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同人誌のプロットの作り方

※注意事項
以下は、成人向BL漫画のプロットづくりが主眼になっています。ただし、全年齢の物語や、小説を書く際にも活用できます。

1. はじめに

インターネットお絵かきマンであれば、誰しも一度は同人誌をつくってみたいと思ったことがあるだろう。
そこでぶち当たる壁の一つが、「物語の作り方がわからない」である。絵は描ける。web用の漫画も描けなくはない。だが数十頁にわたる物語を作る方法がわからない。これはそういった方々の背中を押すためのコラムである。

最初に断っておくが、同人誌を出すのに物語を作る必要はない。イラスト本でもいいし、4コマ漫画や1ページ漫画の詰め合わせでもよいのだ。最初から最後までつながる一つの物語を作らなければならないというのは、ただの思い込みである。
だが「そうであっても、私は物語が作りたいのだ」と思った方のみ、以下の文章に目を通していただきたい。コラムを通じて、あなたに何か少しでも手がかりを与えられれば幸いである。

まず、私自身はズブの素人であることをお断りしておく。グラフィック系の仕事ではないし、文筆業でもない。同人活動を始めて3年程度の赤ちゃん、つまりベイビーだ。これまでの活動は小説がメインで、長編を書いたと言っても10万字程度である。
そんな自分がこれまで得られた知見を共有することで、話づくりにつまづいている同人ビギナーの方々に対して、少しでも状況を打開するきっかけを与えることができれば嬉しい。

2. 初心者が特に気をつけるべきこと

2-1. いきなり長編を書くな!

まずは二人の出会い、互いに惹かれあう二人、幸せな時間を過ごす二人、攻からのプロポーズ、はにかみつつ承諾する受、しかし突如現れた障害! 引き裂かれる二人、二人は絶望の淵に沈む……しかしそれを打開して、二人はついに結ばれる。結ばれた二人は、愛のあるセックスを……

長い!!!!!!!!!

書きたいことがあるのはわかる。だがこういう馴れ初めエピソードをしっかり描こうとすると、漫画では70ページくらいかかる。初心者には高すぎるハードルだ。まず最初は24~36ページ程度のストーリーを目標にしよう。

では、物語をコンパクトにまとめるためには何が必要か?

①「シリアスかエロか選べ!」
両方ガッツリ書こうとしてはいけない。どちらを中心にするか選ぼう。
②「シーンを限定しろ!」
場面が変わるたびに、舞台の説明が必要になる。場面は極力減らそう。
③「削れるものは全部削れ!」
削れば削るほど、本当に描きたいシーンや台詞が見えてくる。

ただし、これは初心者向けの話であって、既に慣れている人には全くあてはまらない。自由に長編を書いてほしい。

2-2. 王道を恐れるな!

暗闇から伸びる腕、モブに襲われる受、どんどんピンチになっていく、焦る受、忍び寄る魔の手、貞操の危機! 助けて攻くん!
しかしここで攻を登場させるのはあまりにベタすぎる。ここはもう少し襲わせよう。……哀れにも最後まで襲われてしまった受、まだ攻にも抱かれてないのに、すっかり穢されてしまったと失意に暮れる。
しかしここで登場させるのもありきたりすぎる。受には申し訳ないが、精神が崩壊するところまで堕ちてもらおう。

ひねくれるな!!!!!!!!

王道展開はなぜ王道たりうるのか? 王道とは使い古された展開である。なぜ使い古されるかと言うと、みんな王道が好きだからだ。賞に応募するための作品ならまだしも、同人誌に求められているのはむしろベッタベタな展開である。モブレからのお清めセックス。

王道は恐れるもの、忌避するものではない。武器にしろ!

2-3. 予想を裏切れ!

いや、いま上で「王道やれ」って言ったじゃん。どっちだよ。唐突に訪れる正反対のギャップ。これが「裏切り」である。
まずは王道のストーリーを作ろう。そこで、一番の見せ場に「裏切り」を入れるのだ。モブは実は攻だった。少し触れるだけのつもりが、空気に呑まれて受への気持ちを抑えられなくなってしまったのだ。

「裏切り」は物語の一番のスパイスだ。一見「王道」とは相容れないもののように思えるが、「裏切り」は「王道」を理解しているからこそ、生み出すことができるのである。

3. プロットをつくろう

随分と前置きが長くなってしまったが、ここからは実際にプロットを立てる手順を説明しよう。

3-1. 本のテーマを決めろ!

書きたい内容をまずは一言で説明しよう。「温泉旅行に行く話」「受に猫耳が生えた話」「セックスしないと出られない部屋」「受がトラウマを乗り越える話」「現パロ馴れ初め話」「オメガバース」――なんでもよい。まずはこれがないと始まらない。
だが、これが無い人がいる。「本は書きたいが、書きたい話が思いつかない」。一見、めちゃくちゃに思えるが、実はよくあることなので「自分には物語を作る能力がない」「推しカプへの愛が足りない」などと不安に思う必要はない。

そんなあなたにおすすめのテーマがある。「季節ネタ」だ。イベントの日付を確認しよう。春ならお花見をさせろ。夏なら海に行け。秋はおいしいものを食べさせろ。冬は雪を降らせてエモい感じにしろ。
もう一つ、鉄板のテーマが「初夜」である。一つのカップリングに対して、初夜は35億通り存在するとも言われている。他の誰かが初夜を書いていても気にするな。既に初夜を書いたことがあっても気にするな。残りの約35億通りの初夜ネタは、まだ手付かずのままなのだから。

3-2. 描きたい内容を羅列しろ!

テーマが決まったら、本の中で描きたい内容を羅列しよう。今は年始なので、仮にテーマを「姫はじめ」と決めて進める。
では、自由にアイデアを出してみよう。この段階では、アイデア同士を無理に関連づけたり、時系列に出来事を考えたりする必要はない。ブレイン・ストーミングの要領で、思いつくアイデアすべてを書き出してみよう。質より量である。さあ、スタート!

「はじめての二人での年越し」「攻の家に遊びに来た受」「年末の特番も観ずにゲームに熱中する二人」「年越しの瞬間に寝てしまう受」「一緒に年越しそばを食べる二人」「攻が作ったそばは具材が大きめだけど、ダシがしっかりしていておいしい」「無言でガツガツ食べる受を嬉しそうに眺める攻」「除夜の鐘では消えない煩悩」「来年も一緒に過ごせたらいいな」などなど。連想ゲームのように書き出していくのがコツである。

3-3. ストーリーの構造にあてはめろ!

物語の基本は「起承転結」である。これに勝る真理はない。
だが、同人誌のストーリーをよりコンパクトにまとめるために、私は新たな構造を提唱したい。「起転性結」である。「承」に割くページがあるならとっとと「転」を持ってきて、あとはセックスさせておけ!!!

では、上で出したアイデアを「起転性結」にあてはめてみよう。あてはめづらいものは、遠慮なく捨ててよい。惜しいと感じるかもしれないが、それはまた次の本で描けばいいだけの話だ。
慣れていないうちは、とにかく「詰め込みすぎないこと」が肝要である。

「起」
受が攻の家に遊びに来る。初めてのことで、二人とも少し緊張している。だが、すぐに打ち解けて二人でゲームに熱中する。夕方になると、攻が年越しそばを作ってくれる。朝に買ってきたエビの天ぷらは少し湿気ていたが、二人で食べる年越しそばは今まで食べた何よりもおいしかった。

「転」
はしゃぎすぎたあまり、夜が更けると居眠りを始めてしまう受。攻は年越しの瞬間を一緒に喜びたかったが、穏やかな受の寝顔を見ていると、とても起こす気にはなれない。賑やかなテレビが新年を告げる。
どこか遠くで除夜の鐘が聞こえる。鐘の音では到底かき消すことができない思いがあふれ出て、攻はそっと受の唇に口づけた。
「……ハッピー・ニュー・イヤー」
いたずらっぽく笑う受と、起きていたとは思わずに目を丸くする攻。攻は気恥ずかしさに頬を掻く。そしてやり直した新年最初の口づけは、夜の闇よりも深く、窓の外にちらつく雪も融かすほどの熱量をもっていた。

「性」
ここは楽しいから深いこと考えなくてもアイデア出るんだよ。ファイト!

「結」
起きたらすっかり昼になっていた。正月の朝だというのに、すっかり寝坊してしまう。「初日の出、見そびれちまった」と残念がる受に、「来年は一緒に見ような」と告げる攻。気障な台詞に受は苦笑するが、こんな正月も悪くないなと、心からそう思えた。

即席で作ったためにシンプルすぎる話になってしまったが、そのあたりはご容赦いただきたい。「起転性結」の構造を元に、思いついた要素をどのように構成していくか、という一つの思考実験である。

 * * *

物語の構造のテクニックとして、一つオススメしたいのが「アバンタイトル」である。冒頭(「起」より前)に「転」もしくは「性」の場面で一番盛り上がるところを入れてしまうのである。「エッ、次はどうなるの?」と読者を惹きつけたところで「起」に入る。
導入部である「起」は説明が主体になるため、退屈になりがちである。だが、先に一番おいしい場面をアバンで見せておくことで、読者の興味を持続させることができる。web小説など、冒頭で読むのを止められてしまう可能性のある媒体においては、このアバンタイトルの手法は、読者の興味を持続させるのに特に効果的と言えよう。(ただし、多用しすぎは禁物である)

物語づくりに慣れており、長編を書きたいという方にはブレイク・スナイダー大先生のビート・シートを紹介する。説明を始めると長くなるので、ここでは詳細は省略する。著書「SAVE THE CATの法則」をご覧いただきたい。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0776P5DX8/

3-4. シーンごとの分量を決めろ!

ここまで色々なテクニックを述べてきたが、これに沿って忠実に書こうとすると、プロットが長くなりがちである。長くしても描き切れるならばよい。だが、自信がない人には、以下のように先に分量を割り当てておくことをお勧めする。

上で作ったプロットを、実際に24ページに配分してみよう。
「起」全5ページ:つい長くなりがちだが、ここが一番退屈だと心得よ。削れる部分は削る。ときにはモノローグを活用して、簡略に説明する。
「転」全7ページ:ここで二人の心情の変化を描く。シリアスを書きたいなら、たっぷりページを割くこと。
「性」全10ページ:長ければ長いほど良い。だが、がっつりとシリアスをやりたいなら、心情メインでサラッと済ませてしまうのも一つの手だ。
「結」全2ページ:エピローグは丁寧に描こう。読後感はすべてここで決まる。甘い台詞があれば幸せな本になるし、攻が殺されたら陰鬱な本になる。

4. さいごに

長々とご覧くださり、ありがとうございました。これは理詰めでしか物語が書けない凡人のための方法論です。感性で物語が書ける方は、決して物語の構造やテクニックに囚われすぎず、ご自身の感性を大切にしてください。
では、よき同人ライフを。この方法論が何かしらあなたのヒントになって、あなただけの素晴らしい同人誌が生まれることを祈ります。


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