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第三帝国の誕生 第10夜~民主主義の死~

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『第三帝国の誕生 第10夜~民主主義の死~』

■前回まで

【N】前回はヒトラーが首相に就任したところまででしたかね。
【D】うん、そう。
【N】松明行進のところで──。
【D】そう。ようやくここまで来ましたね。
【N】しかし完全なる掌握というのがまだなんですよ。
【D】そうですね、見ると全然ナチ党は政権に入っていないし──。
【N】そうそう。少数派による内閣で、しかも囲い込まれているという状況であったと。これをどうひっくり返していくか、という話になっていきますね。
【D】はい。

■『最後の選挙』に向けて----00:00:39

[TIME]----00:00:39 初閣議
【N】──まあ、就任の日、すなわち前回話した松明行進が行われる前の夕方5時に、新内閣初の閣議が開かれていたわけです。そこでやはりヒトラーは、国会解散の話を持ち出す。
【D】はいはい。
【N】前回、ヒトラーは首相就任した暁には国会を解散し、総選挙に打って出ようとしていた。が、それを国家人民党のフーゲンベルクが「え、いやだよ……」と反対していたという話をしましたね。
【D】うん。
【N】しかし、ここでまたあらためて解散したいという話を持ち出す。
 曰く、共産党を禁止すれば議会で多数派を形成することができるが、それではゼネストを引き起こす可能性がある。
【D】ゼネスト。
【N】ゼネスト、全国規模でストライキを起こすということ。
【D】はい、うん。
【N】それによって共産党が反撃に出てくる可能性がある、と──。
【D】うん。
【N】そうなると軍を使わねばならないが、それは避けたい。内戦になってしまうので。実際、ゼネストが起きるという噂はあったらしいです。

※1月30日、実際にドイツ共産党は全国にゼネストを呼びかけていました。しかし翌31日にメスリンゲンなど一部の都市で実行されたのみでした。(石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』第四章2)

【D】ふーん。

[TIME]----00:01:53 まだ議席が足りない
【N】しかもここで過半数を取らねば不信任案を出される可能性もある。
 なので、ここはいっちょ解散して、選挙で過半数を取ろうじゃないか、というわけね。
【D】なるほど。
【N】ここで押さえとかにゃならんのは議席数。ナチ党は第1党なんだけれども、議席は196。そして現状の政権で連立を組んでいる国家人民党と合わせても248。で、これ、実は過半数に足らないんですね。
【D】はいはい。
【N】過半数は多分293とか取らないといけないから。

※この共和国の選挙制度だと議員総数は変動するので、この限りではありませんが。

【D】結構、まだ遠いっすね。
【N】うん。一応現状でも最大勢力ではある。じゃあ何がイカンのかというと、この状態だと不信任を出されたら否決できない可能性がある……。
【D】うん。
【N】他の野党が不信任案を出し、それが全部賛成してしまったら政権が覆されてしまう。
【D】みんなが結託してしまったら負けると。
【N】──という可能性があるので。ましてヒトラーとしては全権委任法をゲットしたいわけですよ。これは憲法改正が必要なんで、3分の2の賛成がいる。
【D】うん。3分の2か。はいはい。
【N】現状の頭数ではできない。だから解散して総選挙をしたいと。
【D】うん。
【N】どう過半数に到達するかということがテーマだった。
【D】そうですね。
【N】だからと言って共産党を禁止してしまうと、ゼネスト──国内の左派が一斉ストライキに入るかもしれない、ということをここで言っているわけ。
【D】うん。
【N】これ、かつて実例があって──、カップ・リュトヴィッツ一揆という右派クーデターがあったのを憶えていますかね?
【D】憶えてる、憶えてる。
【N】そのときに左派のゼネストが起きているんだよ。これ、すごい規模だったんで……。
【D】うん。
【N】このとき右派・保守派のクーデターというのは阻止された。実際は左派のゼネストだけで阻止されたわけではなくて、もともとクーデターを起こした奴らが結構グダグダだったから、というのもあるんだけれども──。ただ、ゼネストをやられるとかなり厄介である、という危惧がこの時点であった。
【D】うん。

[TIME]----00:04:08 中央党との交渉
【N】ということで、ヒトラーたちは少しでも味方を増やすために、カトリック政党の中央党と交渉を持つんですね。
【D】はいはい。
【N】中央党って昔から政権には参加している党なのよ。伝統的に。なのでここを味方に引き入れようと。
 しかし、実はヒトラーたち自身あまり本気で中央党を引き入れようとは思っていなかった。なので条件は折り合わなかった──、という体でさっさと交渉を打ち切ってしまう。
【D】うん。

[TIME]----00:04:43 解散
【N】そのうえ、ヒトラーは「これはもう解散しかねえわ」ということを言うわけ。最初から解散したかったから。
【D】うん。
【N】そうして、1月31日から2月1日にかけて国会の解散が決定。選挙は3月5日と定められました。
【D】うん。
【N】まあ、また選挙です……。
【D】はい。
【N】しかし、彼は自信があるんでしょうか。
【D】何か秘策があるんですか?
【N】あるんでしょうね……(笑)。

[TIME]----00:05:14 選挙戦略?
【N】まあ、選挙は支持者を獲得しなければ勝てないですよね? だからヒトラーはもちろんその戦略も立てたでしょう。しかしですね──、バカ正直に支持を増やさずとも、もう一つ勝つ方法がある。
【D】ほうほう。
【N】なんだと思います?
【D】ええ……。選挙に関係というか……、選挙以外の方法じゃないよね?
【N】現代の我々の常識からしたら、「え、ダメでしょ!」という。
【D】なんだろうな。買収とか……。
【N】あー、もっとひどい。
【D】もっとひどい? 買収よりひどい……。
【N】あれですよ、支持を増やさなくてもいいんですよ。
【D】支持を増やさなくてもいい……? ということは……一応、選挙をやるんだよね? 勝つために。
【N】やります。ただ勝つには──支持を増やさずに勝つ方法としては、何があるかということですよね。
【D】え、なに……脅し……?(笑)
【N】あ、まあ、近いすかね。
【D】近い……。
【N】まあ、これ言ってしまうと、他の党を動けなくすりゃいいんすよ。
【D】動けなくする……どういうこと?(笑)
【N】選挙活動させないという──。
【D】おー。活動をさせない。……どうやってやんの?。
【N】それこそまさに、大統領緊急令で可能なわけですよ。
【D】ああ、はいはい(笑)
【N】選挙までの2カ月、それがフル活用されることになる。
【D】はいはい。
【N】これ、まさに国会を殺すための国会選挙だった。
【D】おぉ、とんでもねえことをやったな。
【N】じゃあ、それはおいおい語るとして──。
【D】はいはい。

[TIME]----00:07:02 共産主義撲滅選挙
【N】その日、2月1日の夜、ヒトラーは初のラジオ演説を行いまして、この選挙のテーマを宣言するんですね。
 共産主義──ボリシェヴィズムによる国民の汚染と国の崩壊からドイツを救うという使命が託された、と宣言したんです。
【D】ほうほう、何かうまいこと言っているような気がしますな。
【N】このときは緊張していたとも言われるんだけれども、ちょっと普段と違って煽るようなスタイルではなく、しっとりとした平板な演説だったんですね。このラジオ演説は。
【D】へえ、そうなんだ。
【N】が、内容がすげえ平板ではなかった(笑)
【D】口調は平和なんだけれど……(笑)
【N】このとき掲げたテーマは、明確にマルクス主義撲滅を掲げた選挙になることを表明したわけですよ。
 今回の選挙における敵は第3党、ドイツ共産党(KPD)というわけ。
【D】うん。
【N】もちろん、KPDもそれに抵抗する方針ですよ。明確に一つの党派を破壊するというのが、この選挙の眼目だった。
【D】うん。
【N】で、それ以外にも経済政策に関して、ヒトラーは「4年以内に失業問題を解決させる」と約束するんですね。
【D】うん。
【N】これはアレですわ。後世、ナチ党の評価を巡ってさんざんこすられることになる失業問題。
【D】うん。
【N】これは、ちょっとあとで触れることになりましょうかね。
【D】はい。

[TIME]----00:08:34 国軍へのアピールと再軍備計画
【N】また、ここで彼は「軍縮」──、軍備増強によらない平和を志向するという、ちょっと良さげなオプションをつけました。
【D】ほんまですか。
【N】ええと、控えめに言ってウソです。
【D】(笑)……控えめだな。
【N】なぜ嘘と言えるかというと、3日の夜、陸軍最高司令官のクルト・フォン・ハンマーシュタイン=エクヴォルトの邸宅で、ヒトラーは軍首脳部向けに演説を行っているんですよ。
【D】うん。
【N】これ、秘密演説で国民には知らされていない内容。
【D】はいはい。
【N】ここで彼は以下のような趣旨のことを主張している。──これは非公開の演説だけれども、現場にいたクルト・リープマンという軍人が記録していたんですよ。で、内容なんですが──。
 ・マルクス主義を撲滅し、民主主義の如き悪性腫瘍を摘出しなければならない。
 ・ヴェルサイユ条約は否定。
 ・輸出を増やすのは無意味である。
 ・失業問題の解決には入植、すなわち植民地への移住。
 ・再軍備が果たされなければならない。
 ・軍が必要となるのはまだ先ではあるけれども、東方にレーベンスラウム──生存圏を獲得し、これを徹底的にゲルマン化する可能性がある。
 ・国内での政治的紛争は軍ではなくナチ党に任せてほしい。しかし突撃隊を軍と同列の組織にするつもりはない。
 ──というような、ざっくりとした内容なんだけれども、これつまり、ドイツの発展のために東方すなわちロシア方面へ侵略する。
【D】うん。
【N】そのために再軍備すべきである──という言葉に聞こえますよね?
【D】再軍備するんだけれど、今ちょっと待っとけ、ということだよね。
【N】そうだね。あと大事なのは、突撃隊を軍と同列の組織にするつもりはない、というところ。
【D】そうだよね。でも、「突撃隊は力を持つよ」ってことだよね?
【N】あ、いや──軍は突撃隊を非常に警戒していたんで、このとき軍に対して「本当に頼るべき武装組織としてはもう国軍しかない」「突撃隊を国軍並みの武装組織にするつもりはない」ということを言って、国軍の首脳部を安心させているのね。
【D】ああ。
【N】なので、これは明確に彼の本意というか、本音が表れた演説であったということは確かで。
【D】ふーん。
【N】ただこの演説には、一部違和感や警戒心を覚えた将官、軍人たちもいたらしい。特にネガティブな反応を示したのは、ヴェルナー・フォン・フリッチュ、あるいはフリードリヒ・フロム、オイゲン・オットといった人たちなんだけれども──、とりわけヴィルヘルム・リッター・フォン・レープという軍人はこんなことを言っている。
「優れた商品を売る商人は1時間も声高に商品アピールなんかしない」と。
【D】おー。
【N】かなり警戒心を露わにしている。ようは軍にとってすごくイイ感じのことを言ってくれているんだけれど、逆に強くアピールされすぎて胡散臭すぎる、ということを言っているね。
【D】なるほどね。うーん。
【N】これらの警戒心をあらわにした人々というのは──ずっと先のことだけれども──左遷や死に追い込まれていますね。(全部がではなく)そういう人も含まれている。あとで思い返すと──って感じね。
【D】うーん。
【N】しかし、全体としてはこの場で異を唱えた者というのはいなくて、多くは好意的に捉えていた。「ヒトラーはだいぶ軍に歩み寄っているな」と思った人達が多かった。
【D】うん。
【N】まあ、ヴェルサイユ条約の否定と再軍備というのは軍の目的とも一致しているから。軍は再軍備したいんですよ。
【D】うん。
【N】──ヴェルサイユ条約によってメチャメチャ骨抜きにされているじゃないですか、この軍隊。だから、そうではない一人前の軍隊に戻りたいという願望が非常に強かった。ヒトラーはそれに応えようと言っているわけ。
【D】うん。
【N】軍は軍の思惑があり、そしてヒトラーとの利害が一致したという。
【D】うーん。これはなんというか、ヒトラーもそういう考えがあったからなの? それとも軍を引き込むためにそういうのも……。
【N】ああ、もちろん再軍備はヒトラーの望むところでもあった。
 ただ、それにはどれだけ軍の協力が得られるかということで、交換条件みたいなものは当然考えなければいけない。だからそういう中で、「突撃隊を君たちが危惧するような扱いにはしないよ」と約束している。そこに取引がある。
【D】なるほど。
【N】取引というか、ヒトラーとしても国家の武力の要はやはり国軍であるという認識を持っていたので、それを突撃隊に任せる気はなかった。
【D】うんうん。
【N】ただ、それが後々に非常な問題を起こすんだけれどね。
【D】ふーん……、なるほど。
【N】ともかくヒトラーは再軍備のため、この後の閣議においても軍事費優先の経済政策を主張する。だから。ここから再軍備というものが非常に具体的なものとして出てくるわけですよ。
【D】うん。

[TIME]----00:14:10 「我らに四年与えよ」
【N】──ちなみにこのあと2月10日、ベルリンのスポーツ宮殿(Sportpalast)でヒトラーは3月の選挙を告知する演説をしている。
【D】うん。
【N】これは当時ラジオ中継もされたんですね。しかも、まとまった尺の映像が残っているので、初期のヒトラー演説では特に有名。
【D】ふーん。
【N】これは映像を見たことがある人も多いんじゃないかなと思う。確か『映像の世紀』でも流れていたんじゃなかったかな。
【D】ヒトラーの演説をいくつか見たけれど、どれがどれだかわからんなー。
【N】たぶん一番よく流れていると思う。

1933年2月10日、ベルリン・スポーツ宮殿での演説(米国ホロコースト記念博物館ウェブサイト)

【D】ああ、そう。じゃあ、(見たこと)あるだろうな。
【N】多分あると思う。アタシも何度もこの演説聴いてますけれど……やっぱり音楽的でね、かすれた声は強いですよ。サビみたいなのがあってさ(笑)
【D】うんうん。
【N】「アイネ、ツヴァイ、ドライミリオーネン、フィーアミリオーネン、フンフミリオーネン、ゼクスミリオーネン、ズィーベミリオーネン。ホイト、ムーグェンス……」という、一番アガるところがあって……(笑)
(前出動画の6分50~)
【D】それを覚えているというのがヤバいけれどね(笑)でも音楽的だね。
【N】そう、音楽的。
【D】うん、ちゃんと盛り上がりを作っていくところはホントに上手いよね。
【N】最初は静かでね。演説を始めるまでに何分も黙るんだよね。なかなか切り出さない。段々、最初は熱狂していた国民も「おや?」と思って静かになっていく。学校の先生がよくやるじゃん。
【D】あれはやっぱ常套手段ですね。
【N】そうそう。「皆さんが静かになるまでに3分経ちました」みたいな。あれをやっていたんですよね、この人。
【D】うん。
【N】段々段々アガっていって、どんどん話が単純に、言葉が単純になっていって……。繰り返しの強さ。
【D】うん。
【N】まさに今言った「アイネ、ツヴァイ、ドライミリオーネン、フィーアミリオーネン、フンフミリオーネン」というところは本当にリズミカルで、トントントントンとピークに達していくという。
【D】うん。
【N】ちなみにいま言った部分は、確か失業者の数字か何かを数えているところなんだけれど……。
【D】ふーん。
【N】──まあ、これは映像もあるので観ていただけるとよくわかると思う。
【D】うん。
【N】そしてこの演説で言ったフレーズ、「ドイツ国民よ、我らに4年を与えよ」というのが非常に有名なセリフ。
 これ、さっきのラジオ演説でも触れたんだけれども、4年で失業問題を解決し、経済を再建すると宣言したわけ。
【D】うん。
【N】これ、なんで有名かというと、表向き実現するんですよ。なので歴史的によく知られた言葉になったわけ。
【D】ほう。
【N】ただ、その「失業問題を解決した」というのはあくまでカッコつきで、その実、色々なことがあるわけですが……、それはあとで触れますね。
【D】うん。
【N】本当に実現したんですか? ──というところで……。
【D】ふーん……。

■攻撃----00:17:10

[TIME]----00:17:10 「ドイツ国民防衛のための大統領緊急令」
【N】──まあ、こうして選挙に向けての一手が繰り出される。
【D】はい。
【N】さっき言った話ですね。どうやったら勝てるか──。
【D】はい。緊急令を出すんですね?
【N】そう。2月4日、いわゆる緊急令が発効するんですが、それは「ドイツ国民防衛のための大統領緊急令」という名前の緊急令。これは政治集会と報道を規制する法律です。
【D】うん。
【N】これはもともと、パーペン内閣時代、ベルリンの交通労働者ストライキのときに発案されたものなんだけれども、ここへきて引っ張り出され、この選挙戦で使われることになった。端的に言えば、特定の党に選挙活動をさせないという、あからさまなデバフですね。
【D】わかりやすい。
【N】これにより、ドイツ共産党などは集会と新聞の発行を封じられます。選挙が始まると同時に選挙活動を封じる法律を出すんです。
【D】うーん……。
【N】選挙ってなんですかね?
【D】(笑)……なるほど、なるほど。

[TIME]----00:18:25 ゲーリングの警察権力掌握
【N】──そうして選挙と権力掌握に向け、ナチ党の幹部であるゲーリングも動く。
【D】うん。
【N】彼は中央政府では無任所大臣という、特定の役職がない大臣なんだけれども、同時にプロイセン州内務大臣にも就いている。
【D】あー、はいはい。
【N】これはドイツ国土の3分の2という巨大州の警察権力のトップ。
【D】うん。
【N】ちなみにヴァイマール共和国の警察権力というのは中央政府ではなく、各州が持っていたのね。だからドイツ最大の州の警察権力を握ったということになるわけ。
【D】ふーん……。
【N】で、ベルリンも当然このプロイセン州に含まれている──。なので、ヤバいポジションにヤバい奴が就いたということなんですよ。
【D】やっぱりヤバい奴なんですね、ゲーリングは。
【N】そうそう。そして囲い込み内閣なんて言っているんだけれども、このプロイセン州の内務大臣をゲーリングに渡しているというのはかなりヤバかった。これ、何で当時そこを見逃されたのかな、って不思議に思うんだけれども。
【D】うん。
【N】ゲーリングは着任すると早々に、警察組織から自分たちに服従しそうにない者たちを追放し始めるんですよ。
【D】うん。
【N】そして2月17日には傘下の警察官に対し、突撃隊、親衛隊、鉄兜団らと協力し、「銃器を用いてでも国家に敵対する組織と戦うこと」と命ずるんですね。
【D】銃器を用いてでも……。
【N】「銃器を使用した警察官がいればこれは保護するが、反対に使用をためらい、誤った配慮をする者は処罰する」という命令を通達したんです。
【D】すごいな(笑)
【N】さらっとヤバいこと言っているんすよ。普通は銃を使えば適法か否かを問われるのが近代警察ですよ。
【D】うん、そうですね(笑)
【N】ここではむしろ逆で、ためらうものが問われるんですよ。
【D】だんだん何かイメージするナチ・ドイツになってきましたね。
【N】ああ、剥き出してきましたね、ここで(笑)
【D】はいはい。うん。

[TIME]----00:20:35 補助警察と共産党攻撃
【N】そして2月22日には突撃隊、親衛隊、鉄兜団を補助警察として公的な警察力に組み込むんですね。
【D】おぉ、へえ……。
【N】彼らはもともと私兵集団ですよ。
【D】うん、そうだよね。
【N】鉄兜団なんかは退役軍人会ですから。これが治安維持の職務を与えられたんですわ。
【D】なるほど、なるほど。ヘルズエンジェルズが権力を持ったような感じですね。
【N】ああ、そういうことですよ、まさに(笑)
【D】(笑)
【N】で、彼らを治安維持の大義名分のもと、政敵とりわけ共産党員を攻撃していくことになる。もちろん物理的な暴力を伴った攻撃。
【D】そうですよね。
【N】そして24日には共産党(KPD)の本部であるカール・リープクネヒト会館を捜査している。そこで共産党の反乱計画書なるものを押収したと発表したんですね。
【D】うん。
【N】これほどの剥き出しの暴力と威嚇にもかかわらず、国民の間にヒトラー政権に対する懸念が増さなかったのは、やっぱり反共主義。マルクス主義のほうをより脅威と感じていた人々が多かったからだと考えられる。まあ、あぶねえ奴らをとっちめてくれるなら、少々行き過ぎていてもいい──。
【D】うーん。なるほどね。
【N】──という感じだったのではないかと。もちろんナチ党も左翼の脅威を煽り立てているから。
【D】うん。

[TIME]----00:22:12 経済界の協力
【N】──さて、マルクス主義を脅威に思っていた人々といえば経済界・工業界が思い浮かびますが、折しも2月20日、ゲーリングの邸宅にクルップ社やジーメンス社などの名だたるコンツェルン──大企業の代表者たちが集まって、ヒトラーと会見を持つことになった。超大企業、一流企業の代表たちね。
【D】うんうん。
【N】ここでヒトラーは演説を打ち、昔から言っている「俺たちはアカじゃないから、私有財産制は否定しないよ」「マルクス主義は撲滅するからね」というアピールをする。企業家たちを安心させているんですよ。
【D】はいはい。
【N】ナチ党に対してまだまだ懐疑的な企業家たちもある時期まではいたから。
【D】うん。
【N】そして、その演説の後を引き継いだゲーリングがこんなことを言っている。「今後100年選挙は行われないかもしれないけれど、皆さんが不安に思っているような大変化は起きないから、皆さんにはぜひ経済的な支援をお願いしたい」
【D】うーん。なるほど……(笑)
【N】さらっとすごいヤバイことを言っている(笑)
【D】「今後100年選挙は行われないかも……」(笑)
【N】そうそう(笑)。確かにヒトラーたちはこの選挙を「最後の選挙にする」と言っているんだよね。最後の選挙──、つまり民主国家であることはやめたとハッキリ言っているわけ。
【D】うーん、そうですね。
【N】すごいなァ……という。
【D】うん。
【N】──そして1931年の「ハルツブルク戦線」以来、ナチ党に協力するようになっていたヒャルマル・シャハト──、憶えていますかね。ハイパーインフレを解決するのに功績のあった人。このシャハトが、居並ぶ面々に300万ライヒスマルクの寄付を求めるんですね。
【D】はい。
【N】「つきましては皆さん、ナチ党とヒトラーさんのために寄付をお願いします」と。そしてこの時の巨額の寄付が、党と政権にとって大きな軍資金になる。大企業の代表たちがナチ党に協力することを決めたわけ。
【D】うん。

■議事堂炎上----00:24:26

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