同居中の相方の奇食
僕は相方と東京都は葛飾区にて同居している。
家賃は半分でいいし、炊事、洗濯、その他諸々の家事も交代交代でやっている為、正直これといったストレスも無く過ごしている。
だがしかし、気になる点が一切無い訳では無いのだ。
相方は社会人時代に一人暮らしの経験がある為、整理整頓やスペースの有効活用なんかの面においてマウントを取ってくる節があるのだ。
確かに、僕は整理整頓が全く出来ないし、「浮かせる収納」なんかも、相方と住まなければ一生知る事が無かったであろう。
なので、そこら辺は自分に非があると思い、海のような広い心で受け止めている。
ただ、相方の「料理出来るマウント」には、正直、鬱陶しさを感じているのだ。
確かに、料理は上手いと思う。
実際にめちゃくちゃ美味しいし、家にあるもので何かを作れるという、手数の多さも大したもんだと思う。
けれども、僕が作った料理だって、美味しい自信がある。
僕の通っていた高校の学食の人気メニューを再現したり、お酒が進むアテや、ガッツリご飯が進むようなメニューも人並みには作れている自負がある。
だが、相方は「料理」の点において僕を認めたく無いというプライドがある。
絶対にある。
それが言動に出ている。
例えば、僕が作った炒め物を食べた時
「うわー、腹減ってるから美味いわー」
とか、
「焼肉のタレの味付いてるだけで旨いな」
とか。
素直に「美味しい」の一言が言えない可哀想な奴なのである。
「腹減ってるから」
「焼肉のタレが〜」
コチラは言質も取ってある。
裁判になれば、勝訴だって確定している。
それに加えて、僕と相方でどっちの方が繊細な舌を持っているか勝負をしたならば、それも僕が勝つと思う。
相方は
「三つ葉には味が無い」
とか
「パセリは入れても入れなくても一緒」
とか言ったりするくらいだ。
お金をかけずに日々の食事をする分には、三つ葉もパセリも、確かに削れる要素ではあるとは、僕だって思う。
だがしかし、三つ葉やパセリに味が無いと言うのは、流石に味覚がザリザリに錆びている。
そう思うのは僕だけでは無いだろう。
そして、そんなグルメなのかそうじゃ無いのか分からない相方の食に異変が起きていたのだ…。
今月、僕は地元の宮城に帰り、家族と過ごしたのだ。
もちろん、その間相方は東京に1人留守番だった。
そして、1週間程宮城で過ごした僕は、高速バスに乗り、高層ビルがひしめき合う光景に吐き気を覚えながら東京に戻って来た。
電車に乗り換え、家路を辿り、鍵を開けると相方は居なかった。
シンプルにバイトだったのである。
だがしかし、1週間ぶりの家。
何か様子が変なのである。
広くなっている。
錯覚や、思い込みでも無く、完全にキッチンの一部屋が広くなっているのである。
相方は僕がいない1週間で徹底的にキッチンの一部屋を掃除、片付けをしたのだ。
まるで他人の家に来たように思えた僕は15分ほどウロウロしていた。
すると、電子レンジの横に今まで無かったモノがあった。
キッチンタイマーである。
きっと奴はキッチンタイマーをセットしながら鶏肉や野菜なんかを煮炊きしていたのであろう。
そして、僕に
「キッチンタイマーって知ってる?便利だからお前も使ってみるといいよ。料理の幅と効率が見違えるよ。」
と、鼻毛を出しながらドヤ顔で言ってくるのであろう。
そんな事を思い腹を立てていると、疑問に思った事があった。
アイツはこの1週間、何を食べていたのだろうー。
そう思い、すぐに僕は冷蔵庫を開け、食材の確認をした。
すると、衝撃の光景がそこにあったのだ。
チューブの柚子胡椒が1本。
以上。
え?
嘘でしょ?
僕は全段確認した。
冷凍庫だって、くまなく見たが、柚子胡椒1本がそこにあるだけだったのだ。
人体を形成するのに必要な栄養素がこの1本に全て含まれているわけが無い。
豚、鶏、ましてや牛などと言った肉類はもちろん、ひとかけらの野菜も無いのだ。
本当に柚子胡椒1本だったのだ。
「三つ葉やパセリは、不必要なものである。」
そう僕に言った手前、味変要素の幹部である柚子胡椒への愛を隠していたのだろう。
この1週間、奴は白ご飯に柚子胡椒を絞って舌鼓を打っていたのだ。
否、白ご飯も無かったかもしれない。
柚子胡椒を舐めっていただけかも。
もしかしたら、相方は魯山人の様な真の美食家だったのかもしれない。