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パブリックチェーンとコンソーシアムチェーン。新規事業はどんなブロックチェーンを選択すればよいのか
今週は、パブリックチェーンとプライベート(コンソーシアム)チェーンについて、その方向性や今後の在り方をみていきたいと思う。
1.コンソーシアムチェーンの発表が続く
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2024年後半になって、プライベート型のブロックチェーン関連のニュースが続いている。なぜこれらのプロジェクトがプライベート型を選択し、そして既存のパブリックチェーンではなくプライベート型を選ぶのかを考えていいたい。
2.そもそも、パブリックとプライベートは何が違う?
パブリックチェーンとプライベート型ではいくつかの考え方の違いがあるのでまずはそれを整理していく。それは以下の点だ。
1)アクセス権限
パブリックチェーン
誰でも参加可能(パーミッションレス)で、ネットワークへのアクセスやトランザクションの送信、ブロックの検証がオープンです。つまり、悪意を持った人や世界中のどこの場所からでも参加は可能ということ。
例:Bitcoin、Ethereum
利点:完全な分散性と透明性を実現
課題:トランザクション処理速度が遅い(スケーラビリティ問題)、エネルギー消費が大きい(PoWなどの場合)。
プライベート型チェーン
参加者が特定の組織やグループによって制限される。アクセス権は管理者が許可する必要がある。
例:Hyperledger Fabric、Corda
利点:トランザクション処理速度が速い、データのプライバシー確保が容易
課題:完全な分散性は損なわれる(中央集権的要素が強い)。
2)ガバナンス
パブリックチェーン
分散型のコミュニティによって管理され、意思決定プロセスはオープンで透明性が高い(例:DAO、コミュニティ投票)。
利点:透明性が高く、信頼を必要としない(トラストレス)。
課題:意思決定に時間がかかることがある。
プライベート型チェーン
管理者や関係者によって統制され、意思決定プロセスは比較的迅速。
利点:効率性と柔軟性が高い。
課題:管理者への信頼が前提となる。
3)セキュリティ
パブリックチェーン
多数のノードが存在し、PoW(Proof of Work)やPoS(Proof of Stake)などのコンセンサスアルゴリズムにより、改ざん耐性が非常に高い。
利点:大規模ネットワークによるセキュリティの確保。
課題:攻撃者が51%以上のネットワーク支配を持つ可能性(現実には非常に困難)。
プライベート型チェーン
セキュリティは参加者の信頼に基づき、少数のノードで構成されるため、パブリックチェーンより改ざんリスクが高い可能性がある。
利点:制御された環境でリスクを管理可能。
課題:セキュリティレベルは運営主体に依存。
4)トランザクションの透明性とプライバシー
パブリックチェーン
すべてのトランザクションが公開され、ネットワーク全体で確認可能。
利点:透明性と信頼性の確保。
課題:プライバシーが制限される。
プライベート型チェーン
トランザクションデータは関係者のみに共有され、プライバシーが重視される。
利点:機密情報の保護。
課題:完全な透明性は難しい。
上記を踏まえて、パブリックチェーンとプライベートチェーンは、そのユースケースに注目してもらうと分かりやすい。
パブリックチェーンは、いわば公共財のようなもので、特定の誰か(またはグループ)が管理していないものという前提であるため、例えばお金のような広く流通されるもの(仮想通貨)や、そのお金を動かすためのDeFiのような金融の仕組みはパブリックチェーンに乗る方が良いケースが多い。ここでは分散性と透明性が重要であり、その前提に立ってでしか成り立たないものは自ずからパブリックチェーン的な性質を持つようになるだろう。
一方でプライベート型は、特定の企業が管理するという前提であるので、逆に企業や団体内部で機密データを管理しなければならないものだったり、顧客のプライバシーにかかわるデータのやり取りというケースでは「分散性・透明性」というのが使いにくく、ブロックチェーンの効率化の部分を目的とした利用というのが見えてくる。
では、2019年頃に盛り上がっていたプライベートチェーンのプロジェクトと、今年後半になって動きのあるプライベートチェーンにはどのような変化があるだろうか。これは一つ特徴的な面がありそうだ。
3.特定のバリデータ、参加は自由という形式
特に最近発表されたJapan Smart Chain(JSC)や、こちらも最近IEOを実施したJapan Open Chainなどは、ネットワークの検証は特定の信頼できる企業が行う形だが、そのネットワークを活用する企業はある程度広く自由に使えるようにするというスタンスになっている。
つまり、パブリックチェーンの日本にとっての問題点は、「そのネットワークの検証者が誰だか分からないのが困る」という点だということだ。JSCが主張している「主権」という言葉がまさにそれを現している。
結局日本で事業をやる場合に、インフラに近いもの。それは電気だったりガスだったりといったものには、日本国内で管理できるものであるべきという、これは技術の問題ではなく、政治や哲学の問題としてパブリックチェーンに大きく立ちはだかっているという点にあるのではないだろうか。
確かにパブリックチェーンは公共的なものとして、極めて分散的に管理され、特定の管理者の一存で変えることができず、さらに取り扱うデータはまさにパブリック(公)にされてしまうという性質がある。データを公開してそれを誰もが検証できるからこそそのデータの真正性が保たれるという性質は、向いているものと向いていないものがある。
4.パブリックとプライベートはどう使われていくのか
パブリックチェーンは、まさにグローバルで通用する通貨や、世界中でボーダレスに動かすことを前提としたさまざまなアセット(RWA、NFT等)に続いて活用されていくだろう。これらを扱いたいという場合は選択肢としてパブリックチェーンを選択することが必要になってくるはずだ。
一方で、複数企業のデータの持ち合いや、データの共有や共同での活用など、ある程度管理下の中でのデータの共有が目的の場合は、プライベート型が、効率化という点で活用されていく未来はあるのではないかと思う。
さらに、例えば国内限定で流通するもの、例えば地域限定のステーブルコイン(これは使える加盟店が国内にしかなければ国内だけで通用する形でも問題ない)などは、最近の動きでもある国内バリデータパ&ーミッションレスなアクセスというパターンが適切になっていくかもしれない。
5.この先の未来はどうなっていくのか?
未来に生きて、未来に欠けているものを作るというのがスタートアップの基本的な考え方とすると、これらの様々な目的のチェーンが乱立した先の未来を予想していく必要がありそうだ。可能性としては次のような機能が必要になってくるだろう。
1)国内アセットとグローバルアセットを交換する交換所の需要
日本だけで通用するアセットを海外に持ち出したいといった場合に、それを交換するという需要が起こるかもしれない。地域ステーブルコインをパブリックチェーン上の日本円ステーブルコインと交換するみたいなケースが考えられる。
2)目的別チェーンを素早く立ち上げるソリューション
以前に比べてチェーンそのものをセットアップするための労力は下がってきていると思うが、さらにもう一段効率化が進み、様々な企業が独自のチェーンを活用できるような技術スタックが提供されるという未来も想像できる。
6.目的をはっきりさせれば何を選択するかが見えてくる
それぞれのブロックチェーンは、それぞれ効果を発揮するポイントが違うと考えればどう考えればよいかが見えてくるのではないかと思う。例えば以下のような整理だ。
グローバルで通用する公共性・分散性・透明性の高いデータ交換(仮想通貨等)
>>>パブリックチェーン
企業間や団体間でのデータ交換基盤としての利用(サプライチェーン管理等)
>>>コンソーシアムチェーン
国内の規制に準拠した企業向けのオープンなデータ基盤(ステーブルコイン等)
>>>特定バリデータが検証するチェーン(JOC,JSC等)
なぜ、自分たちはパブリックチェーンに拘るのか、なぜ自分たちはバリデータを制限したチェーンにしなければならないのか。そのあたりをはっきりと認識した上で活用していくというのがこれからのブロックチェーン活用の考え方になるのではないだろうか。
新規事業開発などで、その目的と利用するチェーンの形態がマッチしていないといったことが起こらないように、しっかりと整理していく必要がある。当社でも事業開発にあたってのチェーン選定におけるコンサルティングも行っているので気軽に問い合わせしてほしい。
7.さいごに
ユーザーにとってどうなのか?という話を最後にしておくと、最終ユーザーにとっては、そのデータ基盤がどんなチェーンなのかは関係ないというのが答えだろう。例えば、今皆さんが使っているアプリのクラウド基盤がAWSなのかCGPなのかAzureなのかを気にしているだろうか。それと同じようなことがユーザーサイドでは起こっていると思う。だからこそ、企業側はユーザーが後で知った時に納得できるような基盤の使い方をしておく必要があるし、その説明責任は常にあるということが言えるだろう。
今週も様々な社会実装の動きがあったので、詳しくは動画もご参照いただければ幸いだ。