キング牧師の教会で勝手に許されたと思った日
古い旅行記。
2019年5月、Montgomery。
Alabama州のMontgomeryに着いてすぐにキング牧師が務めていたDexter Avenue King Memorial Baptist Churchを尋ねた。見学ツアーがあるとのことでさっそく参加。中学生くらいの社会科見学なのだろうか、約30人の子たちと一緒に教会内を巡ることになった。ツアーのガイドである協会のスタッフがぼくの方を見て、あなたはどこから来たの?というので日本だよと答えたら、中学生たちから驚きの声が上がった。その驚きに反応して、ぼくは皆の中心に出されて日本語講座が開かれた。
スタッフ「あなたの名前は?」
ぼく「Shinだよ」
中学生たち「ハーイ、Shin」
スタッフ「日本語でHelloはなんていうの?」
ぼく「こんにちは」
中学生たち「コンニチハ」
なんて感じで。
その後も移動中に子どもたち何人かがまとわりついて「〇〇は日本語でなんていうの?」と楽しい時間を過ごした。アラバマ州からみたら日本はどこにあるかも知らない謎の国だろう。
最後は皆で手を繋ぎ公民権運動の象徴的なゴスペルWe Shall Overcomeを歌った。ぼくはクリスチャンではないのでキング牧師のいた教会でこの歌をうたったことは恐縮しつつ、しかし感動した。メロディ知ってても歌詞は知らなかったが…
そんな日本語講座的なことがあったからか、中学生たちが帰った後、スタッフのひとり、シルビアさんといろいろと話すことができた。聞きたかったことも聞けたし、撮影禁止の場所でも一緒に写真を撮った。
そして、シルビアさんに長い間モヤモヤしていた正直な思いを伝えた。
ぼくは高校生の頃からソウルミュージックが大好きだった。フォークもロックも歌謡曲も聞かなかった。19歳くらいにHip Hopが日本にも伝わってきて聞くようになると何かただ事じゃ無いことに気づき始めた。彼らの歴史だ。インターネットなんかない時代だから何冊も本を読んだ。奴隷史、公民権運動、関わる人々のこと。
知れば知るほど、能天気にアメリカ黒人の音楽を聞くだけではいけないという思いが強くなっていった。バンドでソウルを演奏することも同じ気持ちだった。異文化の人間が彼らの文化を楽しんで良いのだろうかと。
彼らの文化に敬意を表すことが、この旅の理由だ。
シルビアさんにはニューオリンズからここまでの道のり、ミシシッピー川沿いのプランテーション、いくつかの公民権運動の博物館、メンフィスのキング牧師が暗殺されたモーテル、リンチで亡くなった方の記念館、ほか、話をした。そして、ぼくは子どもの頃からSoulミュージックが大好きで、だからあなたたちの歴史、文化を知る必要があるんだ。この旅はそれが目的なんだと伝えた。するとシルビアさんの表情が一変して涙ぐみもの凄い力で抱きしめられた。あれはHugではなかった。強く抱きしめられ、感謝の言葉を伝えられた。こちらこそ感謝なのだが。
ぼくは勝手に許された気持ちになった。Soulが好きでよくて、演奏もしてよくて、これからも楽しんでいいんだと、ぼくにとっては大きな一瞬だった。
今でも彼女とはSNSで繋がっていて、友達にJapanese Friendと紹介してくれるし、Montgomery市長に初の黒人がなった時はメッセンジャーでその事の重大さと喜びを知らせてくれた。https://en.m.wikipedia.org/wiki/Steven_Reed_(mayor)
John Lewisが亡くなった時もお悔やみを送って、彼女も彼の棺がEdmond Pettus Bridgeを渡る時の現地の写真を送ってくれた。
先週はMLK Dayの様子を知らせてくれた。
ぼくのバンドのビデオにもHeyyyy Yessssss I love it♥️なんてコメントくれる。
今では彼女は大切な友人だ。
また会いに行くには遠すぎるが、でもまた会いに行きたい人がいることが幸せだ。