026‐訴訟を決める際に弁明の機会を与える必要があるのは?
問題
解答
1
解説
弁明の機会を与えるケースについてはルールがありルールを覚えれば簡単です。
共同利益背反行為
区分所有法では区分所有者の迷惑行為を「共同利益背反行為」と定めています。
ただし、組合員同士が争うことは対象になりません。
あくまでも、組合全体の利益を損なう行為が対象になることは覚えておきましょう。
例えば、管理費等の滞納が長期に及ぶと未払分は他の組合員が補う必要があります。
このような場合は「共同利益背反行為」と認められるケースがあります。
また、住民全体に影響を与える代表的な行為としては次のようなケースがあります。
〇 組合運営への支障を来す行為
〇 マンショントラブルの公表
〇 住民全体に影響する騒音
〇 住民全体に影響するペットトラブル
〇 共用部分への工作物の設置
ただし、個々の行為が「共同利益背反行為」になるかどうかは組合員の多数決で決定されます。
この時、議決権をもつ組合員も投票できることは覚えておきましょう。
共同利益背反行為が起きた時の管理組合が出来る対処方法は大きく4つあります。
組合が持つ4つの権利
1)行為の停止等の請求(区分所有法57条)
2)使用禁止の請求(区分所有法58条)
3)区分所有権の競売の請求(区分所有法59条)
4)占有者に対する引渡し請求(区分所有法60条)
それぞれの請求権を理解しましょう。
1)行為の停止等の請求(区分所有法57条)
区分所有法57条は、迷惑行為の停止を請求する方法として組合や区分所有者は当事者に行為の停止を請求することが出来るとしています。
これには総会の議決は必要ありません。
「それ迷惑だからやめてください」等の申入れは組合員が相互にできると定めています。
一般的には当事者間で停止の請求はせずに理事会に任せるケースがほとんどでしょう。
請求後も互いに同じマンションに住むわけですから、変に気まずい関係にはなりたくありませんよね。
このような場合に理事会は住民からの申出を確認、注意勧告等を行うことになります。(覚書等の書面で提出を求めることもあります)
しかし、それでも違反行為や迷惑行為が収まらない時、法的手段で行為の停止を求めることになります。
その際には総会の普通議決による承認が必要と定めています。
なぜ、総会の承認を求めるかと言えば、住民全体で共同の利益に反する行為と認識していることの確認と裁判には費用が掛かります。
その支出を認めるためには総会の承認が必要になります。
ところで弁解の機会に関する項目は条文にはありません。
行為の中止には弁解の機会の必要はないと覚えましょう。
2)使用禁止の請求(区分所有法58条)
次は専有部分を一定期間使用できなくする請求です。
58条請求は区分所有権の時限的な取上げになります。
自由に使用する権利を取上げる請求ですから、非常に重い請求です。
そのため、訴訟時の総会決議も特別議決になります。
以下条文です。
ポイントは3項の弁明の機会についてです。
3)区分所有権の競売の請求(区分所有法59条)
時限的な使用禁止以上の厳しい請求が区分所有権のはく奪です。
もし、皆さんが所有するマンション専有部分の奪われる事態を想像してください。
マンション管理組合は他人の財産を売り飛ばす権利も秘めていることを覚えてください。
もちろん、そこに至るには相当の迷惑行為等があることが前提です。
では、条文を確認しましょう。
59条でポイントは次の点です。
1、総会承認は特別議決
2、弁明の機会が必要
3、競売申し立て後、効果は6ヵ月以内
4、競売物件を買い戻すことはできない
5、行為の停止、使用禁止の請求を経る必要はない
*いきなり競売請求ができる
最後が賃貸借契約のある専有部分の引渡し請求です。
4)占有者に対する引渡し請求(区分所有法60条)
占有者の定義は覚えましたよね。
正当な権利に関わらず、特定の場所を自由に使用することが占有。
占有する人が占有者です。
占有者の多くは賃貸借契約により占有権を与えられています。
過去問題でも賃貸借契約、また貸し契約の引渡しのケースが出題されています。
条文タイトルをしっかり覚えてください。
占有者に対する引渡しです。
区分所有者に対する引渡しではありません。
以下条文です。
本来、賃貸人は賃貸借契約を締結する際に賃借人に対して組合への誓約書の提出を求めます。
また、賃借人が生活に悪影響を与える行為を行った時は、理事会は直接注意勧告を行うことが出来ます。
さらに、賃貸人(区分所有者)にも改善するように要求することも出来ます。
一般的にはこれらの方法により事態は回避されますが、最悪、賃貸人(区分所有者)からの改善要求、理事会からの改善要求にも応じない場合に60条は利用されます。
言い換えると、賃貸人(区分所有者)も手におえない状態と言えます。
*賃貸借契約を途中で解除することも難しさは宅建法を勉強していればわかるはずです。
60条の請求は必ず、迷惑行為を行っている人物の権利者・責任者(子供の迷惑行為であれば親)に対して行います。
引渡しを受けた管理組合は、物件の占有権を原権者(賃貸人)に引渡す必要があることも覚えておきましょう。
次にまた貸しのケースです。(サブリース)
迷惑行為の相手はまた貸し契約の住人の場合は、訴訟相手は占有者(また貸し賃借人)になります。
この時も訴訟が認められれば、組合に占有権が譲渡されます。
管理組合は賃貸人、賃借人に対して占有する権利を持ちません。
そのため、物件を賃借人に引渡す必要があります。
ただし、絶対条件としてまた貸しに同意を得ていることが必要になります。
同意を得ずにまた貸ししている場合は、賃貸借契約の信頼関係を損なう行為となり、賃貸借契約を即時、解除することが出来ます。
引渡し請求のような面倒なことをしなくても問題を解決することが出来る訳です。
このような場面場面で、条件を変えた時にどうなるかを自分で考えることが民法や宅建法を深く理解するコツです。
条文を読むと60条でも第五十八条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用すると書かれています。
よってこのケースでも当事者の弁明の機会を与える必要があることがわかります。
まとめ
区分所有法に定めている4つの権利について説明しました。
所有権、占有権(自由に使用する権利)を奪うことができるのは2)~4)です。
この権利を執行しようとする時には、該当者に弁解の機会を与える必要があります。これに対して、1)の行為の停止等の請求は資産等の権利には影響がありません。
何を請求する訴訟なのかを判断できれば弁解の機会を与える必要があるかどうかの判断ができます。
注意すること
昨年のマンション管理士試験で弁明の機会について問う問題が重複正解になりましたが、この点を確認しましょう。
弁明の機会は、総会で行われる必要はありません。
条文では議決前に弁明の機会を与えるとは書かれていますが、総会で行うべきとは定めていません。
多くの人の前で弁明させることは当事者にとってはかなりのストレスになります。
このような場合は、理事長をはじめとする役員と主に迷惑を受けた人数名で総会前に弁明を聞くことが最低限の配慮でしょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?