天皇賞(秋)回顧録
去年の秋、友人に初めて誘われた東京競馬場で衝撃的なものを見た。
その日は6Rから見始め、目の前に繰り広げられる大白熱のレースに興奮したものの、どこかでまあこんなものかと思ってもいた。
11R。その日の最も重要なレースが行われる。その名は天皇賞(秋)
といってもその日初めて競馬を見た私にはよく分からない。なんだかイクイノックスという馬がめちゃくちゃ過去の成績が良くて本命、対抗ダノンベルーガ、他にジャックドール、シャフリヤール、ジオグリフ、穴っぽいところでパンサラッサとポタジェあたりまで抑えて三連複を買った(買い目は意味不明なので非公開)
ファンファーレが鳴り、ゲート入りがはじまる。もちろん大混雑のなかかろじてターフビジョン(馬場にある大きな液晶画面。レース映像を映す)が見えるくらい。
レースが始まる前の人々の興奮が煮詰まったような空気とレースが始まったときの歓声はよく覚えている。
隊列がターフビジョンに映し出される。イクイノックスはどこだ。ダノンベルーガはどこだ。
分からない。競馬場に初めて来た人間なんかに自分の応援している馬がどこ走ってるかなんて分かりようがない。実況が前の方から順にどの馬がどの位置にいるかを教えてくれる。それに合わせて映像も後ろの方に流れていく。イクイノックスとダノンベルーガは結構後ろだな。大丈夫かな。
最後方の方まで紹介し終えると、映像が再び隊列を映し…..
えええええええええ!!???
会場全体がどよめく。
なんか一頭すっごい逃げているんですけど。
1000m通過タイム57.4と表示された瞬間、会場が一気に盛り上がりる。ちなみに初心者には57.4がどんな数字なのか分からない。でもたしかそれまで見たレースでもそんな数字でてないから結構早いんだろうなーくらいの感覚。
一頭大きく逃げた馬の名前はパンサラッサ。そのまま一頭だけぶっ飛んだ位置で第4コーナーを曲がり直線へ入ってくる。かろうじて肉眼で見ることができた。大きく遅れて他の馬たちも直線へ入ってくる。
いやもうこれパンサラッサの勝ちやん。周りめっちゃ盛り上がってるけどこんなもん直線入る前に勝負決まってるやん。周りからめちゃくちゃ声援ん飛ぶ。めちゃくちゃなのでどの馬が応援されているか分からないけどイクイノックスとパンサラッサを呼ぶ声が多かった気がする。
残り2F(400m)を切る。いやだからパンサラッサ勝ちやんもうこれ
残り1Fを切る。だからパンサラッサやって。
いや、待って。なんかすごい差が縮まってきてない。え?これあるのか。あそこからの逆転あるのか?
ごちゃこちゃした馬群の中からはっきりと3頭、パンサラッサを捉えようとしているのが見えた。イクイノックスとダノンベルーガとジャックドール。
いや、ジャックドールはともかくイクイノックスとダノンベルーガはいつの間にそんな前に来てたの!!??
一瞬だった。え?これ逆転あるの?って思った瞬間から。一瞬。本当にゴール前あと幾ばくも無い位置でイクイノックスがパンサラッサを差す。そしてダノンベルーガもパンサラッサに懸命に迫る。
うおおおおおおおおおおおおお
だったよね。もう聞こえてきた音は。それまではなんか意味のある声援だったのに、ゴールの瞬間はうおおおおおおだった。
1着7、2着3、3着5
慌てて馬券を確認する。買ってる。イクイノックスとダノンベルーガ2頭軸で相手にパンサラッサいる。(ちなみにながしで買えるのに、フォーメーションで買ってます。初心者なので)
その日の収支はプラス3000円強。こんなにすごいレースを見れて、昼食代入場料交通費あわせても黒字なんて最高かよ。
ちなみに、大勢がイクイノックスとパンサラッサの差すか逃げきるかを見てたゴール前の瞬間、自分は、内から必死伸びてくるダノンベルーガの方に目がいってしまった。毛色のせいか、何なのか、あの瞬間ダノンベルーガがとても美しく見えた。そのときから、ずっと最推しはダノンベルーガである。
それから一年後。
再び東京競馬場に足を運ぶ。ここに来るのはダービー以来。
イクイノックス、そして最推しのダノンベルーガがこの目で見られるのなら来ないわけにはいかない。
どんなレースになるんだろう。パンサラッサがいないからそんなにペース早くなりそうにないけど、ノースブリッジとジャックドールがどっちが逃げるか、ダノンベルーガはドウデュースの後ろについて2頭揃って前目で行って、イクイノックスが後ろで競馬してプログノーシスあたりががっちり蓋したらダノンベルーガ1着に来ないかな、みたいな1年間で手に入れた一端の知識をフル回転させて主にダノンベルーガがいいところに行く展開ばかりを勝手に考えていた。
8R開始前からウィナーズサークルに近い位置で待機し、今か今かとその時を待つ。
待っている間が長いので、さっさとスタート
ダノンベルーガが良いスタートを切れたことにまずほっとする。前走は行き足がつかず、しかもなんか結構横の馬にがっちり挟まれ、後ろに下がってしまいみたいな感じだったし、前々走も位置取り後方で最後届かず見たいな感じだったので。
一方、先頭争いはジャックドールとノースブリッジかと思ったが、なんとガイアフォースも加わってくる。ジャックドールがなんとかハナを取り切り、ガイアフォースがその後ろに着く。このガイアフォースも推しで、特に安田記念ではガイアフォース一頭軸三連複を買い、脳を焼いた。
話を戻すと、ガイアフォースがこの位置で競馬をするイメージがあんまりなく、そんな位置で足が持つの?と不安になりつつ、その後ろになんかもういるんですけど。世界最強が。
この時点で先ほど言った空想は崩れ去った。まあこんなもんイクイノックスの勝ちですよ。ドバイでの走りを見てなかったら不安にもなったんだろうけど、あの走りを見せられた後じゃ、この位置に出てきた時点でイクイノックスの勝ちでしょって感じ。万が一がありそうなのが怖いが、万が一がないからイクイノックスなのである。ウィナーズサークルに風呂があったら、風呂はいってくるところだった。
ビジョンに映し出される隊列を見ると少し違和感を覚えた、あんなに好スタートだったダノンベルーガがもう後ろから3頭目の位置だ。まあドゥデュースの後ろだから悪い位置ではないだろうが。ジャスティンパレスとプログノーシスはさらに離れている。しかもジャスティンパレスは一度大きく離されたのを結構がんばって追っているように見えた。
ジャックドールがハナを取るなら、大阪杯くらいのペースになると思っていた。が、なんだかそういう感じでもない。だけど、ガイアフォースがついていってるんだし、そんなに速いペースでもないんじゃないか。
いったいどうなってるのかと訝しげにターフビジョンを見てると答えが載った。
1000m 57.7
あの日と同じように、いや、それ以上に場内がどよめきに包まれる。
速い、これ速いよ。と誰かの声がする。
そうだよ。これじゃパンサラッサの逃げと大して変わんないじゃん。
なのに、なんでどの馬もそのペースについていってるの??いったい何が起きてるの??
混乱した頭で4コーナを曲がってくる馬群をビジョン越しに見る。考えているのはダノンベルーガが残れるか。後方3~4頭目とはいえ、その位置でも多分かなり速いペースだろう。足が持つのか。
いや、その前にイクイノックスもさすがにこのハイペースだと危ないんじゃなか。あ、直線入る前から加速してガイアフォースを抜かそうとしてる。ほなじゃあ優勝か心配して損した。
もうこっからはダノンベルーガしか見ていない。直線入ってもドゥデュースが伸びてこない。ダノンベルーガもその後ろままだ。ジワリとドゥデュースが前に出てその横を通ってダノンベルーガが並びかける。良かったまだ足は残っている。ならイクイノックスには届かないとしてもその意地は見せて欲しい。
外からなんか2頭すっ飛んできている。がダノンベルーガもドゥデュースを追い抜く。この辺で目の前をすごい勢いで各馬通り去っていく。ガイアフォースを捉え、2着争いは3頭に。ダノンベルーガと多分プログノーシスと多分ジャスティンパレス、いやもうダノンベルーガしか見てないからはっきり分からん。
なんとか何とか残ってくれという思いを横目にジャスティンパレスが駆け抜ける。最後はプログノーシスとの3着を決める一騎打ち。
プログノーシスか。
自分の特技かどうかもよくわからん特技として、アタマ差以上なら、写真判定待たずともどっちが勝ったか映像を見て一発で大体分かるというのがある。ハナ差は微妙だけど。
その目でプログノーシスがダノンベルーガよりも先着しているのを見てしまった。
4着か。結構いい走りしてたように見えたんだけどな……
掲示板に点灯した数字を見る。1着7、2着6、3,4着写真、とふと点灯したタイムを見ると1:55.2。
いっぷんごじゅうごびょうにぃ!?
急いで思い出す。今日ネットで秋天で調べたときにどっかのサイトの下の方に書いてあったレースレコードを。1:57だっけ?1:56だっけ?少なくとも55秒台ではなかった。レコードだ。
掲示板にぱっとレコードの文字が灯る。
うおおおおおおおおおおおおおお
やりやがった。イクイノックスやりやがった。ちゃんと調べると従来のレコードは1:56.1。1秒近い更新である。ってことはどこまでが従来のレコードなんだ??ダノンベルーガか?ガイアフォースあたりまで?
ここら辺のことは後々分かるのだが、8Rから人混みの中で待機し、秋天を見てる時の気分のジェットコースターによって急激に体調が悪くなってきた。
ペースはえええ→イクイノックスきたあああ→ダノンベルーガいけええええ→あかんかったか……→レコードォ!
なんてなったらそりゃ体調も悪くなる。なんとか最敬礼あたりまでは見ていたが表彰式までは耐えられず、外の広いところへ行って休む。12R前にお家へ帰るターフィー君を眺めながら、呼吸を落ち着かせる。12R当初の予定では1,2,10,11の馬連か三連複を買う予定だったが調子が戻らずに買えなかった。買わなくてよかった。なんやあのレース。
話を秋天に戻そう。ダノンベルーガまでが従来のレコードよりも速いらしい。馬場や展開もあるだろうがそれでもこのタイムを出して、馬券内にさえ入れてもらえないのか。厳しい。
きっと、いつかG1を獲る馬だと信じているし、今回の成績で別にがっかりするわけでもない。というか今回は相手が悪かっただけで、とても良い走りをしていたのではと素人ながらに思っている。
あと個人的にはガイアフォースにも驚かされた。ガイアフォースは1600か2200で走っているのしか見たことが無かったので2000ってどうなんだろうと思っていたが、あのペースで2番手追走し、先行勢総崩れの中(イクイノックスを除く)かなり粘りこんで5着に残るとは。
まあ他の馬にもいろいろ感想はあるのだが、とにかく今回みたいな素晴らしい走りをまた別のレースでみたいなという気持ちでいっぱいだ。レコード付近のタイムを出した影響で深めのダメージを負ってないことを祈っている。
終わりに
競馬のこと色々覚えて観戦した今年の回顧より、なんも知らねえ去年の回顧の方が面白く書けた気がするのなんで。
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