光が降る夜に
二人、夜の雨に歩いた。
花火を真下で見たことは、思えば物心ついてからは記憶になかった。
散る火の花のもとで、降る光のもとで、肩を寄せた。空にあった目をふと横に向る。視線が交わった時の、優しくて静かな微笑みが嬉しかった。雨に濡れたあの人の輪郭をなぞる光に、目が眩んだ。心も眩んだ。睫毛に乗る水滴で光が滲む。
月並みな言葉しか紡げないけれどあの日あの時間、確かに二人の世界があった。花火が上がるたびに起こる歓声を背景に背負っていても、花火が終わった後の雑踏の中にあっても、世界にいるのは二人だけだった。
傾けられた傘と、右側だけが濡れた大きな肩に守られていた。
炭酸のプラスチックボトルのキャップを回したのと同じ指が、今度は私の頬に、唇に触れた。鼻筋をなぞった。浴衣の手首に滑らせた。手を握っていれば、冷えた雨水を通して体温が馴染んでゆく。
夢を見ていたみたいに。まだ醒めないこの夢が愛おしくて、でも脆いものに思えて仕方なくて。
それでも、覚えている。
ずっと、覚えている。きっと。