見出し画像

イスタンブールで殺されかけた④【完結編】

 次の店に着いた。タバコ臭い店内の天井にはこれ見よがしにシャンデリアが輝いていた。赤いソファーの席に通された。なんか、チープな佇まいだ。またもビールを注文したが、様子がおかしいと思った。東京でもこんな店行ったことない。
 アントニオと旅行や趣味について会話を弾ませていると、スラヴ系のホステス2人が僕らをはさむように座った。
 酒が回り気が大きくなった彼は、ホステスらを口説こうと必死だった。ホステスの1人に「ぼうや、私と一緒に踊らない?」的なことを言われたが、ろくに喋れなかった🍒。ダンスはムーンウォークしか出来んわ。その後は下世話な話題もありながらも会話を続けた。
 嫌な予感がずっとしてたので、彼に出ることを催促した。伝票が運ばれてきた。50分の滞在時間で、請求は日本円にして10万円。酔いが一気に覚めた。冷や汗が流れた。

 顔面蒼白になりアントニオに払ってくれるか聞いたところ、「ふざけるな!さっきおごったんだから折半だ!」と血相を変えてつっぱねられた。
 クレカ不所持、財布には1万円分の現金しかない。有金全てはたいたが彼の怒りは治らない。狼狽えていると店の奥からスーツを着崩した男が3人ゾロゾロと出てきた。ギャングスタだ。終わった。走馬灯が見えた。僕は彼らに羽交い締めにされ、全身をくまなく調べてられた。どうやらアントニオも彼らとグルだったらしく僕を罵り始め、暴力を加えられた。生まれて初めてmot*erfu*kerと言われた。英語でディスるときってほんとにそのワード使うんだと少し感心した。
 『I will prepare money! Let me go to the embassy!』と伝えた。いくばくかして一瞬、拘束が緩んだ。僕は私物を投げ打って一目散に逃げ出した。007/スカイフォールの冒頭のボンドよろしく走って走って走った。奴らが追ってくる。何度も路地裏に入り、角を曲がり巻こうと試みた。(この記事トップの写真は逃亡しながら位置を見失わないために撮った写真だ。)1kmくらい走っただろうかなんとか逃げ切った。その後、適当な路面店に入り店員に事情を説明してしばらく匿ってもらい、ホテルに戻った。
 ホテルのフロントマンに事情を話すと、観光客をカモにするよくある手口らしい。そして、現地のギャングスタはよくスペイン人等のラテン系の人間のふりをすると説明された。思えば、会話の中でスペインの有名人ハビエル・バルデムやペネロペ・クルスの名を出したときにアントニオは知らないと言っていた。それが伏線だったのだ。僕は奴らの手のひらで踊らされていたことがわかった。
 ホテルの部屋に戻って『地球の歩き方』を読み直したところしっかり、ぼったくりの常套手段と書いてあった。僕はバカだ。
 これが2017年夏の最大の思い出…とさ。

いいなと思ったら応援しよう!