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猫みたい
私よりずっとずっと大きな身体が、私の腕の中で猫のように丸く小さくなって、体重を預けている。貴方の長い髪を撫でる。伝わってくる熱と拍動が愛おしい。男のひとは短髪派だったのに、貴方のせいでいつの間にか長い髪が愛おしくなってしまった。
本人に明かすのは罪悪感があり気が引けるけれど、最初に貴方に惹かれたのは、私が6年ほど前に恋焦がれ、進路で会う機会が減った後も他の人を好きになった時も薄らと好きで居続けた、ある女の子に似ているからだった。
私よりずっと背が高く、人見知りで簡単には心を開かず、落ち着いた話し方をし、少し猫背で、読書とホラーが好きなインドアで。一方で、私にだけはおどけた姿を見せたり触れ合ったりすることを許してくれる、少しお茶目な一面も持ち合わせた猫のような。
だから、貴方に出会った時、この人ともきっと親しくなれると思ったし、懐かしくも思った。実際、これほどの仲になるとは思っていなかったけれど。今でも貴方と彼女に何か通じるものを度々感じる。
猫のような人って、ずるい。
いつも笑顔で誰にでも愛想の良い人も魅力的だけれど、そうでない人の、見せることの少ない微笑みを稀に自分に向けられると、どうしようもなく気分が高揚してしまう。人に触れることを嫌う人が自分から寄り添ってくると、愛おしくなってしまう。
他にも猫みたいだと思ったことがある。それは、アルコールに蕩けている時。酔ってもほとんど変化がないと以前話していた上、恋人同士でない頃の飲み会で酔っている姿を見ても、実際ほとんど変化がなかった。
しかし、恋人になってから、驚くほど甘えたがりになるのを知った。私も驚いたが、彼の方も自分の知らなかった一面に驚いたらしい。
彼がお酒を飲むと、必ずと言って良いほど私の電話が鳴る。酔ったから電話をかけるならそうでもないけれど、甘えたいからという理由だけで一人でお酒を飲んだ蕩けた声は、愛おしくて仕方がない。
そんなことを考えていたら、貴方が私の方に「猫みたいだね」と言った。私が思っている「猫みたい」とは少し違う意味で。
膝に乗るよう促され、体重を預けた時、普段より口数少なくしおらしくなるところが猫に見えるらしい。
私は正直なところ、自分が話すのが得意だとは思えない。人との関わりは好きで、他の人が躊躇する場面でも初対面の人に話しかけに行くような性格ではある。実際、人懐っこい性格だと見られていることも多い。会って日が浅い人や久しぶりに会う人とはいくらでも話せる。
何が苦手かというと、長く一緒に過ごす人に、自分で話題を提示して話続けることが苦手なのだ。話そうと思えば話せるけれど、ひどく疲弊する。だから、自分を飾らなくて良いと感じた複数人の会話において、話すことを怠り始める時さえある。
一方で、人と触れ合うことは好き。軽薄な人間に思われるかもしれないが、もちろん心を許している間柄での話だ。それだけで満たされる。女性なら理解されるであろうが、中高の女の子のコミュニティはとにかく触れ合いが多い。抱きしめ合ったり、膝に座ったり、腕を組んで歩いたり。私も例に漏れなかったが、それが年を重ねるにつれて減っていくのがひどく寂しい。
そんな私なので、恋人とは口数少なに触れ合い寄り添い合っている時間が好きなのだ。
まだ「猫みたい」になる真相を明かすつもりはない。
もう少しこのまま、貴方の膝の上で温かく柔らかく小さな生き物でいたい。