初めては上手くいかないもの
タイトルの通り、誰しも初めての経験というものは失敗に終わると思います。
苦い思い出や良い経験など、感じ方はそれぞれでも、成功から学ぶことより失敗から学ぶことの方が多いのは共通して言えることでしょう。
そして今日、僕は苦い経験をしました。
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ことの発端を説明しますと、ご予約のお客様からお母さんの誕生日のお祝いにと、デザートプレートのご注文をいただきました。
いわゆる「happy birthdayお母さん♡」的なやつです。
ちょうど来週も同じようなご注文をいただいているので、知り合いだったこともあり、「これは良い機会だ」と安請け合いしてしまったのがいけませんでした。
ありがたいことに今日はご予約以外のお客様にも何組かご来店いただき、わりとバタバタしてました。
「おー、こんなに景気のいい店はこの町でうちのだけかもなー♪」なんていう余裕も最初はあったんです。
スマホには自分のイメージに近いデザートプレートの画像も用意して準備は万端。
「うちだってやろうと思えばその辺のレストランくらいのものはできるんだから♪」
*
ケーキもよし、フルーツもよし、生クリームもよし、あとはお客様からのGOサインを待つのみ。
もう頭の中で何回このプレートを作ったかわかりません。
「おいおいまだかよー」
もう冷蔵庫の中でお皿も待っています。
おさらいすると(お皿だけに…)段取りはこうです。
①プレートにチョコペンで「happy birthdayお母さん」と書く
②ケーキに生クリーム、フルーツをデコレーションする
③いちごのソースやバナナ、キウイといったフルーツを飾る
④アイス、ミントを飾ってできあがり
様々なデザートプレートを見てきたのでよそのお店のいいとこ取りになってます(頭の中では…)
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ところがです!お待たせしました(笑)
もはや飲食業あるあるかもしれませんが、暇だとタカをくくると決まってオーダーが立て込んできたり、お客様が入ってくるものです。
「どっこいこちとら百戦錬磨のベテラン選手、
これくらいじゃあ慌てないぜ。」
「なんせあとは盛るだけだからよぉ」
などと生まれも育ちも越後の僕が江戸っ子口調でオーダーをさばいていましたら…
「ありがとうございまーす!〇〇タクシーでーす!」
「え?」
デザートをご注文いただいたのは娘さん、
そろそろ帰ろうかとタクシーを頼んだのはお父さんでした。
「マジか⁉️」
「ちょっと待ってよ!これからお母さんのお誕生日のプレートでどっかーん!じゃないの⁉️」
調理場の空気が凍りつきます…
「おい、出せ出せ!」「早く早く!」
「うるせー!わかってるよ!まずはチョコペンで皿にhappy birthdayだよ」
ハサミでチョコペンをチョキン……
チョコペンをチョキン…
…先っちょを全部切ってしまいました。
「いや〜、おっきな穴が開いたねぇ。」
「おっ、なんだい?太字にしようってのかい?」
「おー、そうなんだよ。盛大にでかでかとhappy birthdayといこうじゃないかい。」
「いいだろう、こいつは縁起がいいや!」
と、ひととおりひとり芝居をした結果皿に書いてみると、当然文字になりません。
まるで動物の尻尾のような(本当はウ〇コのような)線が出てきました。
「さぁ〜て、本番行こうか…」
汗が額を伝うのがわかります。
慌てるな。「happy birthday」だ。
「待て!これじゃあ絶対に無理だ!」
「よし!応急処置を施す!セロハンテープ!」
「はい!」
と、再度ひとり芝居を繰り広げつつ慌てて穴をセロハンテープで塞ぎます。
そして、いざ!
ぶちゅ〜…大きく開いた穴から大量のチョコが漏れてきました。
「もぉー、手が真っ黒じゃん♡」
「あはは♪そうだね。おいしそー!」
詰んだ…
ふと見るとレジでお会計をしているお客様と目が合いました。
「大丈夫、待ってますから…」
そう言ったか定かではありませんが、呆然と立ち尽くす僕を見て笑っている女性の姿が見えました。
*
しかし、そのまま笑ってやり過ごせるほど飲食業というのは甘いものではなく、
その後慌ててスーパーに走り、再度チョコペンを2本購入し(失敗することも考慮して)なんとか震える字で「happy birthday」と書いてデザートプレートをお出ししました。
あれほどシミュレーションしたはずのプレートはいったいなんだったのか?
今頃ドヤ顔をしているはずの自分の姿はそこにはなく、冷や汗と引きつった笑顔の「おめでとうございまーす♪」が無残にも部屋に響き渡りました。
「わぁ〜!」という主役のお母様の声が鋭利な刃物のように僕の心臓をえぐります…
*
人はいくつになろうと初体験というものを経験します。
そして、おそらくそのほとんどが自分の想像していたものとは違った結果に終わると思います。
赤ん坊はこの世に生を受けた時、母親のお腹の中で過ごした世界とは全く違うことに不安を感じて泣き出します。
それは赤ん坊にとって経験したことがないからです。
そこから光や音や匂いや感触を覚えながら少しずつ「当たり前」を増やしていくのです。
今日の僕はまさにその第一歩だったわけです。
今日は泣いていい(お客様にとってはいけませんが)
この涙もいずれ流れなくなる日がくる。
今日の戸惑いや焦りや失敗がいつか過去の笑い話になり、明日の当たり前になる日がくる。
最後に、1枚もそのデザートプレートの写真がないことで、いかに僕が慌てていたかということを容易に想像できるはずです…
今日の失敗を糧に、この次こそここにデザートプレートの写真を投稿したいと思います(笑)
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