地域リハビリ:散歩と体操教室でインセンティブ
今回の記事では、医療・介護の一次予防領域におけるインセンティブ事業(成果連動型民間委託契約方式)の中で、「歩行」と「体操教室」の事例を紹介していきます。
歩行では、新潟県見附市から全国へ広がったプロジェクトについてです。「Walkable City」の理念によって市民の健康増進を促しています。さらに、タニタヘルスリンクの先進的健康管理サービスや筑波大学のベンチャー企業が開発したプログラムは、健康に無関心な層にも手を差し伸べています。
体操教室では、徳島ヴォルティスとRIZAPが、健康と体操教室の新たな風を吹き込みます。徳島県美馬市を舞台に展開する「ヴォルティスコンディショニングプログラム」は、姿勢改善を目指し、地元市民を対象に日常生活の質の向上を図っています。一方、結果にコミットするRIZAPは、自治体と連携し、体力改善と介護予防に特化したプログラムを提供。その成果は、長野県伊那市の介護予防プログラムで目標達成者の大半が体力年齢を若返らせるという驚きの結果になっています。
本編では、これら革新的な健康プロジェクトと、それがもたらす社会的な影響に焦点を当てています。そして、地域リハビリがどのように発展していくか、その可能性を探ります。
※成果連動型民間委託契約方式(PFS)とは
成果連動型民間委託契約は、行政が定めた最低支払い額に加え、事業の達成度に応じて報酬が増減する契約方式です。特に注目すべき点は、事業の実施仕様について民間業者に一定の裁量が認められていることです。この柔軟性が、新たなサービスやアプローチの開発を促進し、より高い成果を目指す動機付けにもなっています。詳細は、以前の記事にて詳しく説明しています。こちらの記事も合わせてご覧ください。
1.自然と歩いてしまう町づくり「Walkable city」
(1)新潟県見附市におけるウェルネス指向のまちづくり
新潟県見附市では、市長と筑波大学の教授が先導して、2009年11月よりウェルネスに重点を置いたまちづくりを始めました。この取り組みは、全市民が生活習慣病や寝たきりを予防する活動に参加することを目指しています。
ウェルネスとは、健康な生活を推進する概念で、幸福が加わるとウェルビーイングと呼ばれます。これまでの行政の健康支援は、健康リスクが高い人を対象としたものでしたが、健康に無関心な人々の参加が得られず、期待される成果は見られませんでした。そこで、全体的な健康向上を図るポピュレーションアプローチが採用されました。
このプロジェクトは、自然と歩いてしまう「Walkable City」の実現、「健幸クラウド」でのデータ収集と管理の実現、健康無関心層の運動量増加とヘルスリテラシー向上を目標としています。
そして、約3年の準備期間を経て、2012年には加盟する7市が国から総合特区として認定され、5年間の実証実験がスタートしました。
(2)総合特区から生まれた実り多き成果
①「Walkable City」の実現
海外の成功例を参考に、自家用車での移動を抑制し、公共交通や歩行・自転車利用の促進を目指しました。しかし、連節バスの導入や商店街での歩行者優先区域の設定など、様々な施策を推進しましたが、住民や警察の反対もあって、導入は困難な面もありました。それでも、商店街の活性化や公共浴場の開設、健康教室などのイベントを通じて、住民の歩く意欲が喚起されました。
②「健幸クラウド」の開発
国保や健保、後期高齢者医療のデータを集約するのに成功し、小学校区単位で住民の健康データを分析することが可能になりました。将来はAIを用いたデータ解析も検討されています。
③健康無関心層の運動量
健康に無関心な層に着目し、地域商品と交換できるインセンティブポイントを提供することで、健康教室への参加を促しました。その結果、目標の6000名を超える7500名が参加し、翌年には12,500名が参加しました。参加者の75%が健康無関心層でした。また、歩数は1人当たり1日に2200歩増え、医療費は1人当たり5万円の抑制効果があったとされています。
(3)課題への挑戦
特区終了後は、得られた知見の横展開が試みられましたが、予算と職員の負担が大きな課題でした。しかし、ICTの活用や各自治体間の連携拡大、さらにソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の導入によって、コストの抑制と計画の策定が可能になりました。そして、第2弾として、2018年に新潟県見附市、千葉県白子町、兵庫県川西市で、大規模ヘルスケアプロジェクトがスタートとなります。
※SIBとは、民間業者が民間資金を集めて事業を行い、その成果に応じて行政から報酬を受ける仕組みです。目標達成ができなければ、資金提供者は投資を回収できないリスクを負う方式となっています。
2.大規模ヘルスケアプロジェクト
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