好きだった漫画の話
好きだった漫画の話を、備忘録兼吐き出し用として書き残そうと思います。お気持ち長文でしかないですし、ある作品の批判コメントもありますので、ブラウザバック推奨です。
遡ること8年前、私は剣の王国という漫画に出会いました。
その漫画は当時としては珍しい、ウェブトゥーンを専門に取り扱ったcomicoというアプリで連載されていて、縦スクロールを生かした大胆なコマ割りと、人間味溢れるキャラクターたちの生き様、童話のような世界観で描かれた王道ファンタジー漫画でした。
主人公のアルフレドは殺された師匠の仇を打ち約束を果たすため、ヒロインのドロテーアは捕らえられた父を助けるため、鶏のパンチネロは自分の居場所を探すために、王都をめざし旅をすることとなります。現在別媒体(マグコミ、ピッコマ)で掲載されているので気になった方はぜひ読んでみて下さい。
当時学生だった私は、とんでもない漫画を見つけてしまった!とその漫画に夢中になりました。コメント欄を読むだけでは飽き足らず、Twitterで専用のアカウントを作り、考察や二次創作、読者同士の交流に時間を費やしました。
とても楽しい時間を過ごしていた中で、ひとつ不安がありました。その作品を掲載しているアプリの評判がとても悪かったことです。
体調を崩し連載終了する作家や打ち切られる作家が多かったり、同じ媒体内で単行本化する漫画としない漫画の目に見えた格差があったりなど、運営への不信感が強く、定期的に炎上していました。完全に無料で読めていた初期から少しずつ運営の方針が変わり、チケット制や先読み制度が導入され、アプリの立ち上げ当初から連載していた漫画は少しづつ減っていきました。
週刊連載、しかもフルカラーという過酷な縛りの中で、剣の王国は根強い人気を誇っており、「100万人が選ぶ本当に面白いwebコミックはこれだ!2018(女性部門)」「次にくるマンガ大賞2018」「アニメ化してほしいマンガランキング」などにノミネートされていました。しかし、最後まで書籍化することはありませんでした。
9章目となる「挽歌の章」が盛り上がりを見せていた2018年8月頃、長期休載に入りました。作者の体調を心配する声が多く寄せられる中、作者のTwitterアカウントに無言で剣の王国の章一覧が投稿されました。その後すぐ消されてしまいましたが、全15章構成であることやそれを投稿した作者の意図など、界隈がかなりざわつきました。
同年の9月頃、またもや作者のアカウントに無言で投稿がありました。剣の王国の主人公・アルフレドに似た少年と、その師匠・ジルコニアに似た雰囲気の女性が登場する漫画のネームでした(現在削除済み)。縦スクロールでなく横読みの漫画のネームに、もしかして待ちに待った書籍化!?!?とこちらもまた界隈がざわつきました。
その予想は半分当たりで半分ハズレでした。
連載開始から5周年を迎えた2019年2月頃、201話まで更新されて以降休載が続いているなかで、突如として現れた「連載終了のお知らせ」の文字列。
その時掲載された編集部と作者の言葉を引用します。
※現在comicoにて剣の王国は掲載終了しており、このページも掲載終了しています。
理由もわからず大好きな作品は幕を閉じてしまいました。しかし、きっといつか描けるようになった時に最後まで描いてくれるだろう、今は作者が劣悪な環境から抜け出せたことを喜ぼうという声が大きく、作者を責める人は極わずかでした。
他の作家さんを見ていると、連載終了してから2年ほどで掲載権が作家さんの手に戻り、pixivや別の媒体で連載を続ける人がほとんどでした。きっと剣も2年ほど経てば作者の手に戻り、別の媒体でまた再開してくれるのではないかと淡い希望を抱いていました。
公式からの供給が途絶え、掲載されている分を読み返したり、考察をしたりして1ヶ月ほどたった2019年3月頃、作者が爆弾を落としました。
「新連載を月刊雑誌で始めます!」
この文面だけなら素直に喜んでいたと思います。ずっと応援してきた作者の、書籍化が確約された新連載。有名作品も何本か抱えている掲載媒体。しかし同時に困惑もしました。
「はめつのおうこく」というタイトル。似ている。それどころか、主人公やヒロインのキャラデザまで。この時はまだ新連載が始まるが、剣の王国への愛は忘れていないという作者なりの表現なのかな、などと考えていました。
そして連載が始まって第1話を読み、さらに困惑しました。世界観は少し異なるけれどキャラクターの生い立ちや話の大まかな流れがほぼ一緒。それどころか冒険やファンタジー的な要素は減り、グロ描写や陵辱描写に力が入っていました。それでいて所々で前作のセリフや場面を使っていて、大好きな作品を上書きされているような気分になり、なんだこれは、と思いました。きっとこの時点で離れるべきだったんだと思います。
でもあの作品を描いてくれた作者なら、きっと何か意味があるんだろうと、前作で大好きだったキャラクターのそっくりさんが出てきては死に出てきては死ぬ漫画を追い続けました。
書籍化はもちろん、巻頭カラーやセンターカラーになることが多く、さらにはグッズやコラボカフェなど編集部に恵まれたことを喜ぶべきだろうと。剣の時は応援が足りなかったから連載終了になってしまったのだろうと。この作品を応援することで剣の権利が戻ってきた時に再開するモチベーションになればいいという、打算的な考えもありました。
2019年11月には、作者がTwitterにて「comicoにて剣の王国が掲載終了になっても、来年1月末(comicoでの剣の掲載終了時期が1月末)までどんなことがあっても、何らかの媒体にて剣の王国を掲載できるようにします。読者の皆様、ご安心ください。」というツイートをしていました。
大きな転機が訪れたのは2020年の1月頃。作者がTwitterでまたもや爆弾を落としました。
「剣の王国ははめつのおうこくに合流します」
合流??こんな死屍累々の世界に王道ファンタジーの世界のキャラクターが??と疑問符を大量に浮かべていました。
2020年3月には剣の王国はcomicoから権利が移り、はめつを連載している出版社のウェブサイトで再掲載となっていました。会員登録もアプリのインストールも必要ないので布教しやすくなる!と喜んでいました。201話以降は、ストックがなくなったら不定期でもいいから連載再開しないかなあ、と思っていました。
2020年の5月には作者Twitterにてドロテーアとアルフレドらしきイラストが無言で投稿されました。人形のようなテイストで描かれた2人が抱き合い、アルフレドの体がバラバラになっていてドロテーアが泣いているイラストでした。イラストの横にははめつのおうこく3巻発売の宣伝。どう見ても不穏。頼むから合流しないでくれとすら祈り始めていました。
そして2020年の8月発売の本誌にて、爆弾が落とされました。父を助けたいと旅をし、おっちょこちょいだけど困っている人を放っておけない、心優しい少女として描かれていた剣のヒロインのドロテーアが、はめつのラスボスとして描かれていました。
?
彼女のせいで今作は屍の山と化しているのだと。しかもその理由が剣の主人公アルフレドが何らかの理由で命を落とし、彼を取り戻すためであると。偽善なんか捨ててしまったと。
???
突如として連載終了した剣の王国でしたが、連載終了する直前の話ではアルフレドは生きていましたし、ドロテーアも心優しい少女のままでした。あのアルフレドが死んだ???あのドロテーアが闇堕ち???剣がバッドエンドだとしても、こんなところでその情報を知らなきゃいけなかったのか???到底納得などできませんでした。
前作を追ってきた相互さんたちを見ていると、黙って離れていく人か、鍵垢で愚痴りながら読み続ける人かに分かれていました。私は後者でした。
2020年の8月で3巻まで出ていたはめつですが、同年の9月頃に「スターターキャンペーン」という名目で、1〜3巻のうち2冊以上買ったレシートを応募すると小冊子が貰えるキャンペーンを行っていました。
その応募の対象になるレシートが2020年の9月以降という点で界隈が若干荒れました。スターターキャンペーンなのに内容がドロテーアにまつわるものであることや、発売日当日に買ったレシートが対象にならないことから、昔からの読者を大事にしていないのでは?という声が上がりました。しかし、お金を出せば全員が読めるのだから、という声が多く、私もどちらかといえばその考えでした。
小冊子の内容も闇堕ち後を補強するだけで、前作の優しいヒロインがなぜ闇落ちに至ったのかという納得は得られませんでした。
余談ですがこの小冊子ははめつ6巻の電子特装版に収録されています。
そして、2020年の年末。またもや爆弾が落とされました。
「剣の王国の最終話を描いています。」
このツイートを見た時まず思ったのは続きではなく最終話?ということでした。それに添えられたイラストも8章時点の衣装を身につけたドロテーアでした。あれ?もしかして途中まで描いてた9章削って最終話描いてはめつに繋げる気か?と不安が過りました。
流石に連載終了やはめつを擁護してきた人たちも疑問を口にし始めていましたが、それでも作者には何か考えがあるのだろうと見守る人が多数でした。
ここから地獄が始まりました。とは言っても、そこからしばらく音沙汰はなく、似たキャラクターが死んでいく現行作くらいしか供給(?)はありませんでした。
2021年の夏、今の掲載媒体で剣が8章(175話)まで公開され、「次回最終話!」という告知が出ました。もとは9章(176話〜201話)が途中まであったのに?20話以上なかったことにするのか???古参ファンたちが募って9章が無くなることを問い合わせたりツイートしたりしましたが、全く説明はありませんでした。
週刊連載から月刊連載に切り替わったことで作者のTwitterがよく動くようになり、少しずつ温度差を感じるようになっていました。作品内で殺伐としているはめつの主人公とヒロインのほのぼの絵を上げたり、剣の宣伝でタイトルをはめつと間違えたり、「ん?」と思うことが増えてきました。
その後、またしても作者がTwitterで爆弾を落としました。
「いいこと思いついた」「最終話、読者参加型にしたら面白いかも」「Twitter投票で決めます^^」「初期からの構想であるトゥルーエンド、それに対抗するハッピーエンド、どちらにするか読者の投票で決めたいと思います!」「ハッピーエンドはアルフレドとドロテーアがピクニックをします!」
は?????
今まで続きが読みたいという気持ちも、上書きしないで欲しいとう気持ちも、納得が欲しいという気持ちも汲んでもらえなかったのに??ここにきて最終話「だけ」読者に委ねるのか???
小さい界隈ではありましたがTLが荒れに荒れ、どちらにも投票したくなんかない、こんな遊びに使われたくないという悲鳴があちこちで上がりました。そもそも物語の終わりをTwitterで決めてしまうような作品だったか?と。これ以上の地獄ないだろ、という感じではありますが、まだまだ下がありました。
2021年11月頃、Twitter投票の結果トゥルーエンドに決定し、界隈は死刑宣告されたような雰囲気に包まれました。
2021年12月に有料で最終話が先行公開されました。中身としては最悪も最悪でした。
最後に公開された8章の終わりから1年が経過していて、過程は端折りに端折られていました。ヒロインの旅の目的であった父は回想の中の一コマで殺されていて、師匠の仇をとることと約束を果たすことが目的であったはずの主人公はそんなこと忘れたといわんばかりにヒロインとイチャイチャしていました。伏線があったキャラクターたちは全員死体で映され、謎の多かったラスボスも初出の知らない男のためにこんなことをしているのだと。
高級食材を目の前でドブに突っ込まれてる気分でした。読みながら泣いたし吐きました。なによりキツかったのはこんな終わり方をしておきながら作者が満足気にしていたことでした。こんな終わり方で本当にいいのか?とリプしたくなる位には酷いものでした。
はめつでの闇落ちに整合性を持たせるために描いているようにしか見えず、そのために剣という作品の整合性が失われているように見えました。
当然荒れに荒れ、ファンアートを描いていた垢は軒並みお気持ちツイートを吐き出し、ROM専だった人もお気持ちを吐き出し、考察スレはアンチスレと化し、褒める人の方が少数派でした。
そして2022年1月、最終話が無料公開されてさらに荒れました。こんな最終話でも読めてよかったと言う人、こんな終わり方なら一生未完の名作が良かったという人、反応は様々でした。
どんなかたちであれ、剣の王国という物語は閉じたので、もうはめつを読む必要もなければ、公式に荒らされることもないだろうと思っていた矢先です。
無料公開から3日、有料公開から1ヶ月以上経ったタイミングで落丁が発覚しました。
内容も酷いのに落丁まで?ふざけてるのか?と当然荒れました。
それについて出版社からの謝罪ツイートがあり、その後に作者が「落丁があったようです、僅かなコマではありますが対応していただいてます、1ヶ月経った今発覚するのは残念というかなんというか…」という旨のツイートをしました。
なんでそんなに他人事なのか?誰も確認しなかったのか?1ヶ月もあって?こっちは金払ってるのに??と、とうとう大炎上しました。
まず「なぜ運営側なのにそんなに他人事なのか?」というリプに対し、作者は「申し訳ない、だけど忙しくて全然確認してない、出版社に納めた時点で自分の仕事は果たした」という返答をしました。その後「日常ツイートや作品に関係ないイラストをあげる暇はあったのに?」という皮肉ったリプが来ました。ここからが大地獄の幕開けでした。
作者はその皮肉リプを引用リツイートで晒しあげ、「日常ツイートで不快にさせてしまってごめんなさい、もう日常ツイートやめます」といった旨のツイートをし、それを見た擁護派が皮肉リプをした人を袋叩きにし、泥沼と化しました。作品をよく知らないで擁護したり首を突っ込んでくる外野のおかげで色んなところで場外乱闘が繰り広げられました。
結局、作者が一連のツイートを消し、むりやり消火しましたが、もう焼け野原が広がっており、その作品の話をするのも辛いような状況に陥りました。
このnoteを書こうと思ったきっかけは、ピッコマでも剣の王国の最終話が掲載されたことです。マグコミやマンガドアより遅れて掲載していたピッコマならば、何かの間違いで最終話でなく9章の、201話の続きが掲載されたりしないかなと思っていました。残念ながらその淡い希望は粉々に砕かれました。
なんでこうなっちゃったんでしょう。ただ、普通に応援して、書籍化を喜び、最終話が出たら完結おめでとうと言えるような作品であってほしかったです。少なくとも私は、今まで応援してきたものは何だったのかと虚無感を感じてしまいました。
剣の王国、大好きでした。
追記 (2023.2.1)
はめつのおうこくのアニメ化が決定したそうです。アニメから剣を読んだ方へ、当時の状況を知るきっかけになれば幸いです。
追記2 (2023.11.25)
はめつのアニメ視聴者の方に見てもらえているようで、ありがとうございます。
アニメも見ていますが、
・絵柄が少し変わっていること
・オリジナル演出(クソデカ筆書体の技表示など)があること
・前作に全く触れていないこと
などの理由からシュールで面白いアニメになっているな、と思います。
ストーリーは若干順番や言葉選びを変えていたりはしますが、概ね原作に忠実に再現しているなと思います。
余談ですが、はめつの方に登場していたヤマトとユキの兄妹は、削られた9章目の挽歌の章に登場していたシキとアキという兄妹のキャラデザをそのまま引用しています。
さすがにドロテーア周りの話はアニオリで剣の話少し入れるなり公式で剣の方も読むように誘導するなりするだろうと思っていたんですが、それすらないストロングスタイル。このnoteやニコニコの解説を読まなくても分かるようにしろよと思わなくもないです。
でもアニメが作者の絵柄により近い作画で、オリジナル演出もなく淡々とやられた方がきつかったと思うので、笑えるだけまだよかったのかなとも思いました。
なぜ剣の王国があんな終わり方をしなければなからなかったのか、それを犠牲にしてなぜはめつのおうこくが続いているのか、納得するまで本誌もアニメも追い続けたいと思います。