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甘える甘えない以前の話

犬と猫の違いは何か、あげれば長いリストが出来るでしょうが、"人との距離感"もおそらくそこに加わるでしょう。

私は犬としか暮らした経験がなく、猫といえば地域猫に友人の猫、猫カフェの店員さんしか知りませんが、やはり犬に比べて気ままでクール、自我がはっきりしているように感じられます。


犬ももちろん気まぐれですが、猫に比べて子どもっぽく、甘えたところが多々あります。

家にいる6ヶ月の子犬がそうで、ためらいなく人にじゃれつき、もたれ、寄りかかってくる姿、体を人にくっつけたまま眠ってしまう無防備さには、時おり感動すらおぼえます。
言葉が通じない動物に信頼される、それほど美しいことは滅多とないように思うからです。


私の知人の猫好きさんで、常に猫を"切らした"ことがない人は、猫が"難しい"からこそ、甘えられた時の喜びもひとしおだと語ります。

何らかの要求がない限り、普段は近寄っても来ないくせに、気が向いた時や"スイッチが入った"時には、全身で甘えてくる。
常日頃の距離感や、人間に冷たい態度を取られるかもしれない、などとは考えもせず、猫はいつでも自信満々、あくまで優位に立っているような態度です。
それでいながら、撫でて欲しがって寝転がり、じっと見上げてくる様がたまらないのだとか。


その知人は甘え下手を自認しており、だから余計に、猫の持つ根拠なき自信に感じ入るもの、羨ましいものがあるそうです。

これは私もわかる気がします。犬たち、あるいはある種の猫のように、相手の反応などお構いなしに、自分の感情を素直に表し、ぶつけられればどれだけ良いか。
そうすれば、人生はもっとシンプルで楽になるように思えます。


私は子どもの頃をほぼ寝たきりで過ごしたために、周囲に子どもらしく甘えたという経験がありません。
なぜなら、病みついている状態自体がすでに家族や周囲にとっては多大な負担で、そんな自覚を持ちながら、なお甘えたいなど、子どもながらに到底思えなかったからです。


そして病気の苦しさなどは、いくら両親や医師であったとしても、どれだけ訴えようが本当には分かってもらえないものです。

もし苦痛を外に説明すればその分だけ苦しさから解放される、などというシステムがあったとしたら、私はのべつまくなく話したでしょう。けれど、現実は全くの正反対です。

どれだけ言葉を尽くそうが、変わることは何一つなく、健康な人に病気の話など、疎ましがられる、あるいは良くても同情されるくらいで、全く響かないことは明らかです。


だから私は自分自身の本音や事情を封じ込めて、人には打ち明けないことを学びました。

それをきわめていくとどうなるか。
わかりきった結果として、他人に自分の話ができなくなります。

いや、あなたは今まで散々noteで自分の話をしてきたでしょう、と突っ込みが入りそうですが、それは少しばかり事情が異なります。


長々とした説明は無粋ですし、簡単にまとめてしまうと、ここはまず私の"場"です。

あらかじめ自由に使えるように与えられたスペースで、私は文字通り好き勝手を書き、それを読んでもいいという、奇特な方たちにのみお付き合い願っています。

私は何でも好きに書くかわり、それを無理に読ませる権利を持たず、読んでくださる方たちは、気が変われば即座に場を離れる権利を持ちます。
双方が完璧に平等であるからこそ、私は落ち着いて自分の話を語れるのです。


けれど日常はその限りではありません。
そのつど合意を取りながら会話をしたり、相手が本当に自分の話を聞きたいか確かめながら話す、などとということは不可能です。

先方の受け取り方や感情は、あくまでこちらが推測するのみです。


こういったことを考えるうち、話すよりも聞く方がいい、という楽な選択肢に逃げる結果、ますます個人的な話ができなくなります。

これでは甘える甘えない以前の問題であり、何の躊躇もなく誰かを信用する、その上で時には甘えさせてもらう、などという無邪気な付き合いは望むべくもありません。


けれども昨今は行き過ぎた"おねだり"のため身を滅ぼしたり、周囲に甚大な損害を生む事件も続いて発覚しています。
そうなると、人にやたらと甘えることを覚えるのも、余計なトラブルの元となりそうです。

こんな例はさすがに極端にしろ、何にせよバランスは大事でしょうし、先ずは人に迷惑がられていないか、皆こんな話を本当に聞きたいのだろうか、などと過剰に気を回すことを控えるのが先決かもしれません。
話しすぎるのと同じくらい、話さなさすぎるのもまた、大人としてどうかと思いますし。


その上で"甘えるプロ"である子犬から、極意をほどよく盗むべく、せっせと遊び相手を務めさせていただきたく思います。

ここまで、途中で飽きずに読んでくださって心から感謝いたします。
普段も、こんなふうに何でもなく無駄話をすらすらとできれば良いのですが。




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