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『体育教師を志す若者たちへ』 第7章   部活動と生徒会 (最終章)


中学校内の「スポーツ遊び」の場所。部活動では使われておらず、テニス、バスケット、バレー、ミニサッカーなどができます。テニスをしているのは体育委員会が企画し、運動部に所属していない人を条件に募集したスポーツクラブ。週に2回程度、放課後好きなスポーツ遊びをします。                              

 この学校に赴任したとき、かつてのプールの跡地(陽当たりが悪く、校内の別の場所へに移転したとのこと)がテニスコートになっていましたが、テニス部はないので草が茂る空き地でした。そこを整備し、いくつかのスポーツ遊びができる場所にしました。フェンスには手作りのバスケットゴールを設置しました。主に体育委員会が企画する活動に使います。
 
 それでは今回は最終章の第7章になります。


第7章 部活動と生徒会

◇部活動と生徒会活動の共通点
 「部活動と生徒会」このタイトルに違和感を覚える人もいるのではないだろうか。この二つは課外活動であり、授業以外で任意に行われている活動であることが共通している。現在でも大学では、自治会の中にクラブやサークル活動が位置づけられているところが多い。これが本来の姿であり、部活動やクラブは学生・生徒・児童のスポーツ・文化要求実現の場として、これら組織の統治下で行われているはずのものだった。
 ところが高いレベルの活動要求、対外試合の過熱化、成績主義等によって活動が肥大化し、学校、あるいは教師側が直接テコ入れする組織へと変貌させてきてしまった。その煽りと言えるだろうが、ここまでやることは教員の負担が大き過ぎ、本務ではないということから、地域への移行が始まってきている。部活指導に生きてきた体育教師にとっては指導に熱を入れすぎたことで逆に自らの指導の場を失う羽目になってきているとも言える。
 序章で述べたように、本書では体育教師が部活動指導ができない時代を迎えるにあたり、本務である授業作りへ興味関心を向けてほしいという設定で書いてきた。そこで最後に、そうは言ってもスポーツ好きな生徒たちに、授業以外で行われる自由なスポーツ活動の指導に学校教育として関わっていきたいと考える体育教師がいるはずだ。そのために救いの道を紹介しておきたい。それは、本来の自治活動=生徒会活動の指導として、生徒の要求に応じたスポーツ活動を学校教育として展開していくことである。それも体育教師のすべき大事な仕事になる。

◇スポーツ要求の実現を図る体育委員会の活動
 体育教師は部活動指導がなくなると放課後が暇になるかもしれない。もちろん授業準備や生徒指導等に優先的に取り組まなければならないが、その中には生徒会の指導も含まれる。どの学校の生徒会にも委員会活動としての体育委員会があるのではないだろうか。生徒会は自治活動の一環であり、生徒たちの校内における様々な要求を民主的な手続きを経て実現させていく過程を学ばせることにある。教育基本法に示されている「民主的な国家及び社会の形成者」を育成していくために必要な学習である。
 ところが多くの学校ではこうした本来の意味での生徒会があまり機能していない。例えば体育委員会では休み時間の体育施設の見回りとか、教師側から指示された体育行事の運営を任されるだけのことが多い。本来の主旨から言えば、体育委員会は校内の生徒たちのスポーツ要求を掘り起こし、実現を図るために尽力すべき機関と言えるだろう。体育の授業だけでなく、いろいろなスポーツを楽しみたいという生徒は少なくない。それを実現させていくことは、実は教師が意図的に仕組む体育授業がやりやすくなることにつながる。なぜなら、体育の授業では限られた時間内で、教師が意図する運動種目しかできない。もっと違うスポーツがしたいとか、あるいは授業で体験した種目をもっと時間をかけて楽しみたいという生徒たちが必ずいるはずだ。そうした生徒たちの気持ちは放課後や休み時間に体育委員会が企画する活動で充足させることができる。このことは、体育の授業おいて学習すべき内容により集中させることにつながる。
 こうしたスポーツ企画の内容はすべて生徒たちが話し合って決める。体育の授業のバレーボールは男女混合で特別ルールもあったが、体育委員会主催のバレーボール大会のルールは生徒たちの要望で全て決まる。男女別の競技にしたり、サービスもオーバーハンドありになるかもしれない。ここで生徒たちの思い通りの企画を進めておくことが一方で男女混合、ひとりひとりを大事にする体育授業のバレーボールをやりやすくする。
 体育委員会を通して生徒たちに、休み時間や放課後にやりたいスポーツ活動を聞いてみよう。文化系の部活動に所属している生徒たちの中には日々運動不足を感じている生徒も多い。そうした生徒たちに放課後30分程度でもいいから、スポーツをする機会を作ってあげたい。どの学校にも放課後や自由時間の活動の優先順位というものがある。授業が最優先であり、放課後の補習なども他の活動より優先される。そして学級活動や生徒会はその次にランクされ、部活動よりも優先される。たとえその活動がスポーツ遊びであっても、生徒会活動としてなら部活動より優先させることができる。それだけではない。部活動が完全に地域移行していけば、日々の放課後は生徒たちがより一層遠慮なく自由に使える時間になるはずだ。 

◇体育委員会主催のスポーツ行事
 私はこれまでの教師生活の中で、中学生に体育委員会主催のスポーツ行事として以下のものを行ってきた。放課後のバレーボール大会、駅伝大会、里山登山、水球大会、昼休みのバスケットボール大会、リレー大会、バドミントン週間など。
 これらはすべて自由参加であり、観戦することもまた楽しい。大会要項は体育委員会で作成し、参加者を募集する。バスケットボール大会は体育館を使うので昼休みに実施。1試合10分程度の時間で行えば、大会期間中毎日1試合ずつ進めていくことができて数週間で終了する。リレー大会も1人50m程度の短距離リレーを昼休みに毎日1レースずつ行っていた。これらはやりたい者が勝手にやっている行事とも言える。そこには職員チームが参加することもあり、一緒に楽しんでいる。先生たちの絆も深まる。そして体育の授業と決定的に違うのは、そこに観客がいるということだ。放課後や休み時間なので関心のある生徒や先生方までも自由に観戦に来て雰囲気を盛り上げる。

 

廊下に貼り出されたバレーボール大会の対戦表。「今日の対戦はどこのチームかな」、通りかかる生徒たちが関心を持ち、観戦を楽しみにする生徒たちもいる。                  

 バレーボール大会や水球大会は試合時間がやや長くなるので放課後にしてきたが、これも毎日1~2試合程度行っていく。そうすれば部活動に行きたい生徒たちもちょっと(30分程度)遊んでから部活動に行こうということになる。生徒会活動なので1年生も部活動の先輩の目を気にせずに参加できる。指導する教師にとってもほぼ勤 務時間内の仕事になる。
 現代の子どもたちはスポーツを遊び感覚で経験してきている子が少ない。スポーツといえば大人の指導者に手取り足取り指導される、あるいはまったく運動しないかのどちらかになってしまっている。自分の意思で、あるいは友だちに誘われたりして、わくわくする気持ちで参加するこうした経験を是非させたい。
 放課後のバレーボール大会では、バレーボールを全く経験したことのない1年生(バレー単元もまだ始まっていない)が興味本位で参加してきたことがあった。ルールもよく分かっておらず、審判の体育委員や相手チームの先輩たちに手取り足取り教えてもらって何とか試合が進んだ。もちろんパスやラリーはなかなか続かずボールを落としてばかりだったが、参加者どうしで楽しく交流する姿は微笑ましかった。こうした息抜き的なスポーツ遊びが今の学校には必要なのではないだろうか。

放課後の水球大会。こうした企画があるからこそ、授業の水泳では泳ぐ学習に集中できる。

 体育委員会の仕事はスポーツ大会の企画だけではない。種目にこだわらずに放課後いくつかのスポーツに親しみたいという運動不足気味の生徒たちは多い。その生徒たちのためにスポーツクラブを作ることもできる。週に数回、放課後30分程度なら文化系の部活の生徒たちも参加できるだろう。やりたいスポーツ種目やその進め方は全て参加者で決めていく。最近はやりの「ゆる部活」のようなものだ(今回の記事の冒頭の写真)。こうした仲間が誘い合って体育委員会が企画するスポーツ大会に参加していくこともできる。

◇活動場所と用具
 しかし現在の放課後は部活動等でスポーツ施設が占有されているから、こうした活動はどこでするのかという疑問がわくかも知れない。体育教師なら校内の空き地にそのくらいの施設は自分で作りたい。校庭の隅にバレーコートの1面くらいは作れるだろう。50年程前までは、バレーボールの授業は校庭でやるものだった。スポーツ遊び程度のバレーボールなら校庭でも十分に楽しめる。バスケットの支柱つき移動ゴールは最近では数万円程度で買える。生徒会には予算がある。中学校の生徒会では、資源回収などをして結構な収入を得ている学校もあるだろう。福祉施設に寄付することもよく行われているが、自分たちの学校生活を豊かにしていくためにも遠慮なく使いたい。簡易バスケットゴールを一基中庭などのちょっとしたスペースに設置すれば、ハーフコートで3on3の試合ができる。テニスラケットはヤフオクで1本500円程度で買うことができたし、バドミントンラケットなら百円ストアーでも買える。こうしたものを生徒会予算で多数購入しておけばテニス遊びやバドミントン遊びができる。


バレーボール大会には毎回職員チームも参加し、生徒たちとの対戦を楽しむ。

 こうした活動に参加してくる生徒たちの笑顔はまた格別だ。その笑顔を見ると教師も元気になってくる。そのために体育教師はスポーツ遊びの場作りに奮闘したい。これが放課後の部活動指導に代えて体育教師が行うべき大事な仕事になる。

◇部活動が学校教育として残される道
 中学校、高等学校の学習指導要領には部活動について、「学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」とある。教育課程とは授業や生徒会活動、学級活動、学校行事などのことであり、これらとの関連を図れとはどういうことなのだろう。例えば吹奏楽部や合唱部が学校行事・生徒会行事としての文化祭で演奏することはこれに該当する。運動部の生徒が校内の球技大会で審判をすることなどもしかりだ。
 体育の授業との関連ではどうだろうか。例えば運動部に所属している生徒が体育の授業でリーダーシップをとることが考えられる。逆に体育の授業でまだ十分にできていないことを部活動の時間にオールラウンドな練習の一環として取り組むことも考えられるのではないだろうか。私が顧問をしていた陸上部では球技の苦手な部員が結構いた。その部員たちに週一回は練習の一環として球技を行い、体育のバレーボールやバスケットボール単元の時に、そこそこに活躍できるようにさせてきた。その活動場所は体育館ではなく、生徒会用に整備した校庭の隅のスポーツ施設だった。夏の暑い時期には水泳をして泳力を高めたこともある。
 運動部の顧問をしていると、自分が体育の授業で受け持っている生徒であれば他のスポーツ種目の技能状況も把握できるが、受け持っていない生徒についてはそのことが全く分からない。「えっ、君はそんなこともできていなかったの?」ということがありがちだ。その状況の生徒に部活動の専門的な指導ばかりしても効果は薄い。部活動の時間に側転のテストをして練習させたこともある。中学生の時期は特に様々な運動を体験して技能を高め、それを土台にして専門的な技能を高めるべきであり、その競技だけでトップレベルを目指すような指導は避けるべきだろう。

◇全国規模の中体連は解散すべき
私が中学生の頃は、中学校体育連盟(中体連)の主催する部活動の大会は県大会までしかなかった。県を越えたブロック大会や全国大会の存在は部活動の過熱化を招くとして禁止されていた。現在でも全国レベルを目指すようなレベルの活動は「教育課程との関連」があるとは考えにくいだろう。小学校でも全国大会の弊害が指摘され、最近になってようやく全国大会廃止の動きが出てきた。中学校でもこうした高いレベルを目指す活動こそ学校教育から離し、地域で希望者のみが活動できるようにすべきだろう。
 現在の中体連は中学校の教員たちによって組織されている団体であり、中体連主催の大会準備や運営をしている。その中体連をそのまま残して部活動が地域移行していったら、日頃指導していない生徒たちのために教員が休日の大会を準備し、引率や審判までしなければならないことになる。これはおかしな話だ。部活動が地域移行するなら中体連は解散し、特に全国規模の大会は各競技団体が主催すればよいと考える。すでに中体連以外の競技団体が主催する大会は全国にたくさん存在し、生徒たちは部活動としてそうした大会にも参加してきている。
 そして学校教育としての部活動が残るとしたら、それは前述したような「教育課程との関連」が図られる活動レベルに止めておくべきではないだろうか。専門的な高いレベルの部活動指導をすることと、日頃運動不足の生徒たちがスポーツ遊びに夢中になる環境作りをすることとどちらを大切にするか、体育教師としての資質が問われる。

◇「地域移行」の真のねらい
 部活動の地域移行は文科省・スポーツ庁だけでなく、実は経済産業省が深く関わっている。経産省のHPを見ると、「サービス業としての『地域スポーツクラブ』提言」として、「プロスポーツ・フィットネス・教育産業・学校法人など様々な運営主体による新業態として、有償で、学校施設や社会体育施設を活用し、サービス業として成長できる地域スポーツクラブ」を目指していることが分かる。つまり有償=会費を払って民間クラブに加入し、要求に合ったサービスを受けるという方向なのだ。部活動が民間企業の儲けの対象にされようとしている。
 これは今まで無料で学校教育として受けてきた部活動とは大きく異なるとうことが理解できるだろう。活動日程、練習内容・方法等は全て民間組織の専門スタッフが決めて提供するサービスとなり、希望者は金(会費)を払ってそのサービスを買うのだ。学校の施設を自由に使って、要望を出し合って自分たちで練習方法を考えたり、練習日程を計画したりという自主的なスポーツ活動=教育活動とは異なってくることが予想される。これまで述べてきた課外教育としての自主的・民主的スポーツ活動は学校教育でしかできないものとして教師が進めていくべき仕事になる。

◇教師も休日は地域でスポーツを楽しむ
 現在休日の部活動が地域移行しつつあり、そのあり方については様々な意見があるとともに、地域によって、あるいは競技種目によっても違った取り組みが始まっている。今から20年程前、学校五日制が始まろうとしていた頃、文科省は休日は家庭に帰すという主旨から休日の部活動はできなくなると言い始めた。その時長野県教育委員会では、社会教育としての保護者によるクラブを立ち上げれば休日も活動ができるというアドバイスをした。当時は全国的に地域総合型スポーツクラブを立ち上げようとしていた時期で、社会体育のクラブとしてそこへ参加していくことを考えたのだ。ところが地域総合型スポーツクラブはその財源をサッカーくじに頼っていたため、実際には予定していた財源が回って来なかったために多くの地域で頓挫してしまった。その後文科省は休日の部活動を認めるようになったので問題は一応解決したが、「休日の学校部活がなくなる」という点は現在の状況とよく似ていた。
 現在の部活動の地域移行は民間企業の儲けの対象とされていく心配があり、そしてまた20年前の経験から考えると、今度こそ公的支援によって地域スポーツクラブを根付かせ、中学生を含めた子どもから大人まで地域でスポーツを楽しむことができる状況を作っていくべきではないだろうか。
 そして休日には体育教師もその一員として、自身の生涯スポーツを楽しんでいくことができる。あるいは指導スタッフの一員に加えてもらえるかもしれない。希望すれば中学生たちの休日スポーツに関わることもできるだろう。これまでの学校の部活動指導は勤務時間外なのにやらなければならないという不当な仕事だった。これからはそこから解放され、希望があれば趣味の世界として様々な人たちとスポーツに関わっていくことができる。平日は学校業務で手一杯のはずであり、その仕事に専念すべきだ。そして休日は自ら生涯スポーツの実践者として好きなスポーツと関わっていきたい。それがこれからの新しい体育教師像になるのではないだろうか。(おわり)


 これまでお読みいただき、ありがとうございました。本文はこれで終わりです。次回は「後書き」の予定です。

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