1日で400杯コーヒーを淹れた話
こちらの話の続きです。まだご覧になっていない方は、先にこちらをお読みください。⬇︎
トラブル続出の午後
ここでどういう風にオーダーを通せば効率的かを考えた。
抽出器具は4セットある。1杯だてで4つ同時に淹れると2分の1カップなら8人分を一度に淹れることができ、これがもっとも効率的だ。
実際にはアイスコーヒーなども入るので、それらも計算に入れながら一度に淹れる最大公約数のオーダーを取って通すと良さそうだ。
このやり方がうまくハマる。徐々に列は短くなっていき、昼過ぎには数人が並んでいる程度まで落ち着いてきた。
そろそろ順番に休憩を回そうかと思ったのも束の間、他のお店に比べて列が短いことに気づいた人達がまた並びだし、あっという間に元どおり行列が復活したのである。
有り難い気持ちと休憩を回さなければという義務感にさいなまれながら、この状態がしばらく繰り返されていく。
そして、14時を回った頃、
「マスター、ろ紙はどこですか?」とスタッフが尋ねてきた。
「カバンの中にあるだろ」
「それはもう使い切りました」
「・・・・」
私はここで初めて、用意してきたものが全く足りていないことに気がついた。
「紙は、それしかない・・・」
スタッフの冷たい視線が「カミが無いのはお前の頭だけにしておくれ」と物語っている。
しかしどうしたものか。ろ紙とはドリップするときに使う濾過用の紙のことで、当店ではオリジナルのものを使っている。コンビニに行けば市販品はあるが、お店と同じ味で提供したい。
考え抜いた私は「Nさんに頼もう」とスタッフに告げた。
Nさんは本日運よく出勤を免れたスタッフで、今ごろは家で羽を伸ばしているに違いない。
ろ紙はまだ少し残っているとはいえ、間違いなく17時まではもたない。
苦渋の決断ではあるが、背に腹はかえられぬ。Nさんに電話したところ「このあと覗きにいくつもりだったので、お店に寄って持っていきます」と快く了承してくれた。
トラブルは続くよ、どこまでも
これで何とかなりそうだ。気を取り直して後半戦も頑張ろうじゃないか!
と思ったのも束の間、
「マスター、もうすぐ氷が無くなります」と、またもスタッフが。
「今日は暑いからね、アイスコーヒーがよく出るよね」
「どうします?アイスコーヒーやめますか?」
この暑さである。アイスコーヒーが無ければ、来た人はさぞガッカリするだろう。
しかし、忙しすぎて誰も買い出しに行く余裕はない。
「・・・・さっき会場にPさん居たよね?」
Pさんとは留学生のバイトスタッフで、今日はお客さんとしてこのイベントを楽しみに来ていた。
「確か20分前にあそこのお店の列に並んでいたぞ、まだその辺にいるかもしれない!」
「マスター、彼はまだその列に並んでいます」
見るとニコニコと幸せそうな顔をしたPさんが先ほど見た時と同じお店の列に並んでいる。
ちなみに彼はこの日、人気のありそうなお店のコーヒーを飲もうと、行列の長いお店を選んだ結果、5杯飲むのに2時間かかったそうである。
「相変わらず平和なやつだ。列から引っこ抜いて氷を買ってきてもらうのはまずいかな?」
「さすがにそれは人としてどうかと思います」
ここは我慢をしてPさんがコーヒーを受け取るのを待ち、それから氷を買ってきてらうようお願いした。
「氷ハドコニウッテマスカ?」
「どっかその辺にコンビニとかドラックストアがあると思うから」
と、確かに言ったはずなのだが、数分後にPさんは伊勢丹の袋に包まれたロックアイスを買ってきたのである。
そして私は、このとき生まれて初めてロックアイスがドライアイスで梱包されているのを見たのであった。
(一体どっちの原価の方が高いのだろう?)そんな疑問を飲み込んで、さらにレシートなど見る気にもならず、この後は高級(氷が)アイスコーヒーを提供したのであった。
※この後、用意した水も無くなるというハプニングもあったが、これ以上の恥の上塗りは名誉を傷つけるだけなので割愛させていただく。
フィナーレ、そして・・・
いよいよ、終了まであと少し。行列はまだ続いている。
めんどくさいから全部持って行こうと、たっぷり用意した豆も無くなりつつある。
予想をはるかに超える忙しさであった。
17時で終了になった時には、全員の顔に濃い疲労の色が滲んでいた。
7時間コーヒーを淹れ続けたスタッフの手にはマメができ、豆を売ってマメを作るというオチまで付けてくれた。
私はこれほど多くの方に来て頂けて、感動で震えていた。
・・・いや、震えているというより、フラフラしている。
めまい?そういえば、さっきから動悸も激しい。
何のことはない、一日中ほぼ飲まず食わずで、血糖値が下がっただけであった。
最後に売上の計算をすると、7時間で400杯(2分の1カップも1杯とした場合)以上を売っていた。
なんと、1分間に1杯を提供し続けたことになる。
やはり、これは若い人がやるべき種目だ。