【パティスリーラヴィアンレーヴ・北西シェフと対談】洋菓子業界の最大の課題とは
こんにちは、Cake.jpの高橋です。
これまでCake.jpを立ち上げた背景についてご紹介させていただきましたが
切っても切れない背景として、
「洋菓子業界の課題解決への貢献」という大きなミッションがあります。
今回は、よりリアルな現場の課題を知っていただきたく、
Cake.jpにも加盟いただいているパティスリーラヴィアンレーヴのオーナーシェフの北西大輔さんとお話した内容を皆さんにもシェアしたいと思います。
なぜ北西さんと話したいと思ったのか
以前より交流がありましたが北西さんのX(旧Twitter)での投稿が目にとまりました。
非常に熱度の高い発信をされており、今起こっている洋菓子業界の課題、
そしてその解決に必要なこと、最前線なお話が聞けると思ったからです。
Cake.jpは洋菓子業界に少しでも貢献したいと思い、ビジネスをしていますが、それには生の声を聴き続けることが大切です。
北西さんにオファーしたところ、快諾いただきました。
(洋菓子業界最繁忙期のクリスマスシーズンに!本当に有難い・・・。)
パティスリーラヴィアンレーヴおよび北西さんのご紹介
お客様に洋菓子とともに、夢の様な時間を過ごしてもらいたいという想いから、2014年、足立区梅島に「パティスリーラヴィアンレーヴ」をオープン。
ラヴィアンレーヴとは【夢の人生】という意味。
【北西さんのプロフィール】
高校卒業後、パティシエの世界へ。
22歳より都内一流ホテルなどで修行。その間、国内最大のコンクールで優勝を果たす。
30歳の時、渡仏。パリの有名パティスリーにて1年半の修行。フランスのコンクールにおいて準優勝や入賞多数。
本場フランスにて、本物の洋菓子に出会い、衝撃を受ける。
常に最新のことを学ぶフランス人の姿勢に感銘を受け、現在のスタイルに。
洋菓子業界が過酷な労働環境である理由
1.労働時間の長さ=技術が身につく対価という認識
高橋 北西さんのXでの投稿を拝見しました。洋菓子業界の課題のひとつである労働環境について、7~8年前まであまり表面化していませんでしたが、ここ数年ニュースやSNSを中心に話題になっているなと感じます。背景は何だと思いますか?
北西 労働環境は昔より良くなりましたが、働き方改革がされている世の中の流れで、有名店の状況がニュースになり、認知が広がったんだと思います。
これまでの洋菓子業界はほぼ残業代はゼロだったんですよ。
朝6時から仕込みをして、仕事が終わるのは日を跨いでからというのが一般的で。休みも過酷なお店だと、週1日あればいい方という状況でした。
それでもその仕事のやり方が当たり前だったのは、
「技術が身につくその対価としての労働」というのが成り立っていたからなんですよね。
高橋 私はエンジニア出身でして、エンジニアの世界にも似たようなことがあります。プログラミングを覚えるときに1日15時間は勉強の時間に当てていました。ある適度量をこなさないと技術が伸びていかない。
自分も技術が好きで、時間を惜しんでも攻略したいと思ってたんですよね。
北西 確かにそうですね。洋菓子業界に限らずものづくりの業界大半があてはまると思います。ただ、労働時間で考えると洋菓子業界が一番かもしれないです。
2.労働時間に見合っていない単価設定
北西 この問題で重要なのは、労働時間に見合っていない単価で販売されていることなんです。
ケーキづくりは、早ければ前々日から仕込みを始め、そして販売する日の朝最後の仕上げをします。物凄く手間と時間がかかるんです。
ところが、できあがったケーキは安いところで1カット数百円程度で売られています。
高橋 ケーキ1カットの妥当な金額っていくらぐらいでしょうか?
北西 1カット1,000円くらいでの販売でないと正直成り立たないと思っています。ところが、お客様のケーキの金額との認識にギャップがある。
そのため、売れない、潰れるという負の連鎖が起きています。
形のないものから材料をこねてつくっていくのでケーキづくりは時間がかかります。シェフが手作業にこだわっているとなおさら原価、時間が嵩みますね。
高橋 確かに、手作業は時間がかかりますよね。スポンジなど既製品を仕入れてケーキをつくるというやり方もあると思うんですが、北西さん的にはどう思いますか?
北西 わたしは、時間短縮できるならアリだなと思います。この考え方はオーナーシェフによってさまざまなので、浸透するかは別問題ですが。
3.閑散期・繁忙期がはっきりしている業界
高橋 クリスマスといったシーズナルイベントや、誕生日会が開かれる週末は、ケーキを購入するユーザーが多く、洋菓子業界の繁忙期といわれていますが、洋菓子業界は閑散期と繁忙期の差が大きいと感じます。
北西 クリスマスからバレンタイン・ホワイトデーと寒い時期は忙しく、夏は閑散としています。売り上げで言うと約2倍ほど違います。忙しいからと言って人を増やせるわけではなですし、その逆もしかりなのが現実です。
高橋 余暇時間があることも利益率を下げている要因ではないでしょうか。
北西 そうですね、なので製造・業務量の平準化が大事だと感じます。冷凍ケーキの普及が一役かってくれてます。夏のうちに冷凍ケーキをつくって、冬の繁忙期の業務を少しでも減らすというやり方です。
高橋 Cake.jpが誕生日ケーキに注力しようと決めたのも近しいです。シーズナル関係なく売れる商材なので、偏りなく年間通して売り上げのベースができています。
課題を解決していくには
1.冷凍ケーキという選択肢
高橋 店舗の余暇時間に冷凍ケーキを作りだめられれば効率的ではありますが、実際に冷凍で売ることができる洋菓子は全体のどのくらいありますか。
北西 3分の2は冷凍のままでも売ることができますね。冷凍で販売できるものは作業工程に冷凍が入っています。
高橋 そんなに!思ったより多い印象です。
北西 Cake.jpさんとご一緒させていただく前から冷凍の製法は取り入れていました。フレッシュな果物を使ったタルトやイチゴのショートケーキなどはお店で毎朝つくっていますが、ムースは冷凍で作っていますね。
むしろ冷凍のまま販売し、食べるときにお客様自身が解凍した方がおいしくお召し上がりいただけます。生クリームも冷凍できる配合に変えれば何の問題もないです。
高橋 実は冷凍のまま販売した方が、食べるタイミングで解凍でき一番鮮度がいいものをユーザーも食べれるので、作り手・買い手双方にとって良いんじゃないかと、私も常々感じていました。
冷凍によってどのくらい作業の効率化ができますか?
北西 毎日数個しか仕込めなかったのが、冷凍を取り入れることによって、一日で一種類、大量に生産できるのでだいぶ作業効率が良いです。材料のロス削減にもつながっていると思います。
2.付加価値を高める
高橋 ケーキ1カットの金額の妥当性という話がありましたが、高くても買いたいとユーザーに思ってもらうことが大事かなと自分は思います。
Cake.jpの場合、ネットでわざわざケーキを買いたいと思ってもらうことも必要です。
他では手に入らない商品、店舗では対応が難しいカスタマイズができるケーキのラインナップを増やすといった取り組みを行っています。
北西 お寿司を例にあげますが、回転寿司なら2,000円程度で食事ができますが、銀座のお寿司屋さんには2万円払ってでもいきたいと思えたりしますよね。使っている材料、職人の腕、味、雰囲気これらを総合してお客様は値段の妥当性を判断します。
ケーキの付加価値を上げるには、いい材料を使う、このお店にしかない絶対の味、美味しさが必要だと思います。
3.パティシエのモチベーション向上
高橋 洋菓子業界の過酷な労働環境の中でパティシエさんはどういったモチベーションで働いてますか?
北西 技術を磨いて自分のお店を持ちたいというモチベーションじゃない子たちは辞めていってしまう傾向にありますね。
高橋 離職率は高いと?
北西 製菓の専門学校では、10年後にパティシエを続けている人は100人中一人か二人と言われています。採用する際も半数くらいや辞めてしまうという感覚で採用しています。どこまで技術を教えるかが難しいところです。
高橋 パティスリーラヴィアンレーヴさんでは、働いている若手のパティシエさんのオリジナルブランドをつくり、それを販売するといった取り組みをされていますよね。ユーザーにも自分がつくったものを認めてもらい、さらにそれが売り上げにもなるという取り組みがいいなと思いました。
北西 この取り組みは結構いい効果がでています。オーナーシェフから指示されてつくるものと、自分がつくりたいものをつくるのとでは、だいぶ気持ちが違います。お店に出せる商品をつくれると嬉しいし、自分の武器にもなります。普段の仕事も、言われたことをやるだけ、ではなく自分自身で考えて行動するという相乗効果が見られました。
高橋 それはいい傾向ですね。他にも実施していることはありますか?
北西 パティシエは、技術・知識が大事です。外部講師を招いて勉強会を行っています。例えば、普段接している生クリームひとつとってもなぜ生クリームが泡立つのかその知識があるだけでも仕事に深みや楽しみを見出すことができます。
高橋 北西さんご自身も多くの洋菓子大会で受賞されていますが、こういった大会への出場もモチベーションにつながっていますか?
北西 自分の世界観を表現するというのは、お店で働いているとなかなかできないんですが、大会への出場は自分を表現し、さらに評価してもらえるというのがモチベーションにつながります。それに技術をあげるための一歩にもなります。
大会でいい結果となれば、自分でお店を開いた時にも有利になります。
高橋 私も定期的に受賞作品はチェックしているんですが、実際にユーザーに販売できたら面白いなと思いました。企業のパーティーや社内行事では、結構独創的なデザインのケーキがうけるので、ニーズがあるかもしれません。
さいごに:今年のクリスマスを振り返ってみて
高橋 洋菓子業界最繁忙期のクリスマスが終わりましたが、今年のクリスマスはどんな傾向がありましたか?
北西 Cake.jpさんへの出店だけでなく、百貨店での販売もおこなったんですが、今年は店頭受け取りの方が増えたなと感じます。
高橋 そうなんですね。私自身感じるのは、たとえ予約をしていたとしても、クリスマスケーキの受け取りに行列ができてしまうので、並ぶのがつらいな、と。ネットだとその必要がないので、便利だと思うんですよね。
北西 去年はまさにその傾向でしたね。ネットで購入して自宅で受け取るという方が圧倒的でした。今年コロナが明けて久しぶりに店頭で受け取ろうと考えた方が多いのではないでしょうか。
きっと来年は、自宅で受け取りの方が増えると思います。
やっぱり家で待っていた方が楽だな~と感じるんじゃないですかね。
高橋 一度ネットでの購入を体験いただければ、利便性を感じていただけると思います!北西さん本日はお時間いただきありがとうございました。
まとめ
自分が、Cake.jpを立ち上げる以前から洋菓子業界の労働環境の課題はありました。その中で業界全体の流れとしては、洋菓子店の専門店化、SNSを活用した集客、半製品の活用など、課題解決に向かって良い方向に進んでいると感じることも多いです。
Cake.jpとしては、企画力を活かした商品力向上、インターネットの仕組みを活用した集客、冷凍ケーキの開発を切り口に課題解決をしていければと考えています。
Cake.jp立ち上げ当初のことを少し思い出しました。出店してくれるケーキ屋さんを探しているとき、どのケーキ屋さんも口をそろえて、「夏はケーキが売れない」といっていました。そこで、インターネットで誕生日ケーキを販売すれば、年間を通して安定した需要を獲得できると考えました。洋菓子の数あるジャンルの中で、誕生日ケーキを最初に選定したきっかけです。
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