ニコル
最寄駅のC1出口から、緩やかな坂を6分ほど歩くと、会社に着く。
コンビニ、カフェ、コンビニ、バイク屋、を通り過ぎ、激しいビル風に耐えながら出勤する。
ベタな表現だけど、毎日の変わり映えしない風景。
そのなかに、突然イレギュラーが入り込む。
とは言っても、一度として同じ通勤路はなくて、その道を、ぼくと同じ瞬間に、歩いている人は毎日違う。でもその人たち、ひとりひとりをわざわざ意識はしない。
意識せざるを得ないイレギュラーでないと、イレギュラーとして認識もされない。
その日の意識せざるを得ないイレギュラーは、ある女性だった。ぼくの好きなバンドのグッズのジャケットを着て、そのバンドのリュックまで背負っていた。
「ぼくもそのバンドすごく好きなんです!」
と話しかけるはずはない。
急にそんなふうに話しかけることは、ぼくの常識から外れてるし、その後の言葉を続かせる自信も全くないし、何より朝のぼくはそんなにオープンマインドではない。
でもなにかこう、そのバンドを(グッズで身を包むほど)好きってことは、自分となにか同じメンタリティとか、意識を持っているはずなわけで。
ぼくはその人を追い越し、少し前を、あえていつもよりもゆっくりと歩いた。
自分のリュックサックに付けた、そのバンドのキーホルダーが、彼女の生活のイレギュラーとして認識されるといいなと思いながら。
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