神真都Qとは何か
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先日投稿した神真都Qデモの記事には大きな反響があり、反応として「そもそも神真都Qとは何なのか」と疑問を持つ人が見られた。この記事では筆者がこの集団について把握している経緯をまとめる。
(筆者の属性や活動内容についてはこちら)
当初の表記は「大和Q」
神真都Q(※読み方は「ヤマトキュー」)というのは、一言で言うと「陰謀論インフルエンサーの下で光の戦士(光側)を自称し活動している中高年のSNSユーザー」である。外部からは遊びに見えるが、当人たちは陰謀論を信じている「光の戦士」なので本気であり、大規模デモやビラ配りに精を出している。
※真偽はともかく、この後触れる彼らの物語はかなり壮大なものであり、世の中的には陰謀論として扱われる類のものであるためここでは「陰謀論」と呼称する。
ある程度長くインターネットを利用している方なら、このような団体を作る遊びは目にしたことがあるだろうし、また後述するように彼らが信じる物語は懐かしのオカルトをパッチワークした「神話」の域に至っており、SNSで生まれる疑似宗教、あるいはカルトと見ることもできるかもしれない。
この集団を率いている陰謀論インフルエンサーは「甲」、「甲兄(甲の兄らしい)」、「イチベイ」といったアカウントで、いずれもドナルド・トランプを神格化し、日本人を「神の血統」とするなど右派Qアノン的性格が強い。特にイチベイは「ゴム人間」という、「子供の脳髄から抽出される『アドレノクロム』という若返り物質が切れたために顔面が崩壊した有名人が、ゴムマスクをかぶって公の場に登場している」という陰謀論を拡散しており、界隈でも目立つ人物であった(下記ツイートはテレビ画像からゴム人間を指摘している例。耳の形や首のシワからゴムマスクと指摘していることが多い)。
そんなイチベイの正体は「岡崎礼」という二世俳優であり、元役者で話が上手いことも信者を惹きつけていると考えられる。
陰謀論インフルエンサーのフォロワー達を団結させるべく命名された「大和Q」と、最終決戦の演出
こうして陰謀論インフルエンサーが信者を集めていた中で昨年10月、甲によって「大和Qの皆!」と呼びかけるツイートが投稿された。
このツイートに添付された動画ではトランプが大きく映り、「子供を喰らう悪魔共は何処だ!次は日本DS(注:闇の勢力であるディープ・ステートのこと)や!!さぁ行くでぇ大和Qの皆!準備はええかあ!!」と、フォロワーのQアノンたちを決戦に向かわせるかのように焚き付けていた。ここで彼らのフォロワーに「大和Q」という名前が付けられ、一体感を持たせると共に何らかの最終決戦が近づいているかのような演出が行われたのである。
こうした界隈に生きがいを見出してしまっている人々にとってはたまらなく興奮する出来事だっただろう。このような人々の中には、「前世からの繋がり」すら見出してしまう人物もいた。
これはかつての戦士症候群(ムーやトワイライトゾーンといったオカルト雑誌の文通欄に、目覚めた戦士や前世の仲間を探す人々が溢れた現象)に酷似しているが、Youtube動画や行間が異様に広いAmebaブログを消費している人々がムーを楽しめるとは思えない(馬鹿にされがちなムーだが、実は相当に字が詰まっており文章を読み慣れていないと楽しむのは難しい)。ブログやSNSでライトに拡散されたスピリチュアルや陰謀論が、彼/彼女らを似たような行動に向かわせたのだろうか。
大和15万人覚醒Project グリッド帰還計画
その後11月に入ると、「+1℃」という陰謀論インフルエンサーが、「大和15万人覚醒Project」というものを提唱し、LINEオープンチャットを開設した(最初の呼び掛けと思われるツイートは削除されており、下記はその後の募集ツイート)。
このプロジェクトの内容はイチベイや甲が動画で説明しており(動画には同時に「大和グリッド帰還計画」という言葉も表示されている)、こちらの2名も呼びかけていたことから前述の「大和Q」と支持者層は同じと考えられる。
それでは、このプロジェクトの目的は何なのだろうか?イチベイ、甲の動画を参考に説明する。スピリチュアルや陰謀論に慣れていない方が読むと困惑するであろう内容であることを予め記載しておく。
話はバチカンから始まる。クリスタルバリアや魔物達に守られたバチカン禁書庫には、1つの階層だけで666万に及ぶ書物やオーパーツが保管されている。
禁書庫を守っている魔物たちは「NAA血族」であり、NAA遺伝子という特殊な遺伝子を受け継ぐ者たちである。NAA血族は、世界の諜報機関や政府、軍、中央銀行、さらには個人を洗脳支配しているイルミナティである。この正体は、光と闇の銀河戦争から逃げてきた者であり、他の星と同じく地球を侵略した。ちなみに地球には南極にゲートが存在し、ドナルド・トランプが出入りしている。
NAA血族は紀元前数万年前、レムリア、ムー、アトランティス大陸を破壊し、我々人類を洗脳支配してきた。今こそ、YAP遺伝子(=善の宇宙人や龍神が持つ特殊な遺伝子)を引き継ぐ大和民族が立ち上がらなければならないのである。ここで、覚醒とは精神的な目覚めだけを指すのではない。
我々の遺伝子の一部はイルミナティによって眠らされているが、ここでその遺伝子も覚醒し、真の力が目覚めるのである。この計画を実現するには人口の37%を覚醒させる必要がある。従って真実を拡散しなければならないのだ。
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慣れていない人には面食らう内容かもしれない。しかし物語の構成要素を見てみると、「古代にやってきた宇宙人=古代宇宙飛行士説」、「太古から受け継がれてきた特別な遺伝子」、「一定数の人間の意識が変わることで革命が起こる=100匹目の猿」と、過去のオカルトを寄せ集めたものということが分かる。実はこうした内容は他のUFO系の陰謀論でも見られるものであり、特段珍しくはない。
また、「善なる宇宙人」や「光と闇の銀河戦争」が登場するところからは極めてスピリチュアル色が強いことが読み取れ、スピリチュアルと陰謀論の相性が良いどころか、ほぼスピリチュアルと言って良い内容である。このように、今やSNSで流行する陰謀論のスケールは地球を飛び出し、宇宙を舞台にした壮大なものになっている。フリーメーソンやCIAといった(まだ)常識的な陰謀論を思い浮かべる人は面食らうかもしれないが、こうした陰謀論のほうがSNSでは受けが良いので仕方がない。「このような荒唐無稽なものを一緒にしてもらっては困る」と憤慨する人もいるかもしれないが、それはまさに「マッドフラッド-タルタリア陰謀論における実証派フラットアーサーの苦悩」である。
さて、ここまで見てきたにも関わらず、実は「大和グリッド帰還計画」の具体的な内容は示されていない。しかし、イチベイが示唆するところによれば「覚醒した者達で『新地球』に帰還する」ことを指しているようだ。新地球というのはスピリチュアルや陰謀論の界隈で広く使われている言葉で、「スピリチュアルな次元が高い人だけが行ける新しい地球」という程の意味である(改めて書くとストレートな選民思想で眩暈がする)。要は「今いる世界は偽物で、選ばれた仲間だけが行ける本当の世界があるはずだ」というわけである。これも昔から見られる考え方で目新しさはない。
神真都Qではドナルド・トランプ信仰やディープステートによる児童売買説も会員の間で共有されているため、Qアノンとの共通点自体は薄らと存在する。しかし上記の内容から分かるとおり、彼ら、彼女らの主張にはスピリチュアルな内容が多く含まれ、Qアノンというよりはむしろスピリチュアル系のUFO陰謀論の亜種と呼んだほうが適切に思える(特にアシュタールコマンド系の陰謀論であるPFC-COBRAとの類似性が指摘されており、これについては別途考察したい)。神真都Qは日本のQアノンの代表を自称しているが、大半の会員はQmapやQdropといった、本家Qアノンの情報を読んだことがないはずだ。以前から真面目に?Qdropの翻訳を行なっていた人々からすれば、このような団体が数の上で圧倒的優位に立っている現状には我慢ができないだろう。
とにかく、この壮大なオカルト要素のパッチワークはスピリチュアル陰謀論者達を大いに興奮させ、Twitterだけでなくnoteやブログでも拡散されるに至った。こうして広がった運動は全国規模となり、12月上旬には地域別のLINEオープンチャットも開設されていた。
大和から神真都へ、そして全国デモへ
この集団における「大和」が「神真都」と記載されるようになったのは昨年11月27日のことであった。甲のYoutubeチャンネルに「甲甲神真都Q」という表記が見られ、信者から「読み方はやまと?」という質問が飛んでいる。
甲は「神代文字の意味合い的には適切」と説明しているが、神代文字について研究している原田実先生からしてもそのような読みは思い当たらないという。
これについては、筆者としては恐らく、日ユ同祖論(日本人の祖先はユダヤ人であるというオカルト説)に見られる「大和(ヤマト)の語源はヘブライ系アラム方言のヤ・ウマト(神の民)である」という説から持ってきたのではないかと考えている。
これは神代文字とは本来違うジャンルのオカルトであり、つまりこの団体名は一般的な読みではなくオカルトを根拠にしている上、オカルトとしても別分野のものを混同しているという、二重に不自然なものとなってしまっている。
その後、12月26日に甲から「本日をもっての神真都覚醒」が宣言され、そのリーダーにイチベイ(岡本一兵衛)が就任した。15万人覚醒Projectの地域別LINEチャットがヒントになってか、その後は都道府県別にLINEオープンチャットが作られ、1月9日のデモへと繋がっていった。
個人情報を巡っての仲間割れ
先日の記事でも指摘した通り、神真都Qデモは1月23日をはじめとして複数回計画されており、今後も続いていく予定である。ところがこの集団では、1月9日のデモ後の時点で既に内紛が発生していた。
実は覚醒Projectでは過去にもワクチン接種反対や緊急事態条項反対への意見書という名目で個人情報が集められていた。それを管理していた+1℃が何らかの理由でイチベイへの受け渡しを拒否したため、甲とイチベイが+1℃を攻撃する形で内輪揉めが発生しているのである。今では+1℃は神真都Q内で裏切り者扱いをされ、一方で+1℃が主導していた覚醒ProjectのLINEチャット内では神真都Qを疑問視するという分裂状態になっている。
元々覚醒Projectの支持者層と神真都Qの支持者層はほぼ同一だったはずだが、覚醒Project側のLINEチャット管理人によれば、「覚醒Projectはもともと、+1℃がイチベイを応援するために立ち上げたが、イチベイが突然デモ活動を始めてしまったため、その時点からは別行動になっている」という。
そして、神真都Q側では+1℃の行為に対して「被害届を出す」という名目でさらに個人情報の収集が行われている。この団体はとにかく個人情報への執着が凄い。これには何らかの意図があると考えられる。
それに関連して、前回の記事でも私はデモ運営の様子から、何らかの組織の関与を疑っていた。その後、同じく神真都Qを追っている方との情報交換や調査協力により、この集団の目的についておおよその仮説を立てている。が、それはまだ開示できる状態ではない。私から言えるのは、絶対に神真都Qには近付かないのを推奨するということのみである。
「エデンを作る」と称して土地を取得し、障がい者の移住を試験。寄付金の募集も(2022.02.26追記)
その後も神真都Qは活動を続けており、思わぬ行動に出ている。トップであるイチベイ、甲兄が全国各地に「エデン」を作ると言い出し、「エデン興し旅」と称して土地の視察を行なっているのだ。こちらがそのスケジュールである。
また、こちらの動画では提供されたという土地・建物での会食の様子が紹介されている。
筆者は何でもオウム真理教に結びつけるのは控えたいと考えているが、さすがに「光の戦士を称する人々が、全国各地にコミューンを作ろうとしている」となれば日本シャンバラ化計画を連想せずにはいられない。上記の動画の最後に出てくる、神真都ネックレス(神真都缶のネックレス版)を付けた女性が祈りを捧げて演奏をする場面についても不穏なものを感じた。
さらに代表のイチベイは「既にミカン園に障がいを持つ方を住まわせる試験をしている」と発言しており、2月25日(金)からは寄付金の募集も開始している。
筆者は神真都Qについて、幹部がビジネス目的で始めたものと推測しており、これらの動きから集金フェーズが始まったものと考えている。今後は会員から何度も集金をすると共に、土地を絡めたビジネスや詐欺的スキームを行なっていくのではないだろうか。
上でも書いた彼らの教義はあまりに現実離れしているため甘く見てしまいそうだが、幹部は短期間で大勢の会員を獲得した上、次々と新しい動きを仕掛けている。土地の取得が始まっているとすれば経済事件に発展する可能性もあり、単なる「変わった人が集まった団体」として見ることはできない。
会員制度の開始(2022.03.15追記)
2022年3月に入ると、今度は会員制度が開始されていた。
入会金は900円、年会費は3,600円で、毎年会費を納付させるようだ。そして、この団体の個人情報への執着は相変わらずだ。住所や氏名だけでなく、身分証明書の画像まで要求している。このような団体に入るのにわざわざ身分証明書など必要なのだろうか(そもそも会員制からして疑問である)。このようにして薄く資金を集めつつ、個人情報も収集していくのだろう。
実力行使の始まり(2022.03.15追記)
3月10日になると、神真都Qの会員がワクチン接種会場でトラブルを起こしている動画が共有された。動画からは年配の男性が係員に対して体当たりし、掴みかかっているのが分かる。また、金髪の男性が医師に詰め寄っている様子や、それをニヤニヤしながら撮影している初老の女性も映っており、ついに実力行使が始まったと言える。
この動画は福岡のLINEオープンチャットにアップロードされたものであり、彼らからするとあくまで「正義の行動」である。
そして3月15日には上記の動画にも映っていた金髪の男性と、リーダーであるイチベイを中心に、神真都Qが東京ドームの接種会場に押しかけたため一時入場が制限されるというトラブルが発生し、buzfeedが速報記事を出している。
筆者は、少なくとも幹部についてはビジネス目的で始めたものと考えているが、こうなるとむしろ、反ワクチンや陰謀論について取材・執筆を行われているKヒロさん・ハラオカヒサさんが推測する通り、幹部が過激な会員に忖度する状況に突入している可能性がある。
集金のためにも会員を引き止める必要があり、士気の高まりは都合が良いためだ。また、過激な行動で人気を集める会員をパージしたことによって組織に亀裂が走ってもつまらないし、攻撃の矛先が幹部に向く可能性もある。
大規模デモを繰り返していることから神真都Qは既に警察・公安にマークされていると考えられ、このような実力行使を繰り返していては警察沙汰が起こるのも遠い日のことではないだろう。しかしそれでも過激な会員の行動は止まらないのではないだろうか。神真都Qの中では、「警察官はレプティリアン(爬虫類型宇宙人)で、松ヤニで退治できる」などという説も出回っている(実際に注意した警察官に対して松ヤニを持ち出していた人物もいる)。
仮に逮捕者が出たとしても、「悪の宇宙人に弾圧された正義の人物」ということになり、むしろ活動がヒートアップする可能性すら考えられる。勿論、さすがにまずいことに気付く人も出るだろうが、一度見つけた居場所を捨てるのは難しい。筆者としては、明確に「危険な団体」として扱うべきと考える。
一般社団法人「神真都Q会」の設立(2022.04.07追記)
3月18日には一般社団法人「神真都Q会」が設立されていた(所在地は神真都Q本部と同じ)。会員に向けてのパフォーマンスなのか、今後何かの活動に利用していくかは不明であるが、とにかく様々な動きを仕掛けるスピードは反ワクチン団体(神真都Qの場合は反ワクチンは目的ではなく手段だが)の中でも突出している。
ワクチン接種会場襲撃により逮捕者が発生(2022.04.07追記)
3月上旬時点でワクチン接種会場への実力行使が行われていることは上述したが、4月7日にはついに逮捕者が発生した。
渋谷区内のクリニックに押しかけ、4人が逮捕されたと報道されている。この中にイチベイは入っていなかったようで、騒動の直後に「緊急ライブ配信」を行っていた。
この中でイチベイは「違法なお縄」として不当逮捕を主張しており、チャット欄を見てみると「豆腐船(注:神真都Q用語で、悪人が連れ込まれてミンチにされるという船。実際には米軍の宿泊船)行きですかね」「警察はピックされる(注:悪人を豆腐船に連行すること)案件でしょうか」などといった会話が飛び交い、仲間が逮捕された割には危機感が全く感じられない。「ガンジー作戦」などと言って信者には大人しくするように指示しているが、果たしてそれで収まるのだろうか。
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