推しを推す前につながりたい #4
今年もこの季節が近づいてきた。
授業準備や部活の顧問とか、
いつものやることに加えて文化祭。
一年で一番忙しいのではないか。
しかも今年は劇をぜひうちでやらせたいと
校長先生が。
井上さんや川﨑さんに
可能性を感じたそうだが...
ここまで肩入れするのも珍しい。
職権濫用じゃないよね?
まだクラス全体が
仲良くなりきってないなかでの劇。
乗り越えれば絆は深まると思うし、
見守りますか。
真佑:「今回皆んなには、
劇に挑戦してもらいます」
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...え、劇?
一周目と違う?
それに乃木高の劇は三年生だけの特権じゃ...?
真佑:「劇は三年生のうち
半分のクラスがやるんだけど、
それに加えて去年から、学年関係なく、
校長先生が推薦した1クラスは
劇をやることになってるの」
ああそうだった。完全に忘れてた。
てかこれも一周目とは違うから、
僕のせいで劇になったんだよな...
真佑:「六限の総合の時間で係決めるから、
考えておいてね〜」
演じるのはなぁ。裏方がいいかな。
真佑:「あともう一つ。劇の主演なんだけど、
皆んなからの匿名投票で決めたいと思います」
ざわつくクラスメイト。
真佑:「といってもあくまで仮決めだから!
本当に嫌だったら辞退しても大丈夫だよ」
そんなこと言われたら
逆に辞退しにくいじゃん...
まあ僕は選ばれないでしょう、
結託でもされない限り。
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昼休み。教室で和と昼食。
といっても、
ずっと一緒にいると話すこともない。
が、今日は違った。
和:「○○。劇の役決まった?」
○○:「まだ...裏方がいいかなぁ
とは思ってるけど。和は演じる側?」
和:「無理だよ、恥ずかしい...///
お芝居なんてやったことないし」
○○:「意外とハマりそうだけどなぁ」
和:「本気で言ってる?
そういう○○がやってみなよ」
○○:「嫌だよ、
あんな陽キャ達の世界は(偏見)」
一悶着(?)。結局和は美術系の仕事があれば
それがやりたいそう。
すると。スマホに通知が。
○○:「あ、アルノの新しい動画...」
First Love…?どんな曲だっけ…
聞いたことはあるはず。
即座に動画を開くと、
和:「なになに〜?」
めちゃめちゃ興味津々ななぎさん。
○○:「いや、歌上手い人の動画」
和:「へ〜...」
歌声を聞くないなや、和は固まってしまう。
○○:「どうした?」
和:「...めっちゃ上手じゃん...
なんて言うのこの人」
彼女の目頭が熱くなってる...気がする。
○○:「『アル』っていうチャンネル」
和:「すごい…私もアル...追っかける!
絶対人気になるよ」
勝手に僕もアルのファンだと
思われてしまった。合ってるけど。
○○:「お、おぅ…。ちなみにアル、
顔出しはしてないんだよね」
和:「もったいない、絶対かわいいのに〜」
和の言う通り、間違ってはない。
○○:「そうだね…なんで分かるん?」
和:「…?」
やばい。まるで僕が
顔を知ってるかのような言い方。
なんて言い訳したらいいか考えてたら、
桜:「あの〜…」
○和:「…?」
桜:「私も一緒にご飯食べても
いいですか…?」
○○:「えっ…あ、もちろん。ぜひぜひ」
突然だったのでびっくりしたが、
おかげでアルの話題から逃れられた。
桜:「ありがとう。
あっ、井上和さんですよね。私、川﨑桜です」
和:「こんにちは、井上です...
あれ?中学って」
桜:「はい!同じでしたよね?」
和:「そうだ、聞いたことある!
当時うちの中学に、不思議な雰囲気を持った
かわいい子がいるって」
桜:「いやいや、和ちゃんも
学年一の美女だって有名でしたよ…笑」
これが顔面偏差値が高い者たちの会話か…
眩しすぎる。直視できない。
○○:「…乃木高には
地元が同じ人は多くないから、心強いね、和」
和:「だね。桜ちゃんと二人きりで
通いだしたりしないか心配だけど」
○○:「ちょっと…///」
桜:「あの、前から聞きたかったんですけど」
○○:「うん」
桜:「二人って、付き合ってるの?」
○○:「まさかまさか///
ただの幼馴染。ねぇ、和」
和:「うん…///」
あれれ。明るい声はどこへやら…
はっきり否定してくれないと
こっちまで恥ずかしい。
桜:「そうなんだ…
じゃあ桜にもチャンスが…///」
○○:「…?」
和:「…?!?」
あ、元気になった。
和:「ちょっと。私が見てない間に
すごい仲良くなってるじゃん」
○○:「いや…」
否定するのも桜さんに悪いか…
○○:「まあ、ライブに行く約束はしたけど」
和:「なっ…?!…○○、いつの間に
女の子を誑かすようになったの?」
○○:「ちょ和、言い方…」
桜:「ふふふっ。
二人は本当に仲がいいんだね」
○○:「そんなことない。」
和:「そんなことない!」
桜:「息ぴったりじゃん…笑」
…と、あっという間の昼休み。
今日は僕らがクラスの誰よりも
うるさかったと思う。
今度和の機嫌も取らないとな…
お弁当は残っちゃった…家で食べます。
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六限。劇の係決め。
まずは裏方の仕事から決まっていった。
なんだけど…
○○:「最初はグー、じゃんけんぽん!…」
敗北。また敗北。
生まれ変わるときに運が果てたのか
ってくらい、
このときの負けっぷりはひどかった。
○○:「演出係か…」
さらに脚本も手伝えとのこと。
できるかなぁ…やったことないよ。
和は舞台後ろの背景を描く係。
きっちりじゃんけんも勝ってた。
真佑:「裏方係はだいたい決まったけど、
『この係あったほうがいいんじゃない?』
って人いる〜?
お、川﨑さん」
目立たないよう静かに手を挙げてた桜さん。
桜:「あの…受付係とかは…?」
真佑:「ごめん、説明し忘れた。
受付は裏方のみんなで兼任してもらおうと
思ってたの」
桜:「そうなんですね…
すみません…(しゅん)」
すると。
男1:「そんな桜ちゃんもかわいい〜」
クラス:「ワハハ…」
ちょっとその男にイラついたけど…
そりゃかわいいですよ、桜さんは。
結局彼女は、新設された
文化祭当日の宣伝係になった。
真佑:「裏方も決まったし、
役者は仮主演から決めるよー。
裏方係の人にも投票していいよ。
自分自身は無しね」
じゃあ最初から主演を決めてもいい気が。
…まあ時間も限られているので。
10分後。ぬるっと投票が終わる。
クラスの雰囲気が少し重い。
真佑:「じゃあ発表するね…一位の人だけね」
真佑:「選ばれたのは…
井上和さんです」
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真佑:「井上和さんです」
井上…私?
真佑:「どうかな、井上さん…できそう?」
うそ…どうしよう…どうしよう。
一旦落ち着け...冷静になれ。
現実的に考えよう。
未経験なのはもちろんだけど、
そもそも練習時間を確保できるのか?
憧れの弓道部に入ったはいいものの、
練習は忙しいし、正直キツい。
これに加えて劇の主演…?
皆んなが推薦してくれたとはいえ、
中途半端に受けるのも良くないし…
…でも。
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和:「○○。劇の役決まった?」
○○:「まだ...裏方がいいかなぁ
とは思ってるけど。和は演じる側?」
和:「無理だよ、恥ずかしい...///
お芝居なんてやったことないし」
○○:「意外とハマりそうだけどなぁ」
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演出に○○もいるし…
○○と一緒なら…
和:「やります。…やらせてください」
クラス:「おぉ〜」
私史上一番忙しい日々の始まり。
乗り越えてみせる…!
真佑:「良かった良かった。ありがとう。
ちなみに演目はシンデレラね〜。
じゃあ時間だし、帰りのHR始めます」
さらっと発表するんかい。
主演はドレス着るのかな…似合うだろうか。
ん…主演?
和:「先生。他の役者は決めないんですか?」
真佑:「あ。」
その後、大急ぎで決まっていきました。
ちなみに、背景を描く係も
監修をやらされそうです。
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係決めから十数日経って…
今日も学校が閉まるまで、
劇の練習や打ち合わせ。
演出未経験の僕は、
とりあえずいろんな映画やドラマを見て、
技を盗もうと必死だけど…
難しい。
それに舞台転換のときとか、
どうしても話の流れが止まってしまう…
テンポは大事だし、どうすれば…
ん、スマホが揺れる。
アルの動画…
アル:『今回はお知らせです。
え〜この度、チャンネル登録者数が
500人を突破しました〜』
おー、めでたい。
まだ小さいコミュニティではあるが、
少しずついろんな人に見つかり始めている。
アル:『それを記念して…
はじめてのオフ会を開催します!』
#5に続く