業の秘剣 第四片 残る仕事
キケウスは秘剣の秘密を暴かんと、高級奴隷と下級奴隷を大きな閉ざされた部屋に集めた。
そこで高級奴隷の監視の元、下級奴隷に秘剣で心臓を突かせてみた。
そうするとまた身体は入れ替わった。
やはり、この秘剣の秘力は身体が入れ替わることらしい。キケウスは何組かにこの入れ替わりを試してみた。
そうすると、あることに気づく、この入れ替わり、魂の入れ替わりと呼ぼうか、それが相手の年齢性別人種を問わずに行われるということだ。入れ替わった魂をさらに入れ替え元に戻すこともできる。ということは、何かに使えるかもしれない。
そう例えば、別人と入れ替わることはもちろん、年老いては若い体に乗り移り、つまり永遠の命を手に入れる事が出来るのではないかと、そうか、東の果ての国の軍将に噂されていた永遠とはこのことだったのか、鉄仮面の下に本物の顔、すなわち仮の顔を隠し、肉体は入れ替わり、魂だけが永遠でいられると、そういうことか。
先ず、第一に私がすべきは、第一王子との入れ替わり、私の肉体は王族ではあるものの王位継承者ではない。そうだ、第一王子と入れ替わるのだ。
キケウスは策を練った。先ず、高級奴隷を入念に仕組み、王子を彼らのいる密室へと案内した。キケウスが王子に尋ねる。真夜中だ。
「王子殿よ、この秘剣の話は聞いているか?」
王子が答えた。
「いや、貴方、キケウスと死刑になるはずだった王族が入れ替わったということだけ。そもそもその秘密をお主が調べている最中ではなかったかね?」
キケウスの目が丸くなる。
「そうだ。その通りだ。王子よ。私のこの秘剣の恐るべき力を知ったなんだと思う…不老不死だ。お前も王子とはいえ、身体が弱ってきていると聞いた。どうだ。若い身体が欲しいだろう。そう、ふふ、そこに筋骨逞しい高級奴隷の肉体が縛ってある。この肉体と入れ替わってみるのはどうだ?なあに、気に入らなかったら戻せばいい、戻せることも実証済みさ。」
王子の目に光が冴えた。
「なるほど、それは面白そうだな。キケウス、お前は数々の戦で信用しているやってみたいぞ。」
キケウスがにたっと笑う。
「これは話が早い。それでは早速、そこに縛り付けられている高級奴隷と入れ替わりましょう。先程も申した通り良い身体です。さあ、秘剣を手に持ってください。」
王子が剣を取る。
「はは、そんなに重くないんだな。剣としても良い剣のようだ。では、いくとするか!剣を心臓に刺せば良いのか?」
キケウスが答える。
「その通りです。安心してください。返り血を浴びることもなく、剣は身体から弾き出され、気付いたときには、王子はあの高級奴隷の中です。」
王子が言う
「よし、やってみよう。」
王子は縛り付けられた高級奴隷の心臓を目掛けて剣を刺した。
すると二人は倒れ、秘剣も床に落ちた。さっとキケウスが秘剣を拾った。と、同時に元王子の身体を左に立っていた高級奴隷が押さえつけた。高級奴隷に入った王子が目を覚ます。
「おお、目が眩んだがこれで新しい身体が手に入ったかどれ?ん?いや、縛られてるんだったな。おーい、この紐を…」
キケウスがにたりと笑った。
「残念ですが、貴方はもう自由を手に入れられることはできないのですよ。さあ、高級奴隷、やれ!」
右に立っていた高級奴隷は棍棒で高級奴隷に入った王子を殴った。そして、気絶させた。キケウスはほくそ笑んだ。
「ふふ、貴方には深い深い牢の中に一生入ってもらいます。さあ、引き摺り出せ、闇夜に紛れてな。」
高級奴隷に入った王子は右に立っていた高級奴隷と奥に立っていた高級奴隷の二人に引き摺って連れていかれた。
キケウスが言う。
「なあに、高級奴隷よ、褒美は期待しておいて良いぞ。最後まで抜かるなよ。」
高級奴隷達は高級奴隷に入った王子を引き摺って出て行った。
キケウスは心の中で呟いた。そう、最後は俺の番だ。
キケウスは左側に立っていて王子の入ったものに秘剣を心臓目掛けて突きつけた。
また、世界は回り、王子の中にキケウスは入った。これで全てが終わった…のではなかった。これからがこの夜の大仕事である。
残る仕事は王の暗殺だ。