ヘビの餌:餌としての ”有毒両生類”
一部の両生類は皮膚から毒、それもかなり強い毒性をもつ成分を分泌して外敵から身を守ることが知られています。
したがってヘビの餌として与えることはできない、というのが一般的な認識ではないかと思います。
しかし、実際には自然下でそうした強い毒をもつ両生類を食べているヘビが相当数いることもわかっています。
国産のヘビでよく知られるところでは二ホンヤマカガシRhabdophis tigrinusでしょう。彼らはヒキガエルの仲間を常食しているようです。
飼育下においてもアズマヒキガエルなどを与えると喜んで食べます。現在では "特定動物" のリストに記載されているので、愛玩を目的とした飼育許可を新たに取得することはできませんが……。
一方、国外のヘビではガーターヘビThamnophis の一部の亜種が "猛毒" として知られるサメハダイモリTaricha granulosa を常食していることが知られています(科学者が極度の耐性の背後にある遺伝学を特定 |バージニア工科大学ニュース|バージニア工科大学 (vt.edu))。
サメハダイモリは他のイモリ類と同じく、アルカロイド系の毒素・テトロドトキシン(TTX)の一種を皮膚から分泌することがわかっています。
彼らの分泌する成分の毒性はかなり強いとされていますが、ガーターヘビはこの毒素に対する抵抗性をもっているようで、飼育下で与えても問題なく食べます。
*ガーターヘビの亜種、すべてに与えてみたわけではありませんが、少なくともカナダ・北アメリカ産の数種については特に選り好みせずに食べてくれました。
また、イモリの種ついてはサメハダイモリのほか、国産のアカハライモリCynops pyrrhogaster、シリケンイモリCynops ensicauda、マダライモリTriturus marmoratus、さらには同じアルカロイド系のサマンダリン(Samandarin)をもつファイアサラマンダーも食べました。
もちろん食べた後に何らかの健康障害、排せつ障害などが起きたということもありません。
もっとも栄養価や定期的に給餌することを考えた場合のコストパフォーマンスを鑑みると、わざわざ与えるべき餌動物ではありません。
とはいえ、ガーターヘビの飼育に当たって拒食の際の "対応策" の一つとして、これらも食べるということは知識として知っておいてもよいかもしれません。
ほかに、南米の一部のサンゴヘビ(Micrurus lemniscatus)はある種のアシナシイモリ(Caeciliidaeの一部の種)を常食しているとされています。
私はかつて(利用したのは東南アジア産ですが)冷凍→解凍したアシナシイモリをとあるナミヘビ科の "雑食性” のヘビに与えてみたことがありますが、問題なく食べました。
アシナシイモリのように ”細長い形状” をした動物はヘビが食べやすいことに加え、両生類の中でもこのグループが遺伝的に爬虫類や鳥類、哺乳類(いわゆる羊膜類)に近いとされていることも、ヘビの嗜好性が高いことにつながっている可能性がありそうです。
アシナシイモリ類も ”これも食べる可能性がある動物” として与える餌の選択肢の1つに加えてみてもよいかもしれません。
ヘビの餌としての両生類は、まだまだ給餌・成功事例が少ないだけに実験的要素が強いこと、一部の種は強い毒素をもつことから安易に与えるべきものではないかもしれません。
しかし、”まだよくわかっていない” からこそ、新しい ”よりよい餌” としての可能性をもっているとも言えるでしょう。
そもそもヘビの味や匂いに対する察知能力は高いので、誤って食べてしまい死んでしまうというような事故の可能性はそれほど高くないと思われます。(健康に害がある場合には食べない可能性が高い)
今後ある程度安全が確認された餌、そして嗜好性が高い餌についてはこちらの記事か、X(旧twitter)でご報告させていただきます。