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【コンセプトアルバム奮闘記】#13 曲解説 僕には重すぎた王冠
シーンの説明
黄鶯楼の大型新人・桜華は、その美貌と愛嬌で瞬く間に人気を集め、指名数でトップの翡翠蝶に迫る勢いを見せていた。翡翠蝶は桜華を認めつつも嫉妬心を募らせ、時には嫌がらせを行うなど対立構図が深まりつつあった。
桜華はかつてのアイドル・桜井華子にやはり酷似しており(本人だ)、客から「似ている」と言われるも笑顔でかわし続けていた。
しかし、実物を知る片桐はじめは、翡翠蝶のサービスを終えた帰り際に桜華を目撃し、その姿が「似ている」どころか本人ではないかと疑念を抱き、確かめるために指名を決意する。
歌詞の説明
ちょっとうつむく
よく見慣れた横顔が
品と愛嬌、隠しきれず囚われる。
桜華が目の前にいる。おそらく桜井華子(桜華)と接する中で、かつてアイドルとして輝いていた彼女の「品」と「愛嬌」を目の当たりにし、心を奪われる。彼女の存在感は隠そうとしても滲み出てしまい、片桐は自分が感情的に囚われてしまうこと、確信していることを自覚した。
しかし、桜華は初めて見る客として淡々と接客を続ける。
元気だったかい? いわずに飲み込むだけ。
笑顔の奥の素顔は見えない。
片桐が桜華に「元気だったか」と尋ねたくても、自分の胸の中に押し込める。変装した自分の立場では、本音を語ることが許されず(他の花魁に素性バレたくない、そもそも会員制)、接客の笑顔の裏に隠された桜華の本当の気持ちが見えないことがもどかしい。
いつかの花 嘘みたいに
眩しくて
手、伸ばしてもすり抜ける。Oh
ほのめかす過去、言葉の裏
記憶をたどり
あの日の君 もういない。
桜華はかつての桜井華子の輝かしい姿を彷彿とさせる存在であり、片桐にとっては「手が届きそうで届かない」存在となった。彼女との時間は幻想のように美しく、しかし決して自分のものにはならない現実に気付かされる。
片桐は「あの日の桜井華子」はもういないことを痛感。桜華が自分に気づいていない(もしくは気づいているのに気づかないふりをしている)ことも、この寂しさを深めている。
お金で得た
幸せは虚しくて
非力な王様 冠(かんむり)を脱ぎ捨てる。
片桐が感じる、自分の矮小さと虚しさ。
桜華との時間はお金によって得たものであり、本当の感情や繋がりが伴わない関係である。「非力な王様」とは、自分が企業の御曹司である(という偽った設定で、柿里はじめを名乗って遊郭に出入りしている)にもかかわらず、桜華に届かない現実を表す。「冠を脱ぎ捨てる」は、その無力感や虚しさから逃れたい気持ちの表れ。
噂通りの まるでシンデレラのように
僕には近いようで遠すぎて。
桜華の美しさは「シンデレラ」と形容したいほど輝いているが、片桐にとって彼女は手が届かない虚像であり苦しむ。孤独感が溢れる。
ガラスの靴、壊れそうで
寂しくて
振り返れば 消えゆく魔法。
桜華との一夜限りの時間は「シンデレラの魔法」。二人で過ごした時間は現実ではなく、一瞬の幻想に過ぎないことを悟っている。「ガラスの靴、壊れそうで」は元に戻らない、足跡が残らない一抹の不安・寂しさを表す。
嫉妬の炎、燃え上がらせ
誰かの視線が
手持ちの札 切り捨てる。
今夜の別れ際のやり取りを翡翠蝶が見ていたのだ。片桐が桜華を指名したことを目撃した翡翠蝶の怒りや嫉妬心が燃え上がり、片桐に向けられる敵意となる。また、自分の太客を取られる不安から桜華にも敵意を募らせる。
また会えるかな? 言えるはずなんてない。
笑顔の奥の素顔は見えない。
片桐は桜華に格で完敗したのだ。再会を願うことはできない。そこに私情を挟むことは許されない現実を突きつけられた。もう自分は過去の人間なんだと。
いつかの花 嘘みたいに
眩しくて
手、伸ばしてもすり抜ける。Oh
僕には 重すぎた この王冠よ
あの日の君 もういない ・・・いない。
彼にとっての「王冠」(御曹司、金持ちという立場)は、桜華との関係を築く上では無力でしか無かった。そして、桜井華子としての彼女はもういないという喪失感を抱えたまま、帰路に就くのだった。