【40分台本 2♂2∞1 】 Honey&Bear 第三話 「潜入」
【あらすじ】
実在するロサンゼルスを舞台に、派手な盗みを繰り返す『怪盗Honey&Bear』。それを追うロス市警強盗殺人課のマーシャルとアレックスの元に、ある日、彼らからの予告状が届く。
『2月28日 午前-時 ロサンゼルス自然史博物館、
ベニト石を頂きに参る。Honey&Bear』
その予告状から、彼らが思いもしなかった事件が始まるのであった……。
【シナリオ約束事項】
利用条件などはシナリオの約束事項をお読みください
https://note.com/caitsith151/n/n2c2f578d39d0
その他:
・∞は男性、女性どちらでも演じていただけます。
・ベニト石は、べにといしで統一してください
・note版とは一部表現が異なります。使用時は各メンバー使用台本を統一してください。
【登場人物】
○ハニー
性別・♀
怪盗ハニーベアのプランの立案、盗み実行役など体力面を担当。
セクシーでキュートな見た目に反して体術などを得意としており、ベアとはとある事件をきっかけに、共にチームとして『盗みはクレイジーなほど面白い』を信条に怪盗劇を続けている。刺激的なものや、面白そうなものを見つけると「セクシーじゃない?」という口癖がある。
・性格:過去の記憶を失っているが、楽天的で好奇心のままに現在を生きている。頭脳明晰だが、あくまで動機は「楽しいか楽しくないか」。人を茶化すのが好きな小悪魔タイプ。だが、過去を思い出しかけるとナーバスになる。
・好きなもの:スリル、美しいもの、ミステリアスなもの。かわいいもの。
・参考年齢:19〜28
・雰囲気キーワード:セクシー、キュート、小悪魔、アクティブ
・口癖:セクシーじゃない?
○ベア
性別・♂
怪盗ハニーベアのハッキング、電気、機械系統、ドライバーをこなすオタクハッカー。Honey &Bearでは頭脳面を担当。とある事件をきっかけに、ハニーに『盗み』出されたことをきっかけに、チームとして『盗みはクレイジーなほど面白い』を信条に怪盗劇を繰り返している。本人は今の暮らしを気に入っており、ハニーは相棒としてしか見ていないが、恋愛とは異なる特別な存在として認めている。
・性格:オタクだが、熱く純粋。天才肌で、集中すると目の前のことしか見えなくなる。また、ハイテンションになると大好きな、チーフガードナーのフィギュアに早口で話しかける癖がある。
・年齢:19〜32(ハニーの立ち回りによっては、お兄さん、ショタもあり)
・雰囲気キーワード:オタク、情に厚い、厨二っぽいワル
・好きなもの:ネット、発明、エナジードリンク、ゲーム、アニメ、チーフガードナー
○マーシャル
性別・♂
ロス市警警部/強盗殺人課 『ハニーベア』事件の担当。古風な警察官だが、勘が鋭い。仕事でも実直であり、捜査は資料と現場、足で稼ぐタイプ。仕事一徹の彼だが過去にリアーヌ・カウチという女性と交際しており、突然消えた彼女のことを今も忘れないでいる。
・性格:冗談を言わず、冗談が通じないタイプだが、ハニー&ベアの捜査でヤケになっている部分があり、冒頭で冗談を言うシーンがある。感が鋭い。
・年齢:35〜50
・雰囲気キーワード:渋い、古風、熱血漢
・好きなもの:タバコ、酒、コーヒー、つば広の中折れ帽子
○アレックス&執事(兼ね役)
●アレックス
性別・♂♀どちらでも演じられる
マーシャルと同じく、ロス市警警部補/強盗殺人課 『ハニーベア』事件担当。マーシャルの秘書的な位置にいる。主に、情報整理、収集を得意としており、頭脳派。実は、署内ではエリートコースを歩んでいた敏腕。だが、マーシャルに憧れ、強盗殺人課への配属を希望した。
・性格:真面目で誠実だが、マーシャルと違い、柔軟で従順。データ分析にも長けており、時にマーシャルよりも早く事件の核心に迫るが、あまりに飛躍している事実が多いため、「まさかね」と自分で終わらせてしまうことが多い。
・年齢:20〜50
・雰囲気:秘書、冷静、真面目、マーシャルを尊敬している
・好きなもの:シワのないスーツ、仕事道具、コーヒー
●執事
性別:♂♀どちらでも演じられる
「カウチ家」に仕える執事。存在はまさに執事然とした柔らかな物腰だが、その存在は謎に包まれている。温和だが、自分の役割を優先することを常としている。しかし、一方でリアーヌに同情し、ブラックリリーの後始末やサポートも行うことになり、両立できない思いに悩んでいる。
・性格:実は「カウチ家」の執事とは別の役割も担っている。だが、本話ではあくまでカウチ家の執事、かつリアーヌを心配する保護者のような立ち位置である
・年齢:25〜70
・雰囲気:キーワード・従順、丁寧、誠実、ミステリアス
○リアーヌ&ブラックリリー
性別:♀
リアーヌはベニト石発見者の家系の一人娘。だが、生い立ちのコンプレックスに苦しむあまり、残酷な怪盗ブラックリリーの人格を生み出してしまった。しかし、本質は自分の運命を呪い、つまらない女と自分を責め、苦しむ女性である。ブラックリリーとして、マーシャルに近付くも……恋に落ちてしまう。
・性格:リアーヌはブラックリリーを生み出したが、ダニエの事件以降に全身にひどい火傷を負ってからは、ほぼ発狂しており、リアーヌとブラックリリーが混ざり合っている。
・年齢・35〜40
・雰囲気キーワード:優雅、大人な女性、コンプレックスをもつ、影がある
・雰囲気キーワード(ブラックリリー時):妖艶、狂気、攻撃的
♦♥♦―――――以下、本編―――――♦♥♦
-ベア、タイトルコールしてください
ベア:Honey&Bear 第三話 『潜入』
-ベアのナレーションと、キャスト全員の前回のセリフで海外ドラマっぽく演じてください。
ベア:前回までの、ハニー&ベア……。俺とハニーはロサンゼルス自然史博物館にある、ベニト石を狙っていた。
マーシャル:『2/28 午前-時 ロサンゼルス自然史博物館、ベニト石を頂きに参る。ハニーベア』か……。
ベア:だが、盗みは失敗。ハニーは銃弾を喰らった挙句、ベア死んだはずの怪盗ブラックリリーそっくりの女と会ったとか言い出しやがった!
リアーヌ・ブラックリリー:(ため息)……それはそれは。嫌われたものねぇ?
ベア:その女と、ベニト石(べにといし)について調べ始めた俺たちは、ベニト石が実は、あの聖杯伝説に関係があること、そして、その真相は発見者のカウチ家にあることを知る。
ハニー:じゃあ……その聖杯が、この近くにあるかもしれないって言ったら?
ベア:真実を求めて、ウェストハリウッド銀行のカウチ家の金庫に忍び込んだ俺たちを待っていたのは、意外なものだった!
マーシャルの旦那も様子がおかしいし、
ハニーもこれ以上ないってほどナーバスになってやがる!
-ベア気を引き締めるように
ベア:だが、こんな時こそ相棒のベア様がしっかりサポートしてやんねえとなぁ!
-ベア、少しとぼけた感じで
ベア:……ま、俺の居場所はモニターの前、……だけどな。
○【ハニーベア 隠れ家】
ベア:よしっ、俺のベイビーちゃんたちは全員揃ってるな?……やれやれだぜ。あの後、リアーヌ・カウチが銀行に入って行った時は……青ざめたぜ!
-ハニー、何か物思いをしながら、
ハニー:リアーヌ・カウチが?何の用だったの?
ベア:さあな。わかんねえ……。すぐ帰っちまった。そっちは異常、なかったのか?
ハニー:……いいえ、金庫内では『特別』なことはなかったわ。
ベア:投資の相談かねぇ?……まったく、優雅なこったぜ。
(ため息)……と言いてえところだが……、金庫の中身はその紙っぺら一枚だった、……ってわけか。
ハニー:……ええ。『青き石を救い出せし、英雄の屋敷にて待つ』……。
(舌打ち)あの女だわ。
ベア:例のブラックリリーに似てたって言う、女FBIか。
ハニー:あいつ、いったいなんなの?ねえベア、……何かわかったことは?
ベア:ああ、まず、FBIのダニエ・クロフォードだが……、あの夜から行方不明だそうだ。
ハニー:……行方不明?そもそも、あの女、本当にFBIなの?
ベア:ああ、ダニエ・クロフォード……、警察からのヘッドハンティングだ。勤続履歴もホワイト。表彰歴もある。……エリートってヤツだな。だが、2年前に一週間の空白がある。
ハニー:……それって?
-ベア、意外そうに驚いて
ベア:知らねえのか?有名だったぞ?ブラックリリーの捜査中、失踪したんだ。
ハニー:!?
ベア:テレビだけじゃねえ!ネットじゃ、大盛り上がりだった!ブラックリリーを名乗る奴が現れたり、ダニエを名乗る書き込みがあふれたもんだ。最後の目撃情報から、特定しようとするネット集団も現れたが……
……結局、つかめたのはガセばっかだったな。
-ハニー、青ざめて
ハニー……まさか……ウソ……それじゃあ、あの時の人は…
ベア:?ハニー?どうした!?
ハニー:うっ、ぐ・・・・あああああ!!
-ハニー、激しい頭痛に襲われ、倒れる。
ベア:おい!!どうしたんだ!?大丈夫か!?おい!
ハニー:あ…あ…うう…
ベア:おい!おい!!しっかりしろ!ハニー!
-ハニー、気を失う……
-しばらくして、ベア、パニック
ベア:ああ、ちくしょう!なんだってんだ!どうする?ドクに連絡するか?
ああ、でも、この状態で動かしていいのか!?ああ!落ち着け!俺!ああ、そうだ!まずは息してるかを…
ハニー:してるわよ。勝手に殺すのやめて。
ベア:うお!気がついてるなら言えよ!!
だ、大丈夫なのか?
ハニー:大丈夫じゃない!くそ!!……全部……、全部思い出した!
ベア:思い出したって……、もしかして、俺と会う前の記憶を取り戻したのか!?
ハニー:ええ……、クソッタレな記憶をね。思い出さない方が百倍マシだった!
チキショウ!あの女、よくも!!
ベア:お、おい、どういうことだよ!?わけがわかんねえって!何があったんだっってんだ!?
-ハニー、深くため息をついて
ハニー……ねえ、ベア?あなたは、そのお祭りに参加したの?
ベア:祭り?ああ、ブラックリリーを探し出す騒ぎの話か?
したかったけどな。俺もその頃は、役人どもの檻の中。んな自由はねえ。結局、あのFBIのダニエって女が解決したことを後で知ってな。億万長者になり損ねたことを悔しがったがよ…。
ハニー:ハア……、(首を振って)あの女は、ブラックリリーは……そんな簡単に捕まったり、死ぬようなタマじゃない……。
ベア:……おい、ハニー?お前、何を思い出したってんだ?この事件に関係あんのか?
ハニー(ため息)……話したくない。関係はあるかもしれないけど…違うかもしれない……。
ベア:なあ、勘弁しろよ。確かにお前とはまだ組んで、一年ちょっとだ。いい加減、お前が何考えてんのかはわかる。関係大ありの真っ黒って顔だ。
ハニー:……。
ベア:なあ、お前のその青ざめた顔見てりゃ、ろくでもないパンドラの箱開けちまったことも、この事件に潜んでんのが空飛ぶサメよりタチが悪りぃ揉んだってのもわかってる。話したくねえのはマジなんだろうな。
だけどよ、頼むからそんな死にそうな顔になんのはやめてくれ。
ハニー:……フッ、そんなひどい顔してんの?アタシ。
ベア:ああ、ウイルスに感染して、ゾンビになる5秒前って顔だぜ。
ハニー:……ハッ、それは…ひどいわね…。
-ハニー、思い込むように
ハニー:……。
ベア:……。(ため息)
なあ、お前が今どんな気持ちなのかもわかんねえ。どれほど辛ぇ気持ちなのかもよ
……。
だが、これだけは言っておく。あのクソつまらねえ、真っ白な部屋から盗み出してくれた時にはよ……『この女は蜂なんかじゃねえ。俺のアークエンジェルだ』って、本気で俺は、そう思ったんだ。
ハニー:ああ、ベア。いきなり何言い出すの?
私はエンジェルなんてガラじゃない……。わかってるでしょ?
ベア:茶化すなよ。……確かにそう思ったんだよ。なあ……何かあるなら、いってくれよ。なんか、まずいことが起こってんなら……、
俺が……、
-ベア若干照れるようにどもって……
……お、お前のアークエンジェルになってやる。それが相棒ってもんだろ?
-ハニー少し、あっけに取られて
ハニー:・・・。
(軽く笑って)……あの檻の中でしょぼくれてたクマちゃんが、言うようになったわね?
ベア:……へっ、ガラじゃねえのはわかってるさ。
ハニー:……わかった。でも……、まだ思い出したばかりだから整理がついてないことも多いのよ。それに、確信はあるけど……、こんなの馬鹿げてる。
それでもいい?
ベア:ああ、人にゲロって楽になんなら早めのほうがいいて言ったのは、お前だろ?
ハニー:(笑って)……懐かしい言葉ね。本当は……思い出せないなら、思い出さないほうがいいことなんだって、わかってたんだと思う。
-ハニー、憂鬱そうに
ハニー……実際、……その通りだった。
ベア:大丈夫なのか?顔色が悪いぞ……?
ハニー:……いいえ、必要なことだから話しておく。聞いてくれる?
ベア:(ため息)ああ、……わかった。お前がそれでいいなら、話してくれ。
-ハニー絞り出すように、過去を話し始める
ハニー:……あたしは5年前まで、単なる……ケチなピックポケット(スリ)だった。メトロに潜っては身なりのいい連中から平たい財布や、見る価値もないジュエリーを盗んで、金にする毎日。時には、マフィアのチンピラに使われて盗むこともあったけど、今みたいにベガスで豪遊なんて夢のまた夢。その日のパンを得るので精一杯だった。でも、親も頼れる人間もいない私には、それしかなかった。
ベア:……辛くは……なかったのか?
ハニー:辛いなんて思ったことない。生まれた時から……、ずっとそうだったから。逆に、それが私にとっての平和だった。毎日ギリギリだけど、なんとか生きていける毎日。そんな毎日が、永遠に続くと思ってた。
でも……、あの女をターゲットにしたのが、運の尽き。
ベア:……ブラックリリーか?
ハニー(自嘲気味に笑って)そ。えらく身なりのいい女でね。……いいカモだと思ったわ。あの女の財布や、ジュエリーを服に入れて……、駅に出た瞬間……、捕まった。カモだったのはアタシだったって、気がついた時には遅かった。
ベア:逃げなかったのか?
ハニー:無理だった。たくさんの大男に……、押さえつけられてね。
今でも覚えてる。あの女は……、そんな私を見下ろして……、『お嬢ちゃん、人生を変えてあげる。』そう言ったのよ……。それからは地獄だった。
ベア:……。
ハニー:監禁されて、……顔以外は改造されて、……怪盗としてのテクも……文字通り、叩き込まれた。それでも私は、……本当の名前だけは、絶対に言わなかった。『ハニー』、そう名乗り続けたの……。そしたら、『じゃあ、あなたはハニーBね。もう1人の私。』……そんなふうに、アイツは言ったの。
ベア:……どう言うことだ?
ハニー:理由はわからない。けど、あの女……、身も心も私を『ブラックリリー』にしようとしていたの。しかも、少しずつ人格を侵食されながら、恐怖する私を見るために、顔だけは最後まで……私のまま、ね。
ベア:なんだ…それ…。人をなんだと思ってやがんだ!
ハニー:ベア、今は大人しく聞いて。体を改造され、ブラックリリーとしての盗みの思考パターン刷り込まれて、とうとう人格と記憶を移植する日になったわ。脳をかき混ぜられるような不快感で耐えきれなくて、叫んでいる時に……誰かがきた。
ハニー:その人はまだ意識がハッキリしてない私を連れて外まで出たのを感じたわ。その後、『逃げて!できるだけ遠くに!』って聞こえて、私は背中を強く押された。
……気がついたら、ニューヨークの路地裏で、気を失ってた。
ベア:まさか……、そいつがダニエ・クロフォードなのか?
ハニー:(首を振って)……わからない。
今でもあの時の記憶はあいまい。幸い、その後私を拾ってくれた人はいい人で、アタシが自分を取り戻すまでは世話してくれたけど、その人も私に関することは何もわからないと言っていたわ。
-ハニー、ため息をついた後、
ハニー:こうやって話しているけど、まだ、どこのメトロでピックポケットをしてたとか、どこで暮らしをしてたかとか思い出せないの。思い出したのはブラックリリーと、私が消える前に助け出してくれた、誰かさんの声だけ。
言わないようにしてたけど、私がハニーと今も名乗るのはね……本当の名前が思い出せないから。ブラックリリーはね……、私から本当の名前すらも奪って行ったのよ。
ベア:ハニー……。
ハニー:でも……あの夜、私に銃弾をぶち込んだ女は、絶対にダニエっていう女じゃない。私のことをハニービーと呼ぶ女は……、あの女だけ……。
-ハニー、手を叩いて
ハニー:私の昔話はこれでおしまい。
……ねえ、ベア?ブラックリリーと、ダニエの事件についても……調べてくれたのよね?本当に焼死したのは、一体「誰」?
ベア:公式にはブラックリリーだ。だが、お前の話を聞いて腑に落ちたぜ。
この事件はどうにもクセェ。……ブラックリリーの遺体の損傷はかなり激しかったそうだ。かろうじて残っていた遺髪のDNAが、過去の証拠品と合致して、ブラックリリーとわかったんだとよ。
DNA鑑定の精度は、100%に限りなく近い。すり替わりの可能性を考えて……、ダニエ本人のDNAも調べたらしい。結果は本人と判明。それで、FBI本部は事件終結を宣言したようだ。
ハニー:なるほど…。つまり、事件の証拠は状況証拠のみで、決定的と言えるものではない…。……確かに、それはクサいわね。
ハニー:(考えるように)……。
ベア:……なあ……、ハニー。
もし、俺らの勘が当たってるなら……俺はこの仕事、降りてもいいんじゃねえのか?俺はブラックリリーのことは知らねえよ。だが、お前のそんなゾンビみてえな顔見続けるなら、ゲームの中でゾンビ撃ってるほうがマシだ。
そろそろマーシャルの旦那にゃ……オサラバして、フロリダあたりで仕事すんのも悪かねえ。
……そうだろ?クイーンビー?
-ハニー、軽く笑って
ハニー:……。そうね、それも悪くない。
-ハニー、思い直すように気を引き締めて
ハニー:でも、もし……あの女が生きていて、このメッセージもあの女が残したものなら……、アイツは必ず追ってくる。
-ハニーため息混じりに立ち上がって、パンツの埃を払って
ハニー:それに言ったでしょ?舐められて終わりっていうのは、気に入らないの。
ベア:……なら、どうする?
ハニー:乗り込むわ。カウチ家にね。
○【ウェストハリウッド銀行正面 パトカー内】
アレックス:所轄と消防への引き継ぎは、無事済んだとのことです。
水道管の破裂については消防が調査をしている最中ですが、所轄によると、銀行に被害がない以上……、事故として処理される可能性が高いとのことです。
……一旦、署まで戻りますか?
マーシャル:……。
アレックス:警部?
マーシャル:おい、アレックス。お前は前回のベニト石の件と、今回の件、どう見る?
アレックス:私が……、ですか?
マーシャル:そうだ。前回といい、奇妙なことが多い。お前の意見を聞きたい。
アレックス:……そうですね。今回の件はともかく、前回のベニト石事件は、マスコミに説明した通り、ハニーベアの犯行で間違い無いかと。あらかじめダニエ捜査官を拉致し、彼女になりすまして我々とともに侵入した……。
マーシャル:ふむ……。
アレックス:見回りのスキに……電気柵と、センサーの電源を抜き、撃たれたように見せ掛けて、我々が現場に注目しているうちに……逃亡。実際、警備を増やすことを拒み、……入りやすくしたのは彼女です。それに、あの夜以来、……・ダニエ・クロフォードは行方が知れません。FBI本部では、騒ぎになっているそうです。
恐らくベニト石とともに、ダニエ捜査官は……今も奴らの手に……。
マーシャル:ああ、確かに筋は通ってるな。筋は……。
だがお前は、前回と言い、ハニーベアらしくないとは思えないか?奴らの犯行の特徴は、大胆かつ奇想天外なことだ。犯行における特徴は犯人の美学そのものとも言えるものだ。あのベニト石には、それを捨ててまで盗み出す何かがあるというのか?FBIの捜査官を拉致してまで。
アレックス:ええっと……、前回も発電所を落とすという……、大掛かりなものだった、かと。
マーシャル:現場の話だ。……奴らは毎回、自分たちの犯行をアピールするかのように、……主に現場に跡を残していた。
アレックス:ああ、確かに……床に穴を開けたり、……全く別のコピーを置いたり。
マーシャル:発電所は、恐らくハニーベアの犯行だろう。……だが、あのベニト石を盗んだのは……
アレックス:……違う犯人……?そんなこと、いったい誰が!?
マーシャル:わからん……。だが、今回のことも、妙だ。ダニエ誘拐に関する声明もいまだにないことも妙だが……、さっきのあの銀行員、……嘘をついていた。
アレックス……え?ウェストハリウッド銀行の、ですか?
マーシャル:ああ、これは勘だが、俺の質問に答える時、自白しないホシと……同じ目をしていやがった。
アレックス:そういえば……、奥の階段に、工事中のテープがありましたね……。
マーシャル:ああ……、アレは、金庫へ続く階段だろう。おそらく、……そこで何かがあった。
-マーシャル、考えるように
マーシャル:だが……、口止めされた?
アレックス:……令状をとりますか?
マーシャル:……いや、本人達が被害がなかったと言っているんだ……。
-タバコを探しながら
マーシャル:何も出なければ……、それこそ……。ん?このカードは?
-リアーヌ、カードに書かれたメッセージを読む
リアーヌ・ブラックリリー:(リアーヌの声で)明朝、自宅にご招待します。あの頃のように2人で……。
-マーシャル、驚いて
マーシャル……これは!?
アレックス:どうかしましたか?警部?
マーシャル:おい!ちょっと待ってろ!
-車を出て、女を探す。しかし、見当たらない。
マーシャル:おい、さっきの女がどっちに行ったかわかるか!?
アレックス:……さ、さっきの女……、とは?
マーシャル:俺にぶつかってきた女だ!
アレックス:申し訳ありません!気がつきませんでした!
-車の屋根を叩いて
マーシャル:くそっ!おい!今回の、ハニーベアのターゲットの住所は調べてあるか!?リアーヌ・カウチ……ですか?確か、捜査資料に……。
ああ、サンベニト郡(ぐん)の……、コアリンガのようです!
マーシャル:車を貸せ!アレックス、お前は署に戻っていろ!
アレックス:ど、どうされたんですか!?警部!?
マーシャル:俺はカウチ家に向かう!……リアーヌ・カウチに会う用事ができた!
アレックス:もう夜ですよ!?それに、カウチ家まではだいぶかかりますし、お一人では危険です!ご一緒します!
マーシャル:……いや、これは個人的な用事だ。……すまん!
-マーシャル車を走らせる。
アレックス:警部!?マーシャル警部!?ああっ!くそっ!
○【深夜 サンベニト郡 カウチ家】
ハニー:ふうん……?ここが、カウチ家……。……随分と、リッチじゃない?
ベア、通信は?
ベア:……良好だ。……本当に行くのか?
ハニー:心配しないで。クマちゃん?
えーと?アークエンジェル?だったっけ?
フフッ!なってくれるんでしょう?
-ベア、自分の言ったことに照れくさそうにため息をつきながら
ベア:……わかった。二階の東側の窓から入れそうだ。
ベアだが用心しろよ?ちゃんと装備は揃ってるか?
ハニー:……クマちゃんったら、本当に心配性ね?
ベア:バカ言え。悪魔の住む家に、忍び込むんだぞ?リオンをサポートする、メガネちゃんなら……。
ハニー:ハイハイ。わかったから……、それじゃあ
-ハニー、決意するようにスマートグラスをかけて、
ハニー:行くわよ。
【カウチ家 二階】
ハニー:アラームの一つもないとはね……。つくづく、なめられたもんだわ……。
-ハニー、家を進みながら、気が付く
ハニー:……?……おかしい……。カウチ家は……、ベニト石の発見以来、大金を得て、ビジネスにも成功しているはず。それなのに、使用人の1人も、見当たらないなんて。
それに……
-絨毯の具合を確かめ
ハニー:絨毯(じゅうたん)の磨耗(まもう)の具合から言っても、人の出入りが少なすぎる……。
-突然、ベアから通信が入る
ベア:おい!聞こえるか?
ハニー:……!驚かせないで……。
ベア:すまん……。だが少し、妙だ。
ドローンの赤外線カメラで見て回ったが、部屋はどこも無人のようだ。
ハニー:人がいない?……ここは、空家ってこと?
-以降、ベア、通信機越しに話している雰囲気で
ベア:いや、最近の戸籍データによると……リアーヌ・カウチと、執事が……、2人でくらしているようだ……。
ベア:…屋敷の反対側をもう一度見てみる。……ん!?……お前の正面の廊下、進んだ先に……、誰かいるようだ……。
…何かわかるか?
ハニー:近づいてみる……。
-ハニー、少し開いた部屋を覗き見る
-こちらに背を向けて、1人用のソファに座る女性が見える。
ハニー:……。
ベア:……女?か?
ハニー:入ってみる……。
-忍足で部屋に入り、女に近づくハニー。
ベア:お、おい。待て!
-急に扉が閉まり、鍵が締まる。
ベア:ハニー!
ハニー:くそっ!
-ハニー、扉に駆け寄り、体当たりをするがびくともしない
ハニー:ただのドアじゃない!?
ベアおい!?大丈夫か!?
-女、後ろを向いたまま、タバコに火をつけ、煙を一拭きした後、
リアーヌ・ブラックリリー:……フフッ、いらっしゃい。待ちくたびれたわよ?
ハニー:……その声、やっぱりあんただったのね!!このクソ女!
リアーヌ・ブラックリリー:あら、うれしい!全部思い出してくれたのね?
でも、その下品な口は気に入らないわ。
ハニー:ハッ!何度だって言ってやるわ!クソ女!
こっちはあんたを忘れて、ハッピーな人生を送ってたってのに!
前回は、薪(まき)が足りなかった?なら、今度はこの屋敷ごと燃やして…
-リアーヌ、遮って、灰皿を投げる。もしくは、強くいう。
リアーヌ・ブラックリリー:よく回るお口だこと。それに、薪は充分足りたわ。
-ソファが回り、ブラックリリーが姿を現す。
-しかし、その顔は無残に焼け爛れている。
ハニー:な……!その顔は……!?
リアーヌ・ブラックリリー:ハロー、ハニービー?
ママを……忘れてしまったのかしら?
-突然、ハニーの体がいうことを聞かなくなり、倒れる。
-あらがって立ち上がろうとしながら
ハニー:あ……、な……!!?
ベア:おい!ハニー、どうした!?ハニー!
リアーヌ・ブラックリリー:フンッ、あの屈辱を忘れないために焼けただれた顔のままでいたけれど、役に立つ時もあるのね?
ハニー:な……なんで……。
リアーヌ・ブラックリリー:ウフフ……、マインドコントロールをする時にいくつかの暗示を、しかけておいたの。記憶を失っていたせいで、美術館では機能してくれなかったけど、記憶が戻ってくれて本当によかったわ。
ああ……、私のハニービー、ママからのプレゼントは気に入ってもらえた?
ハニー:……あ、あんた……あんただけは……
リアーヌ・ブラックリリー:ああ、再会の喜びをしたいところだけど時間がないの。
おやすみなさい?ハニービー。
-ハニー、眼の前が暗くなる。耳元でベアが叫ぶ声のみが響く
ベア:おい!くそ!!大丈夫か!?ハニー!ハニー!
○【深夜 カウチ邸】
-マーシャル、ノック
マーシャル:ああ、すまない。私は……
執事:ロス市警 強盗殺人課のマーシャル・アノー様ですね。お待ちしておりました。
マーシャル:!?……あなたは!?
執事:時間がありません。館の中へどうぞ。
マーシャル:……ああ……。
○【カウチ邸 1階】
執事:マーシャル様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ……。
マーシャル:……あなたは?
執事:なにぶん、時間がございません。わたくしめについては道中にて。
-廊下の奥へ進み、燭台を引くと、地下への階段が現れる。
マーシャル:……隠し階段?
執事:お足元にお気をつけを……。
-隠し階段とびらを閉める
執事:わたくしめは、……カウチ家に代々仕(つか)えてきた執事でございます。マーシャル様、お願いがあります。どうか……リアーヌ様を、止めていただきたいのです。
マーシャル:リアーヌ!?リアーヌは一体……。
-問いかけようとした時、階段が終わり、トロッコのプラットフォームが現れる。
執事:こちらに……、お乗りください。
マーシャル:これは……トロッコ?……一体……?
執事:……このトロッコの先に、リアーヌさまはおられます。どうか……、今は……。
マーシャル:……。わかった。
執事:少し揺れます……。お気をつけください。
-トロッコが動き出し、執事が話し出す。
執事:マーシャル様、あなた様は三年前……、リアーヌ様と出会われた。しかし、それは……、仕組まれたものなのです……。
マーシャル:……それはブラックリリーにですか?
執事:やはり……、お気づきでしたか。
マーシャル:……ああ、リアーヌと出会ったのはブラックリリー事件を担当し、……もう少しで真相にたどり着くところでした。最初は、リアーヌはブラックリリーの部下ではないか?そう、疑いました……。
しかし……、
執事:どれほど捜査をしても……、明らかになることはなかった。
マーシャル:……なぜ、それを……?
執事:マーシャル様、本当はお気づきなのでは?
執事:リアーヌ様は、ブラックリリーの部下などではありません。リアーヌ様こそが……、大怪盗ブラックリリーなのです。
マーシャル……嫌な予感はしていました……。ですが、いまだに信じられん。あんな穏やかな彼女が……なぜ?
執事:私が語れる立場ではない理由です。ただ、言えるとするならば、リアーヌ様は哀れなお方なのです。その心根が優しいばかりに、自らの生い立ちを嘆き、壊れてしまわれた……。そしてついには、ブラックリリーという人格を作り出し、人として許されぬ行為の数々を……繰り返すようになりました。
ですが、あなた様と出会い、リアーヌ様はお変わりになられた。
マーシャル:……変わった?
執事:はい。初めて、人を愛することを知ったのです。そして、初めて、自らの犯した罪の数々を恐ろしいと……、お感じになられた。……それゆえに、リアーヌ様はお決めになられたのです。
……ブラックリリーを殺そう、と……。
マーシャル:?それは……一体どういう意味ですか?
執事:リアーヌ様は……、自身の身代わりを作ろうとお考えになられたのです……。哀れな娘を自らの、ブラックリリーのコピーとして仕立て上げ、ブラックリリーの人格を移し、リアーヌ様ご自身は……あなたの元へお戻りになるおつもりだったのです……。
-マーシャル、帽子をずらし、結果のわかっている問いをする。
マーシャル:……そんなことが、果たして可能なのですか?
執事:理論上はうまくいくはずでした……。が、それは失敗に終わりました……。
マーシャル:ダニエ・クロフォード……ですか?
執事:はい……。ダニエ様は、身代わりになるはずだった娘を逃がし、リアーヌ様のもとへ、たどり着いたのです。
マーシャル:……。しかし、失敗した?
執事:はい。リアーヌ様はおいかりになり、ダニエ様を身代わりにされました……。
マーシャル……。
執事:ですが……、ダニエ様は命を失う直前に……正気を取り戻し、リアーヌ様もろとも、炎で自らを焼いたのです。
マーシャル:……なんてことだ……。では……、その後のダニエは……。
執事:…はい、リアーヌ様でございます。二重生活のなかで、リアーヌ様は焼けただれた姿を治し、あなたのもとへ、お帰りになる……おつもりでした。
マーシャル:だが……、帰るなんて話は一言も……。一言でも言ってくれたなら、俺は彼女のそばに……。
執事:焼けただれたリアーヌ様のお顔は、まさに……残虐なブラックリリー、そのもの。リアーヌ様は、顔を見られることを……何よりも恐れました。
特に、あなたには。
マーシャル:……そんな……。
執事:そして、その外見はまるで呪いのように……癒えることは……、決してありませんでした。それゆえに、だんだんと……リアーヌ様のお心はより、壊れ、今ではリアーヌ様の意識を保っていられる時間のほうが少なくなってしまわれた…。
マーシャル:……リアーヌ……。
執事:それでも、……時に姿を変えて、あなたさまのもとへ通われていた。この二年間、あなたさまは……リアーヌさまをお忘れにならなかった。
あなた様こそが、リアーヌさまにとっての……唯一の救いだったのです。
マーシャル:……そう、だったのか……。
執事:繰り返される……狂気と救いの中で……、リアーヌさまは……ついに、再びブラックリリーとなりました。
そして、決して許されぬカウチ家の秘密に手を出されようとしているのです。
マーシャル:カウチ家の……秘密……?
【カウチ家 地下】
リアーヌ・ブラックリリー:ハニービー、目覚めなさい。
-ハニー、目を覚ますが体が動かない
リアーヌ・ブラックリリーウフフ……、特製の麻酔薬はいかが?
-麻酔が解けるまで、麻酔にかけられた演技をしてください
ハニー:……。
リアーヌ・ブラックリリー目だけは見えているのに、体は動かないでしょう?あなたのために作ったのよ?結局、違う女に使うことになったけれど……。
本当に忌々しい……。あの女さえいなければ……。
-憎々しげな声から一転、真逆の明るく楽しそうな声になって
リアーヌ・ブラックリリー:まあいいわ!あなたは、わたくしの元に帰ってきてくれたんだもの!…あなたにはね、……重要な役目があるの。
でも、その前にご褒美をあげる!……わたくしのコレクションを、特別に見せてあげるわ!あなただけ、特別よ!
ああ、体が動かないでしょう?だから、私自ら車椅子で運んであげる。決して、ずり落ちないように、……こうやってっ……、縛ってねっ!
ハニー……っグ!
-リアーヌ、肩で息をしながら、乱れた髪を直し、
リアーヌ・ブラックリリー:……さあ……、これでいい。
フフフ、きっと、感動して、涙を流すわよ……?だって、わたくしのコレクションは、誰もみたことがないのだもの!
ああ、嘘ではなくてよ?目にしたものはもう、この世にはいないから。
-リアーヌ、冷めた声になり
リアーヌ・ブラックリリー:……あいつらは、わたくしをみて、恐怖したの。
……失礼な話ではなくて?
ハニー:…………。
リアーヌ・ブラックリリー:だから、わたくしの痛みがわかるように1人づつ、死なないようにしながら、少しづつ解体してあげたの!そして、恐怖した顔のまま焼き殺してあげたわ!
ハニー:……!
-ハニーうめいて体を動かそうとする
ハニー……!!
リアーヌ・ブラックリリー:あらあら、怖がらないで。さっきも言ったでしょう?あなたは、特別だもの!そんなことはしないわ!
ハニー……っ!……っ!
リアーヌ・ブラックリリー:ウフフ、相変わらずかわいい子……。地面に投げ出された、金魚みたい。
-リアーヌ、笑顔のまま、ハニーを殴る。
リアーヌ・ブラックリリー:でも、芸術はきちんと鑑賞しなければ失礼よ?大人しくしましょうね?
ハニー:!
リアーヌ・ブラックリリー:さあ、ごらんなさい?……美しいでしょう?ここが、わたくしの美術館。
ルーブル!オルセー!メトロポリタン!世界の名だたる美術館など、見世物小屋に見えるほど!あなたのお目当てのあんな、石ころよりも、何倍もの価値のある、素晴らしい品々!まさに、人類の宝、という言葉にふさわしい!
-リアーヌ、一転して悪戯っぽく
リアーヌ・ブラックリリー:ああ……?でも……、それだけじゃなくてよ?
ハニー……。
リアーヌ・ブラックリリー:わたくしの最高のコレクションは、こんなつまらないものだけではないの……。フフフ……。
……ねえ、ハニービー?この世で美しいものは……やはり、人間だと思わない?
-ブラックリリー、まるで悲劇の主人公のように
リアーヌ・ブラックリリー:わたくしは……、ずっと自分が自分であることを許せなかった……。ああ、忌まわしいカウチ家!……縛られ続けなければならない、この運命(さだめ)!
……わたくしは……、ずっと他人が羨ましかった。
-リアーヌ、ハニーに微笑み、
リアーヌ・ブラックリリー:だから、コレクションすることにしたの。
○【カウチ家 地下】
-トロッコが止まる
執事:どうぞ、こちらへ。もうしばしすれば……、夜が明けます……。
マーシャル:私は……、どうすればいいのですか?
執事:マーシャル様、先ほどの話を聞かれても……リアーヌ様を愛していただけますか?
マーシャル:はい。……私は……、刑事です。しかし、……それ以前に、1人の男として彼女を、愛しています。
……確かに、彼女は恐ろしいことをした。そして、私は……それを、罰する身。しかし……、彼女が破滅に向かっているならば……、私はそれを止め、共に罰を受けるつもりです。
執事:……。ならば、その言葉を、リアーヌ様に伝えていただきたいのです……。本来ならば……わたくしが、止めなければいけない立場でした……。しかし……、もはや……リアーヌ様はわたくしの言葉には耳をお貸しくださいません……。
……あなた様にお願いするしかないのです。
マーシャル:彼女は……リアーヌは……、何をしようとしているのですか?
執事:……それは……このカウチ家の禁忌(きんき)……
マーシャル:……禁忌(きんき)?
執事:まずは……、このカウチ家に伝わる伝承から……お話しいたしましょう……。
○【カウチ家 地下廊下】
リアーヌ・ブラックリリー:……ここからは特別な場所よ。わたくしがコレクションした人々が飾られているわ。
-ハニーだんだんと、麻酔から解けてください。
ハニー……う…、くっ……。
リアーヌ・ブラックリリー:アレは……、わたくしがカレッジにいた時に出会った少女よ……。彼女はいつも輝いていたわ……。……どうしても彼女になってみたかった。
だから、頂いたの。
-リアーヌ、少女のように楽しそうに
リアーヌ・ブラックリリー:彼女になった時は、まるで、悪戯(いたずら)をしているみたいに、ドキドキしたわ!
あちらはね、わたくしの会社にいらした貴族のご子息。あんなにも美しい外見なのに……、悪い遊びをしていてね、もったいないから、もらってあげたの。
-リアーヌ、奥にある棚をみて、急に冷めた声で
リアーヌ・ブラックリリー:ああ、あちらに並んでいる瓶(びん)は気にしないでいいわ。外見は醜悪(しゅうあく)でも……、どこか一部でも美しければ標本にすることにしているの。
ハニー:ぐ……。
リアーヌ・ブラックリリー:わたくし、差別はしないの。
……そう、差別はいけない……。わたくしは……、ずっと差別されてきたわ。
リアーヌ・ブラックリリー:あいつらが、影で笑っていることなんて……わかってた。あいつらが本当に欲しかったのは、わたくしの肩書だけ。
-リアーヌ、愛しいマーシャルを想い、
リアーヌ・ブラックリリー:でもね!……あの人だけは違った!わたくしのことを……今も思っていてくれるの!だから……、決めたのよ。
絶対に美しくなって、全てから逃れて……、あの人のもとへ帰るって!
ハニー:……の……。
リアーヌ・ブラックリリー:あら?もう、麻酔が切れ始めているのかしら?急がないといけないわね。
ハニー:……もの……。
リアーヌ・ブラックリリー:なあに?……聞こえないわ?もっと、はっきり言ってくれないと。
ハニー……化け物……!
-ブラックリリー、その言葉に無表情になり、一時、沈黙してぽつりと
リアーヌ・ブラックリリー:……。
……あいつらと同じことを言うのね。……もう1人の、わたくしなのに……。
-ブラックリリー、元の楽しそうな声に戻り
リアーヌ・ブラックリリー:ウフフッ!安心して!あなたは綺麗よ!!
……だから、用がすんだら飾ってあげる……。
-ハニーを押す車椅子が止まる。
ハニー:……!
リアーヌ・ブラックリリー:さあ、ここよ!この扉の先こそが、あなたが見たかったもの!……そして、わたくしたちの明るい未来への扉!
さあ、準備はできて?ともに2年前の、全ての間違いに終止符を打ちましょう!
-リアーヌ、不穏に高笑いを上げる
【続く】
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