NEW 第4片 ユーロスターの味がする
第4片
共通の友人Mから同居人Nが釈放されたとの報を受けた。どういうカラクリになっていたのかは定かではない。
何分と辛い思いをしたそうで誰とも会わずにホテルに籠もっているという。
Mから私はパスポートを正しく持っていたのだから上手く話をまとめて居座ればホテルに泊まらなくても良かったのにと言われたが、警察に囲まれて同居人Nが逮捕されている中で下手に言い逃れを試みる方が怖く思えた。
そもそも部屋に警察が来た理由は、煩く騒がしくしていたのと少しばかり法にそぐわない甘い香りが漂ってたとの事で隣人と管理人のコンシェルジュがマンションのオーナーに話を上げ、事が膨らんだみたいだ。
同居人Nはブラジル人で友人Mもブラジル人だ。
何故かここロンドンの地で日本からは地球の裏側のブラジル人達と仲良くなった。
よく考えて地球儀を思い浮かべてみるとブラジルとロンドンは日本とロンドンより近いような気もする。
ユーロスターのプレミアムクラスで私は食事を楽しんでいた。
ロンドンの食事は正直口に合わなかったが、このパリへと走る列車で出る食事は何とも言葉を失うくらいの贅沢だったことは車窓に写る私の顔をみれば明らかだった。
長い海の底の更に下のトンネルから見える景色は暗闇という名のまだ見ぬ未来であった。
目を瞑ると見える暗闇は何時しかと過ぎ去った過去の記憶達に埋め尽くされていった。
ーーーおいっ!お前なんて言った?ーーー
「圧力だと…?!俺がお前に圧力を掛けているっていうのか?」
「いいか…!圧力ってのはだ…こういう事だ!!」
男がガラスの灰皿を振りかざす、じりじりとXに迫ってくる。Xからは言葉も出ない。
「や、やめ…」
「圧力って言うのはこういう事なんだよ!オラァ」
男は灰皿を床に叩き付け、硝子が飛散する音もつかの間、側に置いてあったパイプ椅子を降りかざし、瞬きをするまにパイプ椅子は何度も何度もXの顔面に叩きつけられ、歯が砕け、血が飛び散った。
「これでもまだ何か言いたい事はあるか?」
男も流石に興奮しているようだが、手は止まった。
Xは急いで出口から立ち去った。
走って…走って…
一先ず帰りたくなくとも帰るしかない場所へ。