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君と向き合って生きていく
当方、若い頃から腰痛持ちである。
二十歳そこそこで仕事中にギックリ腰を発症し、騙し騙し生きてきた。「腰痛いな〜」と思っても次の日にはごまかせる程度になっていたし、休みになっちまえば楽になる、と怠惰な角度で腰痛と歩んできた。
ここ最近、仕事の疲れが抜けない。主に腰の痛みが取れないのである。立ち仕事なのでずっと同じ体勢をとっているためか、腰というか背骨が激烈に痛い。背骨と背骨の間にイバラでもあるような痛み。お尻に痺れが走り、太ももの裏が痛い。かがめない。
騙し騙しやっていると、変な癖がつくのだろうか。背中を丸めることすらつらくなってきた。ていうか怖い。いつ「ピキーン!!」となるかわからないからだ。
スタッフ体制が変わり、以前より立ち仕事が増えた数日前、違和感がピキーン!!と音を立て確信に変わる。
背中痛っってぇ!!立ってられねぇ!!!!
上司をその場に呼びつけ、その日は早退させてもらった。C-3POのようにカクカク家で過ごし、無表情で決意する。
「整骨院に行こう…」
側にいたR2-D2もとい、母もそれを黙って聞いていた。
次の日、偶然休みに被ったので昼過ぎに整骨院に向かう。靴を履いたまま受付のお姉さんが「今日はどんな症状で?」と聞いてきたので、「あの…腰痛めまして…」と伝えると、「なるほど…お辛いですよね。靴は脱ぎ捨ててください。屈まなくていいですよ。」と優しく介助してくれた。
優しい…
優しさが身に染みる…
突然の優しさに半べそをかきながら問診書を書いていく。幸い平日の昼間だったので他には誰もおらず、スムーズに診察を受けることができた。
奥に進むと、ガッチリした割には小声の先生にゆっくりうつ伏せになってください、と促されC-3POはカタカタと横になる。最初に口頭で診断をされ、ちょっとマッサージしながら確認していきますね、と先生はゆっくり腰回りの筋肉をほぐしていく。
ぶっちゃけこれだけでもだいぶ気持ちいい。が、痛いところは「ヒギャッ」と言いたくなるくらい痛い。
「なるほど…永洞さん…腰の筋肉がかなり硬いですね…」
顔を下に向けてるのでモゴモゴと返事をする私。
「そ、そうスか。お尻が痛いのもそのせいですか?」
先生は「お尻とはこの辺ですか?」とピンポイントでぐりぐりとマッサージする。じゃあここら辺も痛いですかね?とどんどん脚に下がっていくマッサージ。全て痛い。
「オギャギャ、痛いのはふくらはぎくらいまでですね。腰が痛くて反り腰なので、最近は背中の上の方まで痛くて。」
なるほど…と先生は背面の骨格図を私の目の前まで持ってきながらボソリと告げる。
「背中の骨の…腰から3番目くらいまでにかなり負荷がかかってますね。多分その負荷から坐骨神経痛が起きてます。坐骨神経は腰から足の先までに通ってる大きな神経なんですが、お尻で何本かに分かれてて、それでお尻全体が痛むんですよね。」
「なるへそ…(ゲッソリした顔)」
「永洞さんはまだ若いし、さっきの診断でリウマチまでは行ってないんですけど、このままだとやっぱりつらいと思います。今日は初診なのでマッサージだけして、まだつらいようならレントゲンを撮りましょう。」
や、優しい…(2回目)
腰をどうにかしに行く、という話をしてから知り合いから「ぶっとい注射打たれてさー、痛いのは治ったけどめちゃくちゃ注射痛いよ!」とか「色々やってもらったけど全然完治してないんだよね〜」とか脅されまくっていたので、先生の優しさが二乗で身に染みる。それを先生に笑いながら告げると、ふーむ、と少し目を逸らしてさっきより小さい声で、
「確かに病院に行けば注射をしたり薬を出したりして、その場の痛みは取れるんですが…ここは整骨院なので…そういうのはしないです…。そもそも…根幹療法じゃないというか…あんまり好きじゃないんですよね…俺…」
と背を向けて背面図を置く。
優しい…(3回目)
私も対処療法が好きではないのでできるだけ薬は飲みたくない。原因があるなら探りたい。たまたま入った整骨院でそんな願いが合致する先生に出会えた私は非常に運が良かった。
ちょっと仰向けになってください…と促され、先生はお腹ももみもみとしかめ面でお腹をほぐしている。なんか意味があるのか…と先生を見つめていたら、衝撃の一言をもらった。
「腹筋が…弱ってます…全然ないですね…。」
なん…だと…?!
少し前まで、私の趣味は筋トレだった。日々割れていく腹筋を見てから風呂に入る程のヤバい奴だった。腰の痛みが慢性的になってから、なるべく負担をかけないように生活した末…私は腹筋を失ってしまったのである。私は苦し紛れに質問を投げかける。
「腰が痛くなってから、筋トレするのが怖くなっちゃったんですよね、前はルーティンワークの一つに入れてたんですけど…しても大丈夫ですかね?」
「はい…むしろ…してください…わかりにくいかと思いますが、腹筋の後ろに腰の筋肉があるんですよ。永洞さんのここら辺の筋肉は今全体的に弱いので…筋トレを…勧めます…。」
悲しい…
一目見て「筋肉質だね!」と言われてきた私の筋肉が腰痛により消え失せたのだ。だから最近痩せたわけでもないのに「痩せた?」と言われていたのか。フッ…私のことは私より周りの方がわかるという訳か。素直に痩せて見える理由を掘り下げればよかった。「痩せてねーし」とつっけんどんにならなければよかった。
下らない卑屈な考えで頭が埋め尽くされている間、先生が腰回りを念入りに診察していく。
「ん…?骨盤が歪んでますね。」
今の感じでわかるの?!
「左が2〜3ミリくらい高いかな…」
2〜3ミリなのにわかるの?!すご!!!
「骨盤が歪んでるとやっぱヤバいですか。真っ直ぐになるんですか?」
先生はキュッキュッと腰回りをマッサージしながらうーん…と歯切れを悪くする。
「生活してたら歪みますし…治してもまた歪むってことですね…まぁ…真っ直ぐなことに越したことはないんですけど…」
なるほど…長年腰痛持ちとして生きてきたが、知らないことだらけだな。つーか自分の体を放ったらかしにしすぎたツケかな。
「永洞さんまだお若いので…(2回目)。仕事もあるでしょうけど…痛みはしばらく続くと思うのでなるべく通ってください…今日はここら辺で…終わりますね…。」
先生の優しさを噛み締めながら、私は接骨院を後にした。体が軽い。痛みが和らいでいる。あんなに熱を帯びていた腰回りがスッキリサッパリしていたことに、私は感動を覚えていた。
よし、これからも通うぞ!となってすぐ、母の風邪をもらい寝込んでいた。なのでまだ一回しか行っていない。早く行きたい。
みんなも腰痛になったら「まぁ時間が経てばどうにかなるだろ」とか思わずに、すぐ整骨院に行こうね!!!