夏の宵闇、小さな灯
好きな人の好きな小説を読んだ。
透明な水のような、素直な小説だった。
好きな人の好きな音楽を聞いた。
少し変わっていると思ったけれど、彼らしい実直さを感じた。
私の好きな音楽を聞いてくれた。
私の好きな映画を見てくれた。
貴方の瞳にどう映ったかな。
遠く微かな祭囃子、静寂の中の風鈴の音、湿った夏の風、宵闇、そこだけが周囲に取り残されたように人気の無い境内。
予感がした。胸が高鳴った。
遠慮がちだけれど、本当に真っ直ぐな貴方の言葉に、敵わないと思った。選ぶ言葉の美しさが、丁寧さが、誠実さが、私の心に反響した。
いつも冷静に落ち着いている貴方の、震えている指先が愛しくて愛しくて、思わず握ってしまった。
貴方の初めての恋人になれたことが、嬉しくて嬉しくて、心の真ん中から全身に向かって温かいものが広がるような心地だった。
貴方の言葉には、疑いを向ける余地がない。どこか浮世離れしたような、丁寧な言葉選び。私の吐く言葉が持つ、表層だけ柔らかくして撫でるような虚飾がない、だけど優しい。全身を預けて信じさせてくれる。
いつも、大きな身長差を埋めるように、高いところにある顔を下ろして私の声に耳を傾けてくれる。
器用でなんでも持っていたあの人が、数少ない持っていなかったもの。貴方のその不器用さが、誠実さが、私の心の鈍色を晴らしてくれた。光になっていった。
私も、いつも抱え込みすぎる貴方の隣で、照らせる光になりたい。
こんなことを思うのは貴方に失礼かもしれないけれど、この恋は身の丈にあった、安心できる恋だと思っている。あの人との恋を、以前の記事「春が満ちて」で、「透ける桜の花弁が重なって一層桜色が濃い、そんな恋。」と綴った。でも、貴方との恋にそんな儚く消えてしまいそうな脆さはなく、もっと、暖かくて居心地の良い、そんな恋。
ひとまず今は、この灯を絶やさないように、守りたいと思う。貴方の初めての恋人になるだけじゃなく、最後の恋人になれますように、今はただ祈るだけ。