業の秘剣 第十一片 チャリ
俺は天を掴んだ心持ちだった。
これは一隅の機会だと直感でわかったんだ。
奴らがあえて全身を隠す必要はないと思ったがね。
前の男は店主に近づくと、こう言ったんだ。
「ヘル君を探していてね、探ったところどうも此処に居そうと踏んだのだが。」
店主はまたもや淡々としてやがる。
「誰から聞いたのかね?」
前の男はやたら高圧的だった。
「覚えているわけなかろう。さきほどの言葉では足りないのか?これでどうだ?」
前の男は袖から小包を取り出し、手を伸ばして店主に向けた。前の男が小包を握る手を緩めないまま店主は小包の中身を手で触って確認して言った。
「中身は奥で確認しましょう。ここを開けるので、私の後ろの扉から倉庫へ入ってください。」
――チャリ――
この時の音を俺は聞き逃さなかったね。
金属の擦れる音だ。あの小包の中はきっと金目のものと踏んだね。
ヘル君てのはヘナ酒の隠し名さ。
俺はもちろんその名を知っていたが、いきなり隠し名を使うってのはちいと品がないもんでね。
いまとなっちゃあ隠し名も使いよう。
倉庫と呼ばれる扉に入ろうとする三人にも聞こえるように俺は店主に言った。
「へい、主人!酒に溺れたヘル君も大事だけどよぉ、俺はいい友を連れてるぜ!煙にむせたデス君だ。知ってるかい主人さんよ?」
店主はかなり怪訝そうな目で俺を見てきたが、店主が口を開く前に前の男がこっちを見て言った。しめたもんだ。
「おい、本当か?本当なら興味があるぞ。」
ここまで来たら俺の一勝ちよ。
「へへ、旦那…わかってるぜ、あなたらお忍びだろ?おっと大きな声で言っちゃあいけねえ、何で三人だけで闇夜に紛れてるかはしらないが、大丈夫さ。
俺はあなたらの顔が見えなくてもいいし、もちろん名前も知らなくていい。
…言葉が通じなくても…いいしな!」
全身を覆うローブで顔の表情はつかめなかったが、俺は前の男の首が少し傾くのを捉えた。
「どっちにしろ、あなたらは俺の持っているものを確認するまで俺の言ったことが本当か嘘かわかりはしないんだ。
不都合なことは何もない!どうだい?」
前の一人はしばし動きを止めたあと、店主に声をかけた。
「少し彼を一緒に連れて行っても良いかね?」
店主は答えた。
「ご自由に。」
こうして俺は倉庫とやらの扉の中に入った。