推しを推す前につながりたい #3
友達ってなんだろう。
誰かと話すのは嫌いじゃない。割と楽しい。
でも、自分の本性っていうか、
素の私を知られるのは怖い。
だから、あと一歩踏み込んだ話ができない。
やりたいこともない、今も大人になっても。
このまま会社の言いなりになって、
社会にご奉仕する運命なのかな…
アルノ:「ホラーは無理?そうだよね〜…」
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○○:「あっ...」
この15年間、彼女の画像などを
ネット上から見つけるのは不可能に等しく、
正直彼女の顔を忘れかけていた。
でもあの子を見た瞬間、
僕の体が、脳が即座に反応した。
間違いない、と。
…が。
足が固まっている。
口は動くのに、声が出せない。
腹に力が入らない。
…だめだ。
緊張はもちろん、
アルノは当然僕のことを知らないから、
なんと話しかけたらいいかもわからない。
くそ…
結局生まれ変わっても、
チャンスを掴みにいけないのかよ…
いつものように電車は次の駅に着き、
アルノとその友達は
先に降りていってしまった。
一旦落ち着け…。
最寄りは僕らと一緒なのか。
制服は違ったよな…
ちなみに、一周目の自粛要因となった、
彼女の動画チャンネルは
まだ見つかっていない。
あ。和は…
少し慌てて座席を見ると、
和:「ZZz…」
寝てた。たった一駅の間で。
アルノを見つけたときの自分、
絶対挙動不審だったし、
見られてないならラッキーか。
僕はもちろん和を起こしたが、
全然起きなくて…
無情にも電車の扉は閉ざされる。
初日から遅刻が確定。
あとで和に普通に怒られた。
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入学式から一週間後。朝のHR後。
初回はそれぞれの
教科の先生の自己紹介とかだったから、
本格的な授業は今日から。1限は移動教室だ。
和とは同じクラス、1-2だった。
僕は前回も2組だったが、8クラスもあるし
バラバラになるだろうと思ってたので、
予想外だった。
一旦和は置いといて、
この一週間で整理したことは…
主にアルノの高校について。
一周目のときに乃木女子高なのでは
という噂がネット上にあった。
確かに乃木女と乃木高は
500mほどしか離れてないし、
この間のこともあり、
この噂はほぼ事実だろう。
となると、リーク者が彼女の同級生だという情報は
和:「○○〜?」
いきなり和に呼ばれたから
咄嗟に反応できなかった。
○○:「…あぁごめん。どうした?」
和:「今出す提出物書かなきゃだから、
先行ってて」
入学から一週間経っても、
和から話しかける男子は僕のみ。
嬉しいけど、逆に心配になってきたな…。
そもそも和以外のクラスメイトは
一周目と同じだから、
なんだか恥ずかしい。
僕の一周目を知る人なんかいないんだけどね。
二度目の乃木高だから
移動教室で迷うこともないんだけれど、
みんなの流れにそって
僕も早めに1-2を出たら、
??「あの…○○くん、ですよね」
ん?聞き馴染みのない声。ってことは…
○○:「えっと…川﨑さん、だよね」
桜:「はい!よかったら
一緒に移動しません?」
この子は川﨑桜さん。
実は中学も一緒なのだが、
クラスが違ったこともあり、
全く喋ったことがなかった。
てか一周目のときは、
和と同じくこのクラスにいなかったから、
良くも悪くも僕のせいで
乃木高へ来ることになった可能性が高い…
他人の人生を変えてしまってるこの状況、
責任重大だぞ自分…
○○:「あっ、いいですよ」
なぜか僕も敬語になってしまったが、
ここでドライな対応をするのも
おかしな話なので、
普通に振る舞っていくか。
階段をのぼる。会話は生まれない。
流石になにか話しかけないと...どうしよ。
桜:「あの...!」
○○:「はっ、はい」
向こうから話しかけてくれた。
桜:「桃ちゃん、好きなんですか?」
○○:「あっ、そうなんです〜」
僕の布製の筆箱には、
大園桃子の缶バッジがついている。
一周目のとき、僕が桃子を知った数ヶ月後には
卒業してしまい、
リアムタイムで応援できたら楽しいだろうな〜
と思ってたのである。
...決してアルノから
浮気しているわけではない。
○○:「エスカルゴのこと
知ってるんですか?」
桜:「はい!曲も好きだけど、
メンバーが本当に本当に可愛くて...///」
これは意外。
勝手にクールな人だと思ってたから...
エスカルゴの話になった途端、
彼女から笑みがこぼれて...
何よりかわいい。
桜:「あの、いきなりなんですけど...」
○○:「...」
桜:「夏のライブ、一緒に行きませんか?」
○○:「...えっ...?僕なんかと行っても...」
予想外の言動に、僕は驚きを隠せない。
それに、良い意味でこんなに
赤ちゃんのようなお顔立ちの川﨑さんと
地味な僕なんか不釣り合いだろう。
桜:「ううん、○○くんと行きたいの。
もっとエスカルゴの話をしたら
絶対楽しいだろうし、」
あ、趣味一緒だからか...
桜:「○○くんのことももっと知りたいし...」
○○:「...えっ///」
桜:「だめ、かな...?」
そんな目で訴えられたら...
○○:「い、行きましょう。
行かせてください」
いつも以上に日本語がおかしかったが、
桜:「約束ですよ...?
あと、タメ口でいいですよ、同級生だし」
○○:「そ、そうだね。約束する、川﨑さん」
桜:「桜でいいよ」
○○:「まずは桜さんで...///」
桜:「ふふふっ」
別れ際、帰りも一緒に移動することを約束し、
僕らはそれぞれ席についた。
...ちょっとまさかまさかの急展開。
流れに身を任せて了承しちゃったが...
ひとまず誰にも言わないでおこう。
和にバレたらなんかうるさそうだし...
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胸の鼓動が止まらない。
私、○○くんに話しかけちゃった。
ちょっと積極的過ぎたかな…
でも、まだ他の女の子と親密になっていない
今がチャンスだもん。
桜:「一番の強敵は、やっぱりなぎちゃん…」
ゆっくりでもいい。
徐々に彼と仲良くなっていこう。
周りに流されず、私らしく。
…うん、大丈夫。
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数週間後、日曜の夜。
○○:「いいなぁ〜
こんなの絶対ニヤケちゃうよ...」
僕が家で見てたのはお話し会レポの動画。
一周目も今回も、
どうしてもチキってしまって行けてない。
自己肯定感低いのかな自分。
○○:「おもろいな〜。...もう寝よっかな」
寝ようと思いつつ
次の動画をスクロールしていると、
○○:「ん、『きっかけ』...
歌ってみたやつかな」
何も考えずにタップ。
??『はじめまして、アルです』
○○「え...?!」
ノー編集で、首から下が映っているのみ。
でも、これは間違いなく...
??『聞いてください。「きっかけ」』
...。
やっと見つけた、アルノのチャンネル...
歌の方は言わずもがな。
15年ぶりに彼女の歌声を聞いたが、
少し陰の雰囲気を感じつつも、
素晴らしい歌唱力。
○○:「三日前の動画...200回再生されてる」
チャンネル登録者数はまだ0。
この先何も変わらないと、
このチャンネルがきっかけで
彼女は将来炎上してしまう。
チャンネル登録をするか少し迷ったけど...
彼女の歌声に罪はないし、
ここから世間の人に
アルノのことをもっと知ってほしい…
一周目以上に。
○○:「中西アルノさん。
...僕があなたのファン一号です」
登録ボタンを静かに押した。
なぜかこっちが恥ずかしくなった。
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翌日。朝のHR。
??:「皆んなおはよう。」
担任の田村真佑先生。一周目と同じ。
コミュ力が高く、
イジり役とイジられ役をこなす、
先生・生徒に大人気の先生。
真佑:「入学して間もないけど、
文化祭が迫ってきてるのは、
皆んな知ってるよね」
乃木高の文化祭は毎年6月。
秋にやると受験生の負担が大きいかららしい。
前回の一年のときは、
お客さんにミニゲームをやってもらう
出し物だった。
ここは今回も同じだろう。
真佑:「今回、2組の皆んなには...」
真佑:「劇に挑戦してもらいます」
#4に続く