見出し画像

有り余りすぎて足りなくなった世界

夜の街を歩いていて思う。駅チカの、チカではないロフトの上の、駅の改札から出て10分もあるかないところにあって、建物から一歩も出ない立地にある、ここは薄暗い商店街だ。
午後5時を過ぎると総菜屋がcloseの看板を店先に出し、人通りはまばらでおしゃれな店が多い。
そう。店は多い。店先に並んでいる商品はとても多い。カジュアルで、洒落ていて、なのにほとんど売れておらず完全に冷えたサンドイッチが凍えるほど寒い冬空の下に、透明なビニールに包まれたままカチカチに凍っている。
寒空ではない。ここは建物の中。なのに恐ろしく寒い。
ひとつ、またひとつと店の灯りが消えていくなか、私はその最後の店の中で外の様子を見守っている。
そんなことがしたいわけじゃない。こんなことがしたかったわけじゃない。
そんな言いわけじみた言葉を呪詛のように、まるで言うあてのある恨みつらみのように胸の内で口汚くつぶやく。
言う相手は、いないのだ。
虚しく言葉がこだまする。私の心の中で。
その言葉はまるで、永遠に響き続けるトンネルや洞窟の中を反響しているようなものだ。永遠に終わりそうもない反響の繰り返し。それでも少しずつ小さくなっていく声。
ひとつ、また灯りが消える。
時計の針が進んで、夜になる。
またひとつ、灯りが消える。
声はこだまとなって、暗い道の壁という壁にぶつかって反響する。
そうして最後は、私が居座るこの世界だけ。

現実を見たくない。現実なんか見たくない。
そう思い込んでも、窓の外は神秘の冬の空色で。
そう思い込むことで、窓に映る景色が他のものに見えるような気がして。
暗くなった通りに、人通りはなくなる。
有り余るほど手に持っていたものが、あれだけ宝物だと思い込んでいたそれが、気づけばそれが、廃棄品だと思えてきた。
誰もいなくなった通りの店先で、期限切れのゴミを持っている。
ゴミですら、無かったのかもしれない。私の持っていたものは、本当は何も無かったのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?