14日の町
今回の短編は、完全に思い付きのフィクションです。
かなり、奇妙なのでサッと読んでいただければ...
良ければ一読ください。
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向日島。たまに乗る鉄道のローカル線に見慣れない町名の駅があったので、思わずそのその駅で電車を降りてしまった。降りてから、何とも言えない心細さを感じた(あまり信用のおけない知人の実家の玄関を呼ばれもしないのに蹴破った時のような心細さ)。
「しまったな...」と僕は言った。それからほとんど無人の駅を見渡した。反対の路線の向こうには、堀のかなり深そうな堤防に短いつり橋がかかっていた。
視線を、つり橋に向けたまま10分ほど次に来るはずの電車を待った。携帯の画面には16時17分と表示されていた(やけに中途半端な時刻だな)。10分待って、16時27分になっても電車は来なかった。僕は時計を持っていなかった。携帯を握りしめていたせいか、4月にしては肌寒い(携帯の画面には13℃と表示されていた)程の気温なのに、手に汗をびっしょりとかいていた。
「今日は5月14日ですか?」と僕は言った。駅の端に見える町内会報の日付の間違いを指摘したかったのだ。少しからかうつもりで言ったのに、動揺で声が裏返ってしまった。
「ええ、そうですよ」と孤独な駅員は、僕の方に向かって、はっきりとそう言った。
「確かに5月14日ですが、お客さん、降りる駅を間違えたんですか?」と彼は言いながら、腕時計をチラチラと見た。
僕は今日が4月5日であることを、携帯の画面で確認してから、もう一度独り言ちた。
「しまったな...」
孤独な駅員はゆっくりとこちらに向かって歩き始めていた。
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