課題研究とミニ四駆(後編)
ミニ四駆を題材に取り上げのには、ちゃんとした電気的な理由があった。
ミニ四駆の動力には、僕達が電気科で学んだ知識がギュッと詰め込まれているからだ。
まずはモーター。
モーターの出力を高めるには複数の方法がある。
①モーター内部の電線の抵抗率を下げる
②モーター内部の電線の巻き数を増やす
③モーター内部の磁界を強くする
プラス1で電源(電池)は、より電圧の高いモノを使用する。
この4つの要素を組み合わせ、既存のモーターの遥か先の出力を僕達は目指す事にしたのだ。
僕達が使用したマシーン(ミニ四駆)は
『アバンテX』
班のみんなでヤマダ電機に買いに行った。
電気工事を体験したり、スピーカーをゼロから作ってる班の友達には笑われたが、僕達は真剣そのものだった。
何の手も加えていない状態のアバンテXを試走させてみた。
…速い。普通に速い。
コレを俺たちは超えることが出来るのか?
そんな不安を抱えながら、僕達は太めのエナメル線と、ネオジム磁石を発注した。
商品が届くまではあっという間で、僕達は不安を抱えながら電線の巻き作業に入った。
この巻き作業が、モーター改良の最難関であった。
班員でローテーションを組み、エナメル線を巻く回数を決めるのだが、実際に作業に当たるのは1人なので、他の班員が普通に談笑をしてしまうのだ。
そっちに気を取られた瞬間に、巻き数を忘れてしまい、トライ&エラーを繰り返す内に、冬虫が飛んでいたのを覚えている。
そんなある日、
「今日も上手く行かねーんだろうなー」
なんて言いながら作業をしていると、電気科の科長が僕達の作業を覗きに来たのだ。
「お、思ったより真剣にやってんだな」
科長はフランクな人だった。
「僕達だってやる時はやりますよ!笑」
「ミニ四駆だよな?お前ら?」
「はい、そうです。」
「ちょっと、着いてこい。」
僕達は科長に言われるがまま、着いて行った。
すると、誰も入ったことの無い部屋に入るように促され、掃除を命じられた。
「僕達、モーター巻かなきゃダメなんで、マジで時間無いんですよ!」
「良いから、掃除しろ、なんか良いもんあったら持って帰っていいから笑」
そして僕らは埃まみれの部屋の整理をしていた。
すると、班員の1人が
「おい、ちょっと!コレって…!」
全員がそちらに注目すると、そこには、ミニ四駆のコースがあったのだ。
どう言うことだろう?
すると、コースの横に平成15年と手書きで記されていたのだ。
更にコースを眺めていると、驚く事に埃を被ったアバンテXも出てきたのだ。
10年以上も前のOBも、僕らと同じように課題研究の題材にミニ四駆を採用していたのだ。
それも、僕達と同じマシーンで。
僕達は全員、奮い立った。
この時の先輩がうまく行ったのかどうかは、知る由も無い。
だがしかし、この部屋に残してあると言う事は、後輩へのバトンを託したと言う事だろう。
僕達はギアを何段階も上げ、作業に着手した。
巻き数の調整、一巻きの定義を改め直し、共通の認識を正した。
誰かが巻いている間は、一切の雑談を禁止し、複数人で巻き数を見届ける。
余った班員は、コースの組み立てや、動画撮影の準備に当たっていた。
そして、僕達はとうとう完璧に巻き作業を終えたのだ。
奮い立つ僕らの熱気をやわらげるかの様に、空からは初雪がチラついていた。
そして、巻き終えた電線をモーターに組み込み、ネオジム磁石で磁力を強める。
色んな種類の電池を買って、1番電圧のバラツキも少なく、高出力の期待できるメーカーの電池を用意。
そして、そのモーターと電池をアバンテXに搭載する。
先輩方が残してくれたアバンテXにー。
コースを拭き上げ、ストップウォッチの動作を確認。
動画撮影の準備も整った。
そして、僕らはアバンテXのスイッチをONにし、スタートラインに置いた次の瞬間ー。
ゆっくりと後退した。
課題研究とミニ四駆。
完。