もしも私が、大きな桃をひろったら
河川敷を歩いていたら、大きな桃が川を流れていた。
いや、あれは桃なのだろうか。
桃にしては大き過ぎるのでは。
もしかしたら、カブだろうか。
それとも、何かのイベントに使われたハリボテかもしれない。
様々な憶測を重ねているうちに、その桃のようなカブのような大きな物体は、どんぶらこ、どんぶらこ、と川のふちに流れ着いていた。
恐る恐る近づいてみると、やはり桃のようなものに見える。
うっすらと生えた産毛に、川面に浮いていた葉っぱやゴミなんかがへばりついていた。
これはどうしたらよいのだろう。
大きな桃、といったら思いつく物語があるが、こんな得体の知れない汚い桃を食べようなどとは、爪の先ほども思えなかった。
触るのすらためらう。
表面はキレイに見えるが、中はグズグズに腐っているかもしれない。
割った途端に無数の虫ケラがうぞうぞと出てきたら、と思うと背中がすうっと寒くなった。
こんなもの、見なかったふりをしてそのまま立ち去ろうかとも思った。
だが、あの物語ではこの中に赤ん坊が入っていたはずだ。
辺りを見回してみる。
誰もいない。
私はポケットからスマホを取り出し、電話をかける。
「もしもし、不審物を発見したのですが」
あの日から新聞をくまなく読むようにしているが、めぼしいニュースは何もなかった。
あの桃のような物体がなんだったのか、私はいまだに知らずにいる。