14番が泣いた日。
その瞬間、等々力が歓喜に沸いていたか、一瞬静まり返っていたかは覚えていない。2017年J1リーグ戦最終節、川崎は優勝を自力では決められず、優勝争いしている鹿島の勝敗がすべてを握っていた。
同時刻にキックオフした他会場での試合に鹿島が勝利すればすべて終わりだ。
川崎は勝利が絶対条件で、勝ったとしても準優勝になる確率が高いと言われる難しい条件の中での試合だった。
超満員に膨れ上がる等々力でキックオフ直後にゴールを決めたのは川崎だった。その後も2点、3点と得点を積み重ね、無失点に抑える。
最後にダメ押しの5点目を決めてタイムアップ。結果は5−0の勝利!
鹿島の結果を知る人と知らない人が混在する中、聞いたことのない歓声が等々力の底から湧き上がり爆発するように広がった。
投げ入れられる青色の紙テープ、青覇テープだ!
ピッチに走り込む選手、スタッフ。抱き合う、抱き合う。
その時、2003年から川崎一筋の14番中村憲剛選手はピッチに倒れ込み肩を震わせ嗚咽していた。ともに闘って来た選手が背中に手を添える。
厳しいことしかないのではと思うようなプロサッカー選手の日々が、最後の最後に大逆転による初優勝という形で報われた瞬間だった。
今年は天皇杯、ルヴァンカップと2度の決勝でタイトルを逃していた。以前は川崎の選手としてプレーし、今年初めて監督に就任した鬼木監督は、最初のキャンプで「フロンターレの歴史を変えるのは俺たちだ」と言ったという。
その言葉を胸に、熱く厳しい闘いを続けて来た選手たち。
勝負の世界にはおよそ似つかわしくない奇跡のサッカークラブ、川崎フロンターレの選手たちが今、歴史を変えた。
これからも強く優しく、楽しくて愛されるこのクラブと一緒に。