新たなマイノリティの誕生 声を奪われた白人労働者たち
ジャスティン・ゲスト著『新たなマイノリティの誕生 声を奪われた白人労働者たち』、弘文堂、2019年
「何か大変なことが起きる。でも良いことが起きるのか、それともアナーキーでもっとたくさんの暴動が起きることになるのかはわからない。たぶん暴動が増えることになると思う。ちょっとした火花で爆発するさ。若い世代はもう未来がないと感じてる。実際のところ、彼らには何も残されていない。安定した働き口も、報われる報酬もない。こき使われるだけ。あまり話す機会がないけど、若い連中は政治に関心がないから」(105,106ページ)
本書は、イギリスとアメリカでのフィールドワークと統計調査を通じて、「新たなマイノリティ」として、白人労働者階級の存在をあぶりだしたものです。
黒人や移民が優先的に支援を受けている一方で、白人労働者たちは、社会から見捨てられていると感じてきました。彼らは、社会から十分な恩恵を受けていないにも関わらず、社会の主流から外れており、自分の意見を反映させることが難しい状況にあると不満を抱いています。そのため、かつての地位を取り戻そうと強く願っています。
イギリスのイースト・ロンドンでは、産業革命以降、白人労働者たちは地域社会の中心的な存在として、長らく誇りを持って生きてきました。しかし、近年、世界各地から多くの人々が移り住んできたことで、仕事や社会的地位が奪われるのではないかと不安を感じています。労働者階級としての誇りを奪われることが、彼らの根本的な恐怖です。
それに対して、アメリカ、ヤングスタウンの白人労総者たちは、自分たちの出自も移民であることもあり、その点については寛容です。しかし、世代間の貧困や格差という構造的な問題があるにもかかわらず、彼らは自分たちの苦境を、個人の努力不足によるものだと捉え、自己責任論に陥りがちです。福祉サービスを利用しながらも、現金による支援を拒否し、それを受ける人々を軽蔑するような価値観を持つ人も少なくありません。これは、アメリカンドリームのような、個人の努力で全てが解決するという強い信念が背景にあると考えられます。
労働者階級は社会的分断にさらされ、ますます内側に閉じこもり、排外主義的になっています。それに対して、ミドルクラスは、自分の力でいまの立場を築けたと信じているので、それほど排外主義的にはなりません。
経済的な困窮や社会的な地位の低下により、白人労働者たちは自分たちの尊厳が傷つけられていると感じています。労働者としてのアイデンティティを失いつつある彼らは、労働組合や富裕層、政府など、既存の権力層への不信感を募らせています。そのように絶望的な状況の中で、2016年にトランプ氏が彼らの不満に共感し、支持を集め、大統領選に勝利しました。
そして、ことし2024年、トランプ氏が大統領に返り咲きました。
原書刊行は2016年ですが、いままさに読まれるべきではないでしょうか。
著者がインタビューした、イギリス、アメリカの労働者の生の声も興味深く、それらを読むだけでも面白いです。