2022年、音楽NFTの幕開けとなるだろうか。その課題と希望
2022年最初のNoteは、音楽NFTについて。私自身、音楽については、1900年代後半からKpopのファンコミュニティを通じて、マレーシアでKpopのコンサートを行うなど側面から活動をしてきて、近年は日本のアーティストのマレーシアライブをプロデュースしたりそのスポンサーを探したりといったことも行ってきた。
さらに、NFTについても、ブロックチェーンゲームやブロックチェーンを基盤としたデジタルコンテンツ証明書の発行サービス等、ブロックチェーンを活用した新しい事業創出を行ってきた。
だからこそ、2022年は音楽×NFTが新しいブームを引き起こすということを言われているのがうれしい反面、実際に事業を進めていくにあたっての課題、そして私が考えるNFT×音楽について今回は書いていきたいと思う。
先に結論
結論から言うと、音楽は関わる範囲が大きく、NFTというのはもっと重層的に考える必要があるということだ。音楽という主語で語るとわかりやすい反面、正確な議論をできなくしてしまうという危険性がある。
音楽著作権を分解してみる
音楽著作権も同様だ。
様々なケースがあり、一律ではないが、一般的には例えばCDを1枚販売する際の分配の相場は上記のようになっている。この中で、何を「著作権」と表現しているのかによって、その中身は大きく違ってくる。
つまり、シンプルに音楽NFTと1つのものとして言えるケースは、
①作詞・作曲を自身で行う
②原盤の制作も自身で行う
③歌唱も自身で行う
④CDのプレスや広告宣伝も自身で行う
⑤販売から資金回収も自身で行う
というケースだ。
音楽制作のツールや、SNS、簡単に通販ができるSaaS等を活用すれば、これらをすべて自分でマネジメントすることは可能であり、実際にそうやって、自身が全ての権利を持って活動されている方も多数いらっしゃる状況になってきている。
昨今議論されているNFTというのは、このようなすべての権利を自身で持っている人を想定してなされているケースも多い。
しかしながら、Kpopのグループを見てもわかる通り、実際の音楽業界はアーティストのマネジメント、楽曲の制作、作詞・作曲、そして全体のプロデュースや広告・宣伝等、多くのクリエイターや組織が関わって最終的なマネタイズができている。この中で音楽NFTがどのように役割を果たすのか。そこを考えることで、よりスケールできる音楽NFTの事業展開が可能になるのではないだろうか。
マネジメントだけだとNFTは展開が早い
KpopもNFTには熱心に取り組んでいるが、これはアーティストのマネジメントを自ら行っているという強みもある。つまり、アーティストの肖像や実稼働を伴う制作を行うことができ、その権利をマネジメント会社が保持しているからだ。トレカが取り組みやすいのは、音楽とは別に「アーティストのマネジメント」が切り離されているからともいえる。
音楽著作権の流通とブロックチェーン、そしてJASRAC
実は過去にも(2018年ころ)、音楽著作権をNFT化して流通をさせればアーティストが収益の按分を正確に得られるといったプロジェクトもあったが、スケールしていない。それは、音楽は「聴く」ことでその権利は消費することができ、それはマネタイズと直接に結び付けることが難しいからだ。
つまり、音楽が聴かれる場所というのは、そのブロックチェーンのチェーン上で必ず完結するわけではないため、理想は分配がうまくいくと言っても、実際には様々な場所での使用においてその権利を適切にアーティストに分配することは難しいという面があるからだ。
JASRACは世間的にはあまり評判が良くない団体に見えるが、音楽産業の側からすれば、著作権料を確実に徴収してくれるという点においてとても心強い存在であり、これは、ブロックチェーンでいえばさしずめマルチチェーンで楽曲が聞かれる度に適切にその金額を徴収し、本来のチェーンにブリッジした上で集計してくれるスマートコントラクト群を作っているようなものだ。
アーティストは搾取されているという議論もある。
例えば原盤を制作するための前払い費用をだれが出すのか。もしアーティスト自身がこれを工面できるのであれば原盤権はアーティストのものだ。
これは資本と同じで、最初に資本を出した人がリスクを負う代わりにアップサイドも受け取ることができるというフェアな仕組みだ。
広告・宣伝にかかる費用、上記のグラフでいえば「レーベル」が担っていた部分。これは今若干修正が必要かもしれない。アーティスト自身が大きな影響力を自身のSNSで持てるようになり、広告宣伝が無くても楽曲を知らせることができる状況になったとき、レーベルの配分は適切に見直すこともできるのかもしれない。さらに流通についても、今の流通の仕組みにおいては、もう少しコストは下げられるという議論があるかもしれない。
しかし、レーベルが果たしてきた機能、流通が果たしてきた機能そのものが必要なくなることは無いはずで、これがどれくらい適切に配分されるかということだ。
音楽産業の構造の変化
そして、この適切な配分という意味で何が起こるかというと、流通マージンやレーベルのマージンがそのコスト減に応じて単純に下げられて音楽の価格自体が下がるということだ。ダウンロード販売やストリーミング販売ではこれが起こった。
出典:https://www.musically.jp/news-articles/ifpi-global-report-2020
このグラフを見ていただければわかる通り、赤い部分のフィジカルが下がってきているのが分かる。これは、先ほどの通り、単純に流通やプレスにかかるコストが安い流通手段に音楽が移ってしまったからだ。これ自体は音楽ファンにとっては歓迎すべきことともいえる。
なぜなら赤い部分が減ったのに代わり、紺色の部分(ストリーミング)が大きな存在感を増し、ライブでのマネタイズも大きくなってきているからだ。
しかしここでもまた大きな問題が起こってきた。ストリーミングを行う事業者と、多くの再生回数を稼ぐ一部のアーティストに利益が集中しだしたのだ。
代表的なストリーミングサービスのSpotifyは、約30%をSpotifyの収益として残りをアーティストに渡している。一見条件は良いように見えるのだが、この残りの70%分については再生回数に応じて分配されるのだ。コンピュータのリソースをどれくらい使ったかというコストを考えればフェアで間違いのない計算方法に見えるが、結果的に世界的にヒットしてヘビーローテーションされる楽曲に再生回数が集中し、再生回数を稼げない楽曲は売上を中々上げられない状況になっているという現状がある。
Spotifyをあくまで宣伝の場として割り切って使って、ライブやCDの手売りで稼ぐというアーティストも多かったりする。
一旦整理する。フィジカルの売り上げが構造的にも継続的に下がっている中で、ストリーミングの売り上げが業界全体を押し上げたがそれがプラットフォーマーやビッグアーティストに偏ってしまった。
2020~2021のコロナ危機とNFT
CDが売れない、ストリーミングではマネタイズできない、ライブと物販で稼いていたのだが、ライブができずライブ会場での物販もできない。。。。
さて、音楽業界がいかに大変な状況に陥ってしまったかが理解できるのではないだろうか。この状況の中で、NFTが音楽業界を変えるかもしれないというマインドになってきた。というよりも、背水の陣でNFTに活路を見出さなければならないということになったという状況でもある。
そこで、様々な試みがされた。3LAU(ブラウ)さんは、自身のアルバムを33人に約12億円という金額で販売し今年前半の話題をさらった。
そして彼は自身の音楽NFTサービスを立ち上げ、NFTホルダーに分配をするという著作権ファンドに近い形のマネタイズを模索し始めている。
その他、Sound.xyzは、ミュージシャンがNFTを通じて収益を上げるためのコミュニティを作ろうとしている。
SoundのCEO、David Greenstein氏は音楽を聴いてもらいアーティストにお金が入るにはどうすればよいか?というシンプルな問いを投げかけている。この問いは裏を返せば、音楽を聴いてもらってもアーティストにお金が入っていないということでもある。
音楽NFTとは何を売っているのか
ここで最初の話題に戻る。3LAUさんやSoundのDavidさんが言う「音楽」とは何のことだろうか。それはおそらく「作詞・作曲・実演」を行っている人が作る原盤を想定しているだろうことは想像できる。
今NFTとして販売を行っているのは音楽というくくりではなく「原盤」と捉えた方が良いのかもしれないということだ。
確かに原盤を売るための仕組みとしてNFTはうまく機能するかもしれない。エジソンが蓄音機を発明する以前、音楽とはイコール生演奏であった。
ライブしか音楽を聴く方法がなかったのだ。音を蓄積して後で再生できる仕組みがなかったからだ。
しかし、この音を蓄積して後で聞ける。しかもそれを「コピー」できるという時代が来る。そこで発生したのが、書籍などではその前からあった「コピーライト」という考え方だ。
つまり、私たちが普段何気なく使っている「著作権」というのは元来は「複製の権利」といえるものだ。その複製の権利をどうマネジメントするかというので音楽産業が発展してきたといえる。それは音楽をパッケージに閉じ込めて販売するという方法が発明されたからなのだ。
つまり、今の音楽産業があるのは、この音を閉じ込めてパッケージにして販売できるようになったからであるとも言える。
音楽NFTが担える一つ目は、この原盤の複製を販売する。つまり音を閉じ込めてそれをパッケージとして販売することをオンラインで実現することである。
これは著作権ではなく、原盤をどう管理するかの問題だ。なので、原盤権者が個人であれ、レーベルであれ、原盤権を持っている人であれば、それを複製して売ることができるわけで、その複製したものを限定生産販売してマネタイズする道が開けたということでもある。
原盤を作るためのプロセスと、原盤を売るためのプロセス
では、どうやっての原盤を作っていけばよいのだろうか。これはサプライチェーンの問題を考えなければならない。今、世の中の人たちが触れている音楽というのは「原盤」である。しかし、その原盤の制作には様々なプロセスと権利が絡んでいる。
個人の場合もあるし、法人やグループの場合もある。
さらに作詞・作曲もコライティングというような手法もある。
さらにその原盤をどのように流通させるのかという点においても複数のポイントが存在する。なので、私たちはここを分けながらどこにペインポイント(改善すべきポイント)があり、そこがどのような姿になるのが理想で、それを実現するためにはどんな技術が必要かを考える必要がある。
NFTありきでは到達できない答えがそこにはあるかもしれないが、それも含めて「まずはイシューから始める」というのが重要である。
現状私が考える2022年に実装可能な音楽NFTの形
Music DAO
NFTとして販売される音楽というのは「原盤」である。
原盤の権利は個人の場合もあるし、法人やグループの場合もある。グループで原盤を制作するためのDAOというのは可能性があるかもしれない。
様々な人たちが協力して一つの原盤を作る。その原盤の収益はメンバーに分配されるが、その仕組みはかなり考えないといけないかもしれない。
原盤の貢献度をどう正確に測るかはなかなか難しい。
完全セルフ楽曲+NFT
完全セルフ楽曲とNFTは相性が良い。CC0での展開もありだし、商用利用を許諾して楽曲を広めて、コミュニティの成長とともにそのNFTの価値を上げていく戦略もあるかもしれない。これはすべての権利を独占的に持っているからこそできる施策ではある。
NFTホルダーだけがアクセスできるコンテンツを含んだNFT
NFT保有者しか見ることのできない、聴くことのできないコンテンツというのはNFTをアクセス権を含んだ会員証や権利証と考えれば十分にありうる形態であると考える。
この形態であれば、今までのCD流通やDVD流通と同じような、物理的なものと同じような流通形態が可能である。つまり「初回限定版」とか「特別メッセージ入りDVD限定100枚」といった販売が可能になる。
マスアダプションとして一番近いのがこのタイプのNFT活用方法であろう。
音楽著作権ごとNFTとして販売する
例えば曲や詩をNFTとして販売し、このNFTを持っている人がこの曲や詩を使った楽曲を作ることができるというものだ。
作曲家や作詞家がこれでマネタイズできるかどうかはちょっと難しいところもあるが、権利元がはっきりするという点で、ある日だれかがこの曲を使って原盤を作成しそれが爆発的なヒットになった際、その原曲のNFTの価値が高騰するというケースはあるだろう。例えばロイヤリティを50%くらいに設定しておけば、音楽出版社がそのNFTを買い取ることで、ロイヤリティが入るということも考えられる。
まとめ
その他さまざまな音楽NFTの可能性があるが、まとめとしては、「音楽」という一言でまとめないこと。つまり、音楽にまつわる「何」をNFTにして、何を売ろうとしているのか。それを明確にすることで解像度の高い事業が作れるのではないだろうか。
以上、現場からお送りしました。