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或る小説に栞を

「君が生きてるだけで、君の髪が伸びるだけで
余喘を保った人間がこの世にいたこと
砂塵程度の記憶を抱き締めて寝る私が
君の中の東京でありますように」
ーーーーー「東京ロンリープラネット」35.7ーー


私たち、ひとつも間違いは無かった。
ただ、貴方が貴方でなかったら、結末は変わっていた。
だけど、貴方が貴方でなかったら、神様はプロローグも始めなかった。
貴方が貴方であったから、そこには最も美しいエピローグだけが残った。

貴方の愛の大きさに、私は結局敵わなかったらしい。
だけど、私は私で、自分で思っていたより貴方のことが好きだったみたい。
全力で愛したつもりだったけど、それはきっと恋に過ぎなかった。
貴方の愛は大き過ぎて到底私には見えなかった。私はその中に抱かれていて、それは私の世界であって、その中にいるせいで輪郭が見えなかったのだ。

夢じゃないかと思うような、ドラマチックな物語だった。普通の恋でよかったのに、ドラマチックじゃなくてよかったのに。ただ貴方と私がそばにいられて、二人とも泣かないでいられるような穏やかな恋であったなら。

美しくなりたい。

疑念を抱かない心で、

いつでも清く微笑みたい。

難解な哲学の講義を理解出来る貴方には私の心が難解なようで。頭の悪い私には貴方の全てが難解ですが。

いつか私がいなくなって、それでもいつか手紙を綴ってくれるなら、白い紙に青いインクで。空を汚さないように。
でも、それだと空に融けて届かないだろうか。
それもそれでいいか、その時には私自身が空と融けているんだろうから。
届いても届かなくても、それはあまり関係の無いことね。


これが、いつか迎える幸福な結末のための、第一章だったらいいな。

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