QPhoneを産んだ詐欺師たちの神話(前編)
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ドナルド・トランプが使っていると言われる謎のスマホ、QPhone
筆者は神真都Qの活動を追いかけているが、この団体は動きが早い上、主な活動の場であるLINEオープンチャットが47都道府県+α(複数存在している都道府県あり)と大量に存在するため全ての活動・事案を把握するのは不可能である。このため自身でもいくつかのオープンチャットを見つつ、Twitterのウォッチャー陣の投稿も参考にしている。
先日もTwitterを眺めていたところ、神真都Qのリーダーであるイチベイが、「ドナルド・トランプが使っている新型スマートフォン」として「QPhone」なるものを紹介していることが分かった。
このQPhoneは陰謀論界隈で以前から見るもので、神真都Q以外でもシェアされているようである。成立過程が気になった筆者は出所を調べることにした。
ネットで出回っている画像やサイトは陰謀論と無関係
QPhoneについては、概ね下記のようなスマートフォンであるという説明が出回っている。
ドイツとイギリスで開発・製造され、全人類に無料で配布される。
スティーブ・ジョブズは実は生きており、天使軍の一人としてQPhoneの開発を主導している。
QFS(量子金融システム)に対応している。
※QFSについては後述8Gネットワークで動作する。
昨今の半導体不足は人類全員分のQPhoneを製造しているために起きている。
一見して分かる通り荒唐無稽であるが、これくらいの現実離れは最近流行する陰謀論ではごく普通のものである。陰謀論の世界では、死んだと思われていた人物が実は生きていることなど日常茶飯事なので素直に受け入れられている。
このQPhoneが日本で話題になったのは昨年の10月10日〜16日頃であり、
その証拠としてこのような画像が出回っている。
この画像については同様の画像がダッカに所在する業者のFB投稿に残っており、2021年にバングラデシュで発売されたフィーチャーフォンのようだ。勿論全人類に無料で配られたり、8Gネットワーク?に接続できるはずはない。こちらの情報が正しければメモリ32MB、カメラは0.3Mピクセルという代物である。
出所は陰謀論インフルエンサーが発行した文書
陰謀論界隈でQPhoneの情報が出回り始めたのは2021年9月17日であり、下記2つのツイートが最初期の例として挙げられ、どちらも同じ記事を情報ソースにしている(英語圏でも状況は同じだった)。
それは「Man of God」という文書であり、その4番目に下記のような記載がある。
要約すると、「QFS(量子金融システム)という新しい金融システムが発動した暁には金本位制が再来し、QPhoneによってこの金融システム、及び金本位制のデジタル通貨システムを利用することになる。」ということである。
QFS(量子金融システム)というのは陰謀論界隈で囁かれる新しい金融システムであり、光の勢力が勝利すると世界中の金融システムがQFSへと移行し、人工衛星上の量子コンピュータを利用した金本位制のデジタル通貨が発行されることで通貨リセットが起き、33京円に及ぶ隠し資金(QFS資金)が解放された結果、全人類に多額のデジタル通貨がベーシックインカムとして振り込まれると言われているのである。
※これでは単なるインフレになりそうだが、スピリチュアル系陰謀論の世界ではそのような発想は無視されるか、「常識を超越した何かによって良い世界が訪れる」と考えられることになる。ここではとにかく「そういうもの」としてご理解頂きたい。
そして、このQFSは後述する「GESARA」とセットで陰謀論の世界に浸透している。これについてはまた後程説明する。
その後、この文書の中の「QPhone」が刺さったのか、Telegram(ロシアで開発されたメッセンジャーアプリで、情報の秘匿性が高いため犯罪者に利用されたり大手SNSを追われた陰謀論者の集積所になっている他、ウクライナ侵攻下における情報共有にも使われている)上に「70億人に配布される」、「8Gネットワークに接続される」という投稿が現れ、陰謀論インフルエンサーであるサイモン・パークスが10月14日にブログで取り上げたことから日本のTwitterにも広がっていった。この時期がGoogleTrendでのピークに当たる。
さて、この「Man of God」がどういう文書かというと、内容としては「悪の秘密結社が世界を裏から操っており、金融システムやメディアを通じた洗脳、ワクチン接種を通じて人々の生活がコントロールされたり、人口が削減されている」という世界観がベースになっている。
その上で、新たな金融システムを発動させたり、ワクチン接種に反対することでユートピアを目指す宣言となっているのである。特に4番目の文書についてはワクチンに含まれる有害物質(といってもほとんどは根拠に乏しく、何度も多方面から虚偽と断定されているもの)を列挙しており、反ワクチン色が強い内容である。
それでは、この文書の出所はどこなのだろうか?この文書は、チャーリー・ウォード(Charlie Ward)とサイモン・パークス(Simon Parkes)という人物が独自の情報源(世界に変化を起こす組織のトップらしい)から伝えられたという触れ込みで広めたものである。
この二人はどちらも英国系の陰謀論インフルエンサーだ。チャーリー・ウォードは英国Qアノンの中心人物、サイモン・パークスは5G陰謀論の記事でも紹介した人物で、「母親は9フィートのエイリアン」などと言っている通りUFO・宇宙人系の陰謀論色が強く、さらには「Qと直接接触している」と主張するQアノンインフルエンサーである。
陰謀論の世界ではインフルエンサーが「極秘の情報源から手に入れた」ことが十分な根拠となるため、このような形での暴露を繰り返し、「近々世界緊急放送が起こる」、「ディープ・ステートの悪人たちが大量逮捕される」などといった予言が繰り返されてきた。これはSNSの時代では顕著であり、数えきれないほどの回数(しかも大抵は数ヶ月後という、すぐに外れたことが分かるレベルだ)「世界中の放送やスマホがシャットダウンされ、あらゆる画面にトランプが登場して極秘情報の暴露を行う」世界緊急放送が起こると予言されて毎回外れているのだが、信者は毎回色めき立ち、陰謀論インフルエンサーに感謝の言葉を送っている。
また、怪しげな極秘文書を持ち出してきて陰謀論の根拠とするのは、「極秘裏にエイリアンと接触している」MJ-12という委員会の存在を示すMJ-12文書に代表される、UFO陰謀論の伝統芸とも言える。
恐らくは上記2名か、その周辺の人物が作成した文書が陰謀論界隈に流通し、その中に含まれていたQPhoneとたまたま同じ名前を持つ製品が存在したことからネット上の噂話として成長したのがQPhoneの成り立ちと言えるだろう。
ところでQPhoneが配布されるきっかけとされているQFSは、NESARA/GESARAという別の陰謀論と関係付けられて幅広く流通している。特にTwitterでは定期的に「いよいよQFS/NESARA/GESARAが発動する」という「予言」が陰謀論インフルエンサーから発信され、「借金が帳消しになり、全人類に大金が振り込まれる」という希望に心躍らせたユーザーたちがお祭り騒ぎを繰り広げている。ところがこのQFS/NESARA/GESARAは単なる陰謀論ではなく、詐欺とも深い関係を持っている、というよりは詐欺のために広められたと言って良い陰謀論なのである。そろそろ4,000文字近くなってきたため、これについては中編で触れることとしたい。
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