10月の詩
もしも 思い出をかためて
一つの石にすることが出来るならば
あの日二人で眺めた夕焼の空を
石にしてしまいたい と
女は手紙を書きました
その返事に 恋人が送ってよこしたのは
ガーネットの指輪でした
あかい小さなガーネットの指輪を見つめていると二人はいつでも
婚約した日のことを思い出すのです
詩人、歌人、作家、戯曲家、批評家など、一色ではあらわせない多彩な仕事を手掛けた寺山修司。
その人の詩を編んだ詩集の一章〈宝石箱〉に、この「ガーネット」は並べられています。
ヨーロッパの地では"夕日が沈む黄昏の空の色"とも称されてきたガーネット。
"真実" "変わらぬ愛"という宝石言葉も持つこの貴石ほど、詩の中の二人に似つかわしいものはないかもしれません。
◇◇◇
この季節に特別な思いを向けたのはアメリカの詩人エミリー・ディキンソンで、彼女は毎年秋になると、窓から夕景を眺めることを日課としました。
そのためもあってか、彼女の詩には秋を主題としたものが多く見られます。
1861年頃、30代半ばに書かれた「綾なす色のほうきにて」は、そんな秋の詩のうちの一編です。
彼女は綾なす色のほうきで掃く ──
そして切れ端を置き去りにする ──
ああ、西の夕空の女主人よ ──
戻って、どうか池のほこりを払って!
あなたは紫のほつれを落とし ──
琥珀の糸を落とし ──
それからいま東の空は
翠玉の切れ端だらけ!
それでも、彼女はまだらのほうきを振るい
エプロンはなおはためく
ほうき星がそっと星々の間に溶け入るまで ──
それから私もいなくなる ──
◇◇◇
アラン・アレクサンダー・ミルン、おそらくA・A・ミルンの表記の方がなじみ深い英国の国民的作家は、"くまのプーさん"の物語の他、ファンタジーに推理小説、エッセイや詩も手掛けました。
50歳を過ぎたミルンは、サセックスのコテージにて、息子クリストファー・ロビンと過ごす時間をとりわけ大切にしていたといいます。
「なんと静かな夕暮れ」は、その地での体験にインスピレーションを得て書かれた詩です。
なんと静かな夕暮れだろう
なんとゆるやかに落ちる夕陽
ねぐらへ戻るカラスが一羽
金の満月を横切っていく
湖は銀の鏡になって
しとやかに樹々の姿を映し
雲たちは音も立てず
そっと頭上を通り過ぎていく
◇◇◇
ガーネット、アンバー、エメラルド、金に銀。
輝く宝石を空に散りばめたようなこの季節を、アメリカの詩人サラ・テアスデールが「秋の金」にて称えます。
この詩を書いた頃のテアスデールは70歳をとうに超え、長年に渡って自然を見つめ続けてきた、熟練の詩人ならではの視点と手腕が光ります。
宝石のように価値ある秋の日々。
この静かに光る季節を、詩人たち同様に深く愛でられますように。
渦巻く風に揺れる木の葉を金色に
平凡な木々をきらめく宝物へと
魔法使いは変えてゆく
豊穣なる季節よ
あなたの贈りものに感謝します
丘は眩い秋の輝きに彩られていく
(全訳・ほたかえりな)
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