ジョン・タイターとは何だったのか
2036年からやってきたタイムトラベラー
2000年11月2日、オカルト好きが集まるTimeTravelInstituteというサイトの掲示板に、タイムマシンの実現と写真の所持を主張するアカウントが現れた。
この投稿こそ、ジョン・タイター(当初のハンドルネームはTimeTravel_0)がインターネットに登場した瞬間であった(出所は匿名の人物ではあるが、2000年10月14日深夜のIRCログも存在しており、こちらが初出とされることもある)。タイターは2036年からやってきたと自称し、この時代にやってきた理由や予言を語ると共に、それらしい画像も投稿した。
これはネットユーザーたちの興味を惹き、まとめサイトが作られると共に超常現象や陰謀論で人気のラジオ番組でも特集され(前の記事でも登場したCoast to Coast AMである)、書籍(John Titor: A Time Traveler's Tale)も発行された。さらに、2004年にはタイターの理論をベースに特許を登録した人物も登場した。その特許は「重力歪みと時間変位の方法」というもので、タイターの画像が添付されている(なお、この件と関係があるかは不明だが、特許出願者のマーリン・ポールマンは、4人の女性への薬物投与と性的暴行の容疑で2013年に逮捕されている)。
また、日本でも2006年に『未来人ジョン・タイターの大予言』という書籍が発売され、人気作品『STEINS;GATE』の設定にも活かされた(作中に同名の投稿者も登場する)。
さて、ジョン・タイターが語った内容は、大要下記の通りである。
ジョン・タイターは1998年に米国フロリダ州タンパで生まれ、ファイティング・ダイヤモンドバックスというショットガン歩兵部隊に所属している。
タイターは2036年から1975年にタイムトラベルした。その目的はIBM5100を回収し、2038年問題を解決するためである。IBM5100を回収した後、家族の様子を見るためと、写真を回収するため1998年に立ち寄った(1998年、Coast to Coast AMの司会者であるArt Bellに2036年から来たタイムトラベラーからFAXが送られており、これは後にジョン・タイターからのFAXとして扱われることになる)。
タイムマシンはゼネラル・エレクトリック製で、正式名称は「C204型重力歪曲時間転移装置」。未来/過去方向へ10年/hのタイムトラベルが可能で、車に搭載して使う。当初はタイムマシンを搭載した1967年式シボレー・コルベットを利用していたが、後に87年式の4WDに乗り換えた。
タイムトラベルの基礎はCERNによって研究され、最初のタイムマシンは2034年、GEによって製造される。
2005年から米国で内戦が勃発し、これは10年間続く。さらに2015年にはロシアが米国を核攻撃し、第三次世界大戦に発展する。この戦争では30億人の命が失われる。大戦勃発の「Nデー」には、日本、台湾、朝鮮半島は全て「強制併合」される。
公式なオリンピックは2004年以降行われず、2040年になって再開される。
2023年の今改めて読むと、第三次世界大戦は勃発しておらず、2004年以降もオリンピックは開催されている。また、1998年のFAXでは2000年問題で災害が起きると注意喚起がされているが、幸い大きな混乱は起きなかった。
実はジョン・タイターの予言のほとんどは外れており、的中したとされる予言についても「当たったとも取れる」程度か、当時の情報でも予測できる範囲である(例:2036年にローマ教皇は交代している→それだけの期間があれば交代するのは当たり前、中国がそのうち有人宇宙飛行を実現しても不思議ではない→中国の発展と科学研究について知っていれば不自然な予測ではないなど)。
そもそもジョン・タイターの投稿では世界線がパラレルワールドのように扱われており、「世界線が変わった」といえば何とでも言えるため反証可能性はなく、これが陰謀論者たちが無敵論法として世界線を持ち出す理由である。
簡単には得られなかった情報としてほぼ唯一挙げられるのはIBM5100の隠し機能(System/3向けのBASICとSystem/370向けのAPLの両方をエミュレートできる)だが、実はこれについても1991年発行の『The IBM family of APL systems』などで既に解説されており、ネット上にも情報はあった。IBM5100の開発に関わったBob Dubkeが「ネットで情報を見つけたのだろう」と言っているのもそのためだと考えられる。
ジョン・タイターは2001年3月24日の投稿を最後に掲示板から消えた。
その後、2009年11月20日にはジョン・タイターの母親によって投稿を依頼されたというタイターからのメッセージ、「John Titor Letter 177 tempus edax rerum」がYoutubeにアップロードされた。この動画では別の世界線のジョン・タイターが登場し、話がさらにややこしくなっているが、結局大きな動きにはならなかったようだ。
動画の説明欄に記載されたhttp://www.johntitorfoundation.com/はJohn Titor: A Time Traveler's Taleを発行したジョン・タイター財団を思わせ、そこには2人のジョン・タイターを示す表と、「177 Tempus Edax Rerum - Good Luck, John.」の文字がある。但し、このウェブサイトが登録されたのは2009年4月と遅く、シュタインズ・ゲートの発売日が2009年10月15日と動画の投稿日と近かったことから、この動画とサイトについてはマーケティングの一環を疑う向きもある。
正体と目される人物
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