスが戦闘後、弱体化せずに仲間になってしまった様なものだ。そりゃあ強いに決まっているのだ。
本当にオリハルコンゴーレムを倒してしまったのを見て、呆けているのは学者組である。《ミネルヴァズオウル》の面々は、このくらいでは驚かず、こんなものかと言った感じで倒したゴーレムの残骸をトリアが片付けている。
そして、ルコが祭壇を調べている。イルマは以前のような遺物があるかと思って近付いてみれば、ルコは此処には聖遺物はありませんね。と、言ってきた。
すると、もうここではやる事は無い。収穫物は、オリハルコンゴーレムを形成していたオリハルコンのみ。と言っても、こんなもの加工できる鍛冶師は居ないため、今のところ宝の持ち腐れだ。
そのままトンネルまで戻ってきた後、イルマは遅れてきたトンネル掘削を手伝おうと言い出し、そのままトンネルに魔力を注ぎ込み、ぎゃりぎゃりと岩盤を削り、1時間程度でトンネルをエイビス側に開通させてしまう。
と言っても作業員の仕事は残し、割と雑に魔法で通しただけにしておき、馬車が待機する瘤の部分や拡張作業は丸投げする事にした。
後は、あまりに傍若無人なイルマに引いているメイに、遅れている分の開通資金として、ある程度のカネを渡すので利権に噛ませてもらう事って出来るの?
と、言ったりと色々遠慮は無かった。そろそろ実力も付いてきたので色々狙われても大丈夫だと思ったのか、それとも貴族にコネを作って後ろ盾をして貰おうとしていたのかもしれない。
すると、メイは直接渡されても困るので、商人ギルドに登録して、そちらから打診してみてはどうかと言われてしまう。
イルマは、商人ギルドかあ……と唸って、王都に戻ったら登録しておくかと思い、分かった。なら、そうしようと頷き、今回の件は終わり、また王都を経由してキオティアに帰る事になった。
学者組は、しばらくここに残る事になるので、お別れだ。
ファミリアにした件については、上には秘密にして貰えないかと言ってはみたものの、あれはプロヴィデンスの力ですね。と聞かれれば頷くしかない。
自分たちはプロヴィデンス様が秘密と言うのなら自分からは言わないが、上に聞かれれば自信は無いですよと苦笑された。
宮仕えの──本当に文字通りの宮仕えだから、辛いところだなとイルマは思い、そろそろ隠し続ける事も限界かなと思い始めた。
イルマは、分かった。それで良いよと笑うしか無かった。

オリハルコンゴーレム討伐編終了。

【トンネルに潜む魔物を討伐せよ】
冒険ランク:不問
魔力ランク:A+
依頼者:王宮 ★クコザキ・イルマへの指名依頼
報酬:1000G(前金300G 成功報酬700G) トンネル利用料売り上げの一部(詳細は別紙、依頼締結書を参照)
北西の山を越えた先にある港町エイビスへとつながるトンネルの掘削作業中、王宮魔法騎士でも討伐できない魔物が出現した。
トンネル開通のため、この魔物を討伐してほしい。
期限は依頼受領から10日以内。期限を超えた場合は依頼受領者に討伐能力なきものと判断し、依頼は取り下げとなる。
・・・
※A+とは。
Sランクは一部の例外を除き存在しないため、Sランクを要求する依頼に限り魔法武器などでの疑似的なランク上昇を認めている。
そういった装備や技術による疑似的なランク上昇は基本的に正式な書類には表記されないが、A+のみ慣例的に使用される。
+ひとつで、ランクがひとつ上であることを表している。つまりA+とは「Sランクに相当する」とみなされるということである。
余談だが冒険者の間ではD+やB+などの表現も日常的に用いられている。「あいつはDだけど、魔法剣持ってるからD+だぜ」など。

①エイビスへ続くトンネルが本格的に停止した。
↳半壊したオリハルコンゴーレムの流れ、名を秘されし神(以下ナヒ神教)の使徒・歯車が遺跡の妨害
↳そもそもトンネルに繋がった遺跡の流れでナヒ神教団オリハルコンゴーレムを出すのは無理矢理すぎる。
②王都に行ってきたトリア達が、名を秘された神教団の巣食う……あ、思い出した。
③①の状況と同じ。遺跡の最奥と繋がったトンネル、とナヒ神教の話は別。
ナヒ神教の話は、王都でクリプトロ・カー(リプティ)の祭事の護衛で襲ってくる。

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