【警鐘】虚構と現実の境界線が消えるとき:社交性の公共化と暴走、秘密が支配する未来
暴走した社交性
民主主義最後の日
2021年1月6日、世界一の国家が大混乱に陥った。民主主義の象徴たる議会は民衆で溢れかえり、ある種の黙示録的な映像が世界に対して生配信された。
「2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件」である。
舞台は2020年アメリカ大統領選、当時の大統領であったトランプ氏の支持者が、当選挙では不正があった(票を盗んだ)とし、同国議会を襲撃した。
1月下旬約800人ほどが議会内に侵入し、建物の破壊、略奪が相次ぎ、警察官を含む、少なくとも6人が病院に搬送されたとされている。さらにはこれをトランプ氏によるクーデター未遂事件とし、2023年8月1日、ワシントン連邦地裁の大陪審は、選挙結果を覆すために公的手続きの妨害を共謀したなどとする4つの罪でトランプを起訴した。
そして中でも注目された部分が彼らの中にQアノンが多く存在したことだ。
数年前から日本でも話題となっている、いわゆる陰謀論者である。
ただし、ここで重要なのはガイフォークスのマスクでおなじみのアノニマスとは全くの別物であるということである。確かに系譜というか歴史を考えればどちらも4chanに端を発しているので、近いといえなくもない。だが、アノニマス側はむしろ敵対視し、Qアノンに対する宣戦布告も行っている。
ではこのような事件はなぜ起きてしまったのか。その歴史を紐解いていくにおいて非常に有用な映画がある。それが「アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界」である。
現実と妄想の交錯
『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』である。2024年4月5日にNetflixで公開されたドキュメンタリー作品で、同社限定コンテンツとなっている。
簡単な流れとして4chanの誕生から、アノニマスの活躍、Qアノンの誕生とアノニマス達の苦悩、そして最後に議会襲撃事件が描かれる。
アノニマスやQアノン、これら全ての原点となっている4chanだが、その名前からして勘のいい読者はお気づきだろう。この4chanのさらなる原点は、我が国で生まれた有名サイト「2ちゃんねる」である。
2ちゃんねるは今では「論破王」として有名なひろゆき(西村博之)氏が開設した匿名掲示板で、日本でも良くも悪くも多大なる影響を及ぼした伝説のwebサイトだ。ここから数多くのミームや祭りが生まれ、その多くがいたずらから生まれたものであるが、ごみ掃除からサイバー攻撃まで善悪を問わない様々な影響を現実世界に与えた。(同サイトのキャッチコピーが「ハッキング」から「今晩のおかず」までというのは言い得て妙である。)
そして2ちゃんねるが影響力を持っていた時代、一部凶悪犯が事件前に書き込みを行っていたり、今でも問題となっている匿名による誹謗中傷などが社会的にとりだたされ、世間的にはあまりイメージを持たれないこともある。しかし、間違いなく今のネット文化の基盤であり、それに救われた人々も多くいるはずだ。私もその一人である。
そして、このサイトには前述した「祭り」という文化がある。これはある種の運動というか、集団心理によるいたずらの方が近いかもしれない。2ちゃんねるが各スレッドでいたずらを呼びかけ、現実に大規模に行うというものだ。そしてこの祭りの種類は多岐にわたる。完全にいたずらの「もやし買占め祭り」や人気投票でのいたずら系祭り(コイルショックや五条ショック、田代砲など)、珍しいものでいえばアフガニスタン募金によって学校を建てる祭りなどもあった(そして実際に学校が建てられた)。
しかし、いたずらはいたずら。たまには悪質なものもあり、問題となることも少なくなかった。ただし、2ちゃんねるやニコニコ動画などのひろゆき氏に始まるネット文化の系譜は偉大である。そのアニメ・漫画のいわゆるオタク文化やミーム文化は今のネット文化にも確実に受け継がれている。
話しが少しそれたが、こんなにも巨大な影響力を持った文化がいくらオタク文化発祥の地とはいえ、いつまでも日本にとどまり続けるだろうか。2ちゃんねるの系譜は海を越え、アメリカにたどり着いた。
オタク文化は海を越える
4chanは英語圏の2ちゃんねると思ってくれて構わない。当初は日本文化、特に日本発祥のオタク文化(アニメ・漫画・ゲーム・コスプレ)などを議論するサイトで、実際に「Japanese Culture」というカテゴリが存在している。
彼らは熱心なオタクで、時にはオフ会でもコスプレなどして楽しんだようだ(日本でいうコミケのような立ち位置だろう)
ここでも独自のミームや文化が形成され、Wikipediaには「英ガーディアン紙は、あるとき4chanを「気違いじみていて、子供っぽいが… 最高に滑稽で、おもしろく、驚くべきものだ ("lunatic, juvenile... brilliant, ridiculous and alarming.")」と評価した」と書かれている。これらをみるに、やはり多少の風土は違えど、2ちゃんねると同じような立ち位置だったのだろう。ちなみに創設者のmoot氏は当時熱烈な支持を得た。
そして、4chanも同じく徐々に現実世界に影響を与え始める。特に歴史的に意義がある事件がサイエントロジー抗議デモである。これがかのアノニマス誕生の瞬間である。
現実世界に飛び出した名無しさん
簡単に説明すると、サイエントロジーという宗教団体の(彼らからすれば)圧力に対する反対運動として、アノニマスは誕生した。事の発端はある一本の流出動画である。これはサイエントロジーが信者に向けて作成した動画で、かの大俳優トムクルーズを起用していた。これがYouTubeに無断転載されると、インターネット上では動画がミームとして爆発的に拡散し、それはもちろん4chも例外ではなかった。
既に協会の手には負えないほどの拡散を受け、サイエントロジーはYouTubeに対して動画を削除するように圧力をかけた。しかし、4chan民からしたらこの動画はミームであり、ある意味「おもしろ動画」に変わりない。「お楽しみ」を奪われたことに対する抗議として、「インターネット上の名無しさん」であった彼らが、現実世界のサイエントロジーの教会前で抗議デモを行ったのだ。これが4chan大きなの大きな転換点である。しかし、現実世界とはいえ「名無し」は「名無し」。顔を隠す悪ふざけ、ミームの一種としてガイ・フォークスのマスクがシンボルとして使われたのである。(ガイ・フォークスの元ネタも、全体主義体制への反骨精神を描いた映画「Vフォー・ヴェンデッタ」で登場する人物の仮面である)
これがメディアに大きく取り上げられ、大きな話題となった。
曖昧で架空の概念であった「名無しさん」はいつしか「名無しさん」という概念そのものになった。これがanonymous(名無しさん)の誕生である。
※anonymousは英語で「匿名」という意味。4chanではユーザー名が「anonymous」と表示され、2ちゃんねるでの名無しさんに当たる。
そして現実の運動としてのアノニマスが有名になる中、4chanには分岐点が訪れる。それが「ゲーマーゲート集団嫌がらせ事件」である。
#Gamergate
この事件は非常にセンシティブで複数の要因が絡む非常に扱いが難しい問題である。さらに政治的な主張も含むので、中立で網羅的な説明が難しい。よってバイアスが極力かからないようAIによって生成された概要を記載する。(不適切ではあるが、引用が非常に煩雑なため省略する)
このとおり、インターネット上の議論であったゲーマーゲートが、現実世界で多くの問題を引き起こした。そして、その舞台となった4chanは当時各方面方やり玉にあげられたのだ。そして、moot氏は運営から撤退した。
このように結果的にmoot氏は運営から引退したものの、2014年9月には4chan中でのゲーマーゲートの話題を禁止した。基本的にあらゆる議論が許可されている4chanの中で唯一特定の議題に関する禁止事項となった。
その後、過激なゲーマーゲーターは8chan(4chanの類似サイト)に移行し、嫌がらせ運動をより先鋭化させていった。
彼らの多くはトランプ支持者となり、彼らの「作戦」により、トランプ大統領が誕生した。(詳しくは映画を参照してほしい)。日本文化・アニメ文化のためのサイトであった4chanは事実上その主導権を「ジャック」され、moot氏は運営権を売却した。そして物語は現在へと繋がり始める。
「Q」&「A」
その頃、「Q」と名乗る人物が(彼らが言うには)予言的な投稿を4chanに投稿し、大きな話題を呼んだ(同様に詳しくは映画を見てほしい)。
そこから、「Q」は、トランプ氏は世界を裏から操る影の政府「ディープステート」と戦う救世主とし、自信は機密情報に触れられる立場にあることを主張した。それがさらに大きく拡散され、ネット上では彼の信奉者達が現れた。これがQアノンの成り立ちである。つまりQアノンとは「Q」を信奉する名無しさん(Anonymous)である。ここで重要なのは先述した組織である「アノニマス」とは語源(名無し)は同じくしても全く別の組織(群衆?)である(もちろんどちらにも所属する人間もいるだろうが)
先述の通り、トランプ大統領の誕生にはQアノン、そしてネットを使った彼らの「作戦」が大きく関わっている。特に彼らの「ミーム」を使った作戦し、現実社会でもそのミームは運動となった。ミームをシンボルとして現実の運動に移行、そして実際の社会へ影響を与える。この一連の流れを読者は見たことがないだろうか。そう、匿名たちの組織「アノニマス」の誕生とよく似ているのである。かつて強い影響力を誇ったアノニマス。いつしか忘れ去られた偉大な先輩の力を使わない手はなかった。Qアノンはアノニマスを真似てガイ・フォークスマスクをシンボルにし、街頭へ繰り出した。
「Q」vs「A」
しかし、ここで繰り返し強調しておきたいのは「Qアノン」と「アノニマス」は(完全に無関係とはいえないにしろ)組織として別物であり、信条も目的も何もかもが別種であるという点だ。ただ、その起源の言葉とプラットフォーム、そしてシンボルである「ガイ・フォークスマスク」が共通しているというだけである。非常に紛らわしく、シンボルを同じくするところからQアノン側はアノニマスにシンパシーを感じているようである。ただし、アノニマスは全く逆の感情を示していた。
時を冒頭に戻そう。アメリカ議会襲撃事件から数日がたったころ、FBIは関係者を調べ70人以上が摘発された。しかし、最初に述べたように議会になだれ込んだ人数は数百人に及ぶ。まだ社会に潜むQアノンに対し、去ったはずのアノニマス達は再結集し、彼らに「宣戦布告」した。
そして、アノニマスによるQアノンへの攻撃が行われた。手始めに彼らが当日使用したSNS「Parler」の情報の解析とQアノンのフォロワーの個人情報流出、さらに彼らが信奉するトランプ大統領のTwitter(現 X)のログインパスワードを解析し、そこから同氏が利用する数々のパスワードを暴いたようだ。
議会襲撃事件におされ、Twitter社はトランプ氏のTwitterアカウントを凍結した。そのためトランプ氏は自ら類似SNS「Truth Social」を立ち上げたが、直ぐに(おそらく)彼らによって荒らされた。
これは(アノニマス側からすれば)シンボルを「パクられ」、まるで仲間かのようにふるまったQアノンに対する戦争なのだ。
本映画を引用するならば『「アノニマス(匿名)」が彼ら(Qアノン)の匿名を暴いた』のだ。実に皮肉な話である。
「Question」&「Answer」
アノニマスとQアノン、そして我々はどこへ向かうのだろうか?
再び大統領に就任したトランプ氏に対し、世界はどう動くのだろうか?
我々の声は政治に届くのだろうか?
これらの「質問」に対する「回答」は今ネット社会に生きる我々が決めるのである。今までの話はほんの一握りの一例ではない。これはある意味実に一般的で普通のことなのだ。我々がネット上につぶやいた何気ない一言が(その目的に関わらず)、世界を動かすのである。これはある意味民主的ともいえるし、ある意味危険ともいえる。我々の言葉には数多くの群衆を巻き込むチャンスがあり、リスクがある。
「ネット上の振る舞いが社会に影響を与える」
読者諸君にはこの事実を深く胸に刻み、これからの生活を送ってほしいと私は思う。
【まとめ】ネットから現実へ
ここまでは4chanを中心にインターネットが現実世界に及ぼした影響をまとめた。何気ないたった一言の書き込みが政治デモになり、人を殺し、そして議会襲撃というショッキングな事件にまでつながるようになった。
冷静に考えるとただの電子情報が良くも悪くも(主にここでは悪い面を取り上げたが)、私たちの生活に強い影響があるということはなかなか考え者である。では4chanをはじめとしたインターネット上の交流の場はどのようにして生まれたのか。そのきっかけは秘密結社に代表される「秘密コミュニティ」にある。
有料部分ではその「秘密コミュニティ」とSNSの誕生、日本における事例を紹介する。そしてこれらの分析などを行い、これからの共同体のあり方とそのビジネス、さらには政治思想への影響について論じていく。
【筆者からのおしらせ】
この無料部分と有料部分に、すでに必要な情報はしっかり詰め込んでいます。ただし、さらなる資料の追加や社会情勢の変化に応じて、今後も必要な加筆修正を行っていく予定です。その際、内容の充実に伴い価格を引き上げる可能性があるため、現在が最安値となります。興味があれば、ぜひこのタイミングでのご購入をおすすめします。
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【追記】12/3
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社交性の公共化
現実からネットへ
無料部分まではネットから現実世界に影響を及ぼした例を紹介した。しかし、そのネットは当然最初から我々と共にあったわけではない。人類の誕生と同時に歴史を歩んできたのは当然「現実」の方である。これからはまず如何にして現実がネットに影響を与えたのかを論じていく。
秘密のクラブ
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