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火の粉

今回は、幼馴染と久しぶりに会ってMarvelについて語り合って思いついたフィクションです。

良ければ一読ください。
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 昔はよかった。
 近頃、そう思う。
 自分の能力を隠して、平凡さを気取って生きていけた。

「生まれつき特別な力があるんだ」とシュウタは言った。
 友達と3人で映画を見に行った帰りだった。

「シックスセンス?
 映画の見過ぎ...」
 カナはシュウタを早速からかった。
「違う。
 真面目な話さ。
 これまで人には言ってこなかったんだけど」
「どんな力なの?」とキキは聞いた。
「聞きたい?」
「別に。
 でも言ってくれないなら友達じゃない」
 シュウタはキキが真剣なのに気が付いた。
「火の中に混ざる力なんだ」
「火の中?」
 カナはこらえきれずにフッと笑った。
「ちょっと危険な力なんだけど、中に入って火を少しだけ操れるんだ」
「何それ。
 そんな力、今まで隠していたの?」
 キキはもう怒っていた。
「ごめん」
 シュウタはそれ以上何も言えない、と言った感じで二人から目をそらした。
「なんの冗談なのよ。
 二人して変だわ」とカナは言った。

 二人には何も聞こえなかった。
「一昨日、私のおじいちゃんの家でボヤがあったの」とキキは言った。
「言ってたね」
「その時、君は可笑しそうにしてたわ」
「何、どういうこと?」
 カナは状況が呑み込めずにシュウタの方を見た。
「あれは俺のせいじゃない」とシュウタは言った。
「そうかしら。
 君が家に来てからすぐのことよ」
 キキはそう言って、カナの手を握った。
「キキはシュウタの言うことを信じてるの?」
「信じているんだろ。
 おれが犯人だって」
 シュウタはそう言うと、立ち止まった。

 二人も立ち止って、シュウタを見た。

 シュウタは屈んで、靴ひもを結び直していた。

 キキはカナの手をさらに強く握りしめた。
「カナ、今ライター持ってる?」とキキは聞いた。
「そんなものいらないよ」とシュウタはもう片方の靴紐を結び直しながら言った。

「俺は靴紐も固く結び直した」
「また、逃げるの?」とキキは言った。
「逃げないよ。
 ちょっとランニングに行きたい気分なんだ」
 シュウタは自嘲気味に笑った。

「ここでお別れなの?」とカナは言った。
 今ではカナもキキの手を強く握り返していた。

「ひとつだけ言いたいんだけど...」

 シュウトの言葉を手で遮って、キキはカナの方を見た。

「カナ、ライター出してくれない?」

 カナはキキが手を放してくれないので、片手でバックを開けてライターを取り出した。
 キキはライターを受け取ると、何も言わずにライターの先端をシュウトに向けた。

 動作はゆっくりだったが、立ち上がったシュウトはおびえたように少し身構えた。

「今、証拠を見せて」とキキは言った。
「火に隠れる力を?」とシュウトは言った。
「隠れるの?
 操るんでしょう」

「おじいさんのこと心配なのか」
 シュウトはそう言うと、拳を握って親指を立てた。

 力を見せるのに、それほど時間はかからなかった。

 シュウトがフーと呼吸すると、親指の先から体が解けて火の粉が上がった。

 シュウトは落ち着いていた。
 目でライターまでの距離を測ると、ライターの先端に向けて合図を送った。

 キキの手の中で、ライターは着火した。

 キキは火のついた瞬間びくっと体を震わせた。

「すごい...」とキキは言った。
「何これ...」
 カナは反射的にキキの手を離した。

「ガスの開けられていないライターの火は一瞬で消える」とシュウトが言った。

 瞬間、火は消えた。

 3人とも今起きたことについて考える時間が必要だった。

 沈黙が3人を囲って、雑踏の音をかき消した。

「俺は何もやってない」
 シュウトの声は消え入りそうな声でそう言った。

 もう、火の粉がシュウトの体から出ることはなかった。

「そうね」とキキは言った。

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