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「旅感」をもとめて パート2
新千歳空港から喜茂別の宿まで自転車で向かうため、私は4泊5日のレンタサイクルを独自交渉すべく歩いて自転車屋さんを探しはじめた。
時刻はすでにお昼の12時前。
野を越え山を越えて70㎞離れた宿に向かうには、どんなに遅くとも14時には出発しなければならないだろう。
まずは憶えのある自転車屋さんを訪ねた。
4年前に千歳を訪れた時に見かけた、駅から一番近い自転車屋さんである。
記憶よりも外観がキレイだったので、少しアテが外れた感じがした。
独自交渉の申し出は、猥雑な店のほうが融通が利きそうな気がするからだ。
中に入って40歳前後と思しき男性に、「やっすい中古自転車ってありますか?」と声をかけて、「中古は一台だけ、、、」と見せられたのが、1万5千円するものだった。
「横流ししてるならまだしも、きちんと整備するとそれなりの値段になっちゃうんですよね、、、」と言うだけあって、確かに中古らしからぬピカピカの一台であった。
「なるほど、ボロボロの横流し品を探せばいいのか。」と要領を得た私は2件目を探した。
店員さんによると、前の道を2㎞ほど進むとリサイクルショップがあるとのことだった。
歩いてその店に行ったが、外観からして大手チェーンのキレイなリサイクルショップ然としている。
こういう店は中古でもそれなりの値段がするうえに、交渉などできる余地もない。
「ハズレやな、、、」と思いながらも中を除くと、数万円のスポーツサイクルが3台ほど並べてあった。
早くも打つ手をなくした私は、嗅覚だけを頼りに自転車屋さんを探して町を散策することにした。
私は鼻が大きくて犬顔なので、鼻が利くはずだ。きっとすぐに見つかる。
ちなみに鼻が大きい男は股間も大きいという話をよく聞くが、私のそれは大きい方ではないと思う。
そうこうしているうちに次の店が見つかった。
近づくとあまり手入れされていない様子の雑多な玄関まわりが目に入り、期待が高まる。
そして店内に入り興奮はピークを迎えた。
乗り古したような日常使いの自転車がまばらに置いてある。
道具や部品などに加えてゴミとの区別がつかないようなものまでゴロゴロしているではないか。
「これや!この感じや!」と当たりを引いた気分で店主を探す。
ちょうど12時半頃だったので奥でお昼を食べているのだろうか。
呼びかけて出てきたのは自転車修理などしそうにもないおばあちゃんだった。
旦那さんは出かけているのだろうか。
ボロボロでもいいんで中古自転車はありますか?とたずねると、「中古は扱ってないんや。」という驚きの返事が。
新車がある雰囲気でもなく、いったい何なら扱っているんだと思ったが、聞いても仕方がないので次だ。
近くにも自転車屋があり、そこならば、、、。という情報を得て再び歩き出した。
その道すがら、廃品置き場かと思うくらいモノにあふれた建物があった。
リサイクルショップのようで、道沿いに自転車も置いてあるではないか。
マウンテンバイクの値札を見ると、14,800円。その隣のロードバイクは19,800円。
「うぅむ、、、」と唸ってから中に入り、店主と思しき初老の男性にボロボロの安いママチャリはありませんかと聞く。
すると、「あぁ!たったいま2,800円のが売れたとこですわ!」というではないか。
「店の前にある自転車は4泊5日で貸していただくとなると、いくらになりますか?」
安い自転車をタッチの差で逃した悔しさもあり、5日間3,000円で貸してもらうべく交渉をはじめた。
「う~ん、、、これキレイやからな、、、。」
という前置きのあとに提示されたのが、5,000円であった。
「ちょっと予算オーバーっすわ。安くなりませんか?」と聞いたものの、
「5日間やろ?喜茂別まで往復したらタイヤも結構すり減るやろうからな、、、。」
オジサンは5,000円を譲らなかった。
そこまでタイヤすり減るかいなと思わなくもなかったが、さっき聞いた自転車屋さんが目と鼻の先だったので、そちらに行くことに。
リサイクルショップのおじさんも、「事情を伝えるといいよ。」と言って送り出してくれた。
5件目の店も雑多な感じで期待できそうだ。
店主が某バイクメーカーの紺色の半袖ツナギ姿で現れる。
ほとんど白髪に近い角刈り頭で、背中も丸く70歳近いのではという印象であった。
「かくかくしかじかで喜茂別まで行きたくて、、、。」と説明する。
「北海道は前にも?」みたいな話になり、思い出話で人情に訴えかける作戦に出た。
「ええ、北海道が大好きで、あんなこんなで、、。」などとアピールしていると、おじさんは言った。
「昼ごはん食べてから倉庫見に行くから、30分後くらいに来てくれるか?」という話になり、私は交渉の成立を確信した。
イオンで安いうどんをすすってから悠々と自転車屋さんに戻ると、さっきまでなかったシティサイクルが置いてあった。
色あせて何色かよくわからない薄紫っぽい車体は随所にサビが浮いていて、スポーク(タイヤの骨みたいなやつ)にいたってはほとんど全部サビに覆われている。
まさに追い求めていた究極の一台だった。
最高の笑顔でおじさんに感謝の意を述べてから、「ちなみに4泊5日でおいくらですか?」とたずねた。
買い取っても3,000円はしないだろうというほどのボロさに、さきほどの「思い出話作戦」が効き目を表して、あわよくば1,000円から2,000円くらいか!?などと期待がふくらむ。
おじさんがハンドルを握ったままうつむいて静止していた。どこまで安くするか考えてくれているのか。
顔を上げたおじさんは、ハンドルを握ったまま当然といった表情で言った。
「7,000円。」
雷にうたれた私は思わず、「え?」と驚きの声をもらした。
私が聞き取れなかったと思ったのかおじさんは、「7,000円。」と繰り返す。
「たっ、、かっ、、いですね、、、。」
またしても本音が漏れてしまう。
おじさんは「タイヤが古いから、今から新品にとりかえる。」と言うので、
「いりません!いりません!いりませんので安くしてください!」と伝えたが、値段は変わらないようだった。
サビだらけのシティサイクルで法外な値段をふっかけてくるなんて、このオヤジはいったい何を考えているんだ。
僕の見た目がいかにも純朴そうだから通用するとでも思ったのだろうか。
もしかすると、キラキラした「思い出話作戦」が裏目に出たのかもしれない。
世間知らずと踏んで大きく出てきたのだとしたら、とんだタヌキジジイだ。
いまだに大学生かと尋ねられる事もある容姿だが、私はもうすぐ31歳だ。そんな手は食わん。
わざわざ探してきてくれたので少し悪い気もして、その労力を詫びてから断った。
「そう?なら他のとこも聞いてくるといいよ。」と、さも「どこでもそのくらいの値段はするよ?」とでも言いたげだった。
「そうします。」と笑顔でこたえながらも、
「このタヌキジジイが!すぐそこのリサイクルショップはちゃんとしたロードバイクが4泊5日で5,000円じゃ!」と心の中で叫びながら店をあとにした私であった。
はたして、私の自転車旅はいかに。
つづく。
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