探し物と約束
今回の短編小説は、鞄の中に入れているモノがよくなくなる人を想像して書いたフィクションです。
良ければ一読ください。
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「いったい、何を探しているんだい」
「鏡よ。
私の持ってた鏡」
「でも、鏡なら今君が左手に持っているじゃないか」と僕は言った。
「ちがうの、この鏡じゃないの。
もっと別の大きな鏡みたいなものなの」と彼女は言った。
「鏡みたいなもの?」と僕は聞き返した。
彼女は何も答えなかった。
彼女はよく物を失くす。
特に、鞄の中に入れているモノがなくなる。
彼女には取り出したポケットとは違うポケットにモノを入れる癖がある。
「さっき、鞄の前ポケットに何か入れていなかったかい?」
彼女が前ポケットを探す。
「あったわ」
「良かった。
取り出した時は、鞄の中からだったの?」と僕は聞いた。
彼女はそれには答えない。
「最近物忘れがひどいの。
心配事が多いのかも」と彼女は言って、僕の手の甲をつねった。
「痛っ...」
「心配事の原因はあなたよ。
全く進歩しないのね」と彼女は言った。
進歩しないとは失礼だな、と僕は思った。
が、何も言わなかった。
出会ってから、毎日一緒に時間を過ごすようになるまで、それほど時間はかからなかった。
それから出会ってから、毎日のように言い合いになるまで、それほど時間はかからなかった。
彼女との時間を僕は前向きに(彼女は『建設的に』と言った)過ごしたかった。
言い合いなんてまっぴらごめんだった。
大体、彼女と会うまで女の子と言い合いになることなんて、人生においてもそれほど多くはなかった、と思う。
「どうして、いつも僕らは言い合いになるんだろう」と僕は聞いた。
「あなたが譲らないからよ」と彼女は言った。
「僕は君がとの時間を平和に、前向きに過ごしたいんだ」
「建設的にね。
私も同感だわ」と彼女は言った。
「じゃあ、もう言い合いはやめよう。
一週間何も言い合わない、喧嘩をしないってのはどうかな?」と僕は提案した。
「バカ言わないで。
そんな夢みたいなこと言ってどうするの。
あなたが頑固すぎていつも驚いているわ」と彼女は言う。
また言い合いになりそうだったので、僕は一週間の約束を守ることにした。
「ねぇ、今度キャンプに行かないか?」
「いつ?」
「来週末がいいと思うんだ。
ピクニックでもしようと言っていたけど、キャンプに変更しないか?」と僕は提案した。
「いいわ。
何処へ行くか決めてね」
「僕らは、基本的には仲良しだと思うんだ。
ただ細かいところで、よく意見が食い違う」と僕は言った。
「一週間後が楽しみね」と彼女は言った。
そう、一週間後に僕たちは楽しいキャンプにいけるのだ。
そのためにも、一週間は言い合いをしない。
探しものは僕が見つけよう。
そうすれば、シンプルに、キャンプを楽しめる。
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