業の秘剣 第十三片 忌々しい
はっはっ、このときは俺も芸人になった気分だったぜ!
俺はすかさず前の男に耳打ちした。
「酒盛りには肴が大事ですって…お忍びなのはわかりますが、見てくださいこの部屋の作り!表からは寂れた酒場にしか見えないですが、中のそのまた中にやっと素晴らしく小奇麗な部屋!こんな隠れ家は初めて見ました。」
さらに給仕人に流れを委ねてみた。
「ここの部屋の戸締まりは万全かね?ほら…例えば…酒に溺れたヘル君のようになっても大丈夫かね?裏口から忍び込まれたりしないかね?」
給仕人は軽やかに答える。
「もちろん問題ありません。実はあまり大きな声では言えないのですが、この部屋はかつてこの太陽の都が堅固な要塞城市だった頃の偵察壕の名残です。
ただこのように造り込まれた円の形から本陣の会議部屋として使われていたと祖父は言っています。
これを裏付けるのはいざとなったときのための大地下壕へと通じる扉が残っていることです。
例え夜襲にみまわれようとも、火矢にそそがれようとも万全な造りになっています。
大地下壕の存在は公にされていませんし、正体を知るものはいません。
この入り口の扉の他に侵入の術はありません。」
何処まで給仕人の言うことが本当かは知らんが、俺は話を合わせた。
「ほら、彼も言っているとおりこの部屋は万全です。
何かあったときの大地下壕の案内は得意ですので任せてください。」
前の男が怠そうに言った。
「我々の身は心配しなくて結構。備え無しで夜を出歩くほど愚かではない。少し待て。」
前の男は三人の真ん中に座っている女と円の窓下に座っている後ろの男に向って西の言葉で問いかけた。
三人は少しの間西の言葉で会話していたが、俺には何を言ってるかわからなかった。
ただ会話している間に考えたのは、一つの疑問だ。
顔も身体も黒一面で惑わされていたが、前の一人は完璧に太陽の言葉を話す。
俺がこの国の北部の生まれだからこそわかる。
…忌々しい言葉だ…