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思春期、テレビ局が家に来た日

一度だけテレビ局が家に来たことがある。僕が中学3年生の頃だった。

フジテレビの土曜日だか日曜日の朝にやっている番組の特集コーナーで、一般家庭にプロが訪れ、インテリアやファッション、髪型まで全てをガラッと変える、いわゆるイメチェン企画のものであった。

詳しい経緯は分からないが、母のママ友がその企画に白羽の矢が立ち(実際に放送された)、そのママ友が斉藤家を推薦したとの話であった。

無論、斉藤家がその家から見てインテリア的にダサいとかファッション感度に疎いから推薦したとも捉えられるのだが、おそらく単純に「仲が良いから」推薦されたのだと思う(そう思いたい)。

母からフジテレビが来るぞと伝えられたのは彼らが訪れた日の前日のことである。僕はいきなりカメラに映るものだと思って、受験勉強そっちのけでボサボサになった眉毛を整えてみたり、YouTubeで「小顔 なるには」みたいな検索をして顔面マッサージに努めていた(思春期で草)。

母から「あんたそんなことしてないで自分の部屋を片付けなさい!あ、クローゼットは絶対見られるから特にそこを重点的に整理しなさい!」と高圧的に言われたものだから、僕は顔面のエラの辺りを右手でくりくりしながら、決して畳んだとはいえない乱雑に丸めた服を丁寧に畳みはじめた。

最初は面倒だと思っていたが、片付けというのはある時間を境にして急にスイッチが入るものである。

服を畳み終えても突然目に入ってくる雑然とした部屋の様子に、居ても立っても居られなくなり、僕は夢中になって片付けを行った。いや、あれは片付けではなく断捨離に近かったかもしれない。これ、もういらんやろと思ったものを独断と偏見でビニール袋に入れることを繰り返すと、3時間後、部屋はピカピカになった。

これでテレビに出ても大丈夫。どんと来いや!自信たっぷりの部屋を見せつけてやるわと意気込みたっぷりで翌日を迎えた。



ピンポーン

チャイムの音で玄関まで駆け寄る。宅急便や郵便局の受け取りは僕の仕事だったので、いつも通り1人で扉を開けようとしたが、この日だけは母が玄関付近で僕を追い抜いてウキウキで扉を開ける。

「こんにちはー!」
錦鯉の長谷川のごとく元気な挨拶で母はテレビ局を迎えた。

が、僕のイメージとは全く異なった。スタッフが2人いるのみであり、タレントがいなければカメラマンらしき人すらいない。

話を聞くに、今日は前取材で、部屋や普段どのような服を着ているのかを見てほしいということだった。

スタッフが家に上がり、彼らはリビングから回っていたが、こちとら思春期である。大人とは極力関わりたくないので部屋にこもって、読書をしていた。勉強しろって話ですけど。

しばらくして、母がノックもせず「部屋見てもらうよー」と言って入ってきた。

面倒くせえなぁといった表情を出しつつ、内心は待ってましたぁ!といった具合に燃えていた。

2人のスタッフが部屋に入ってくる。母はリビングの方に行くから1人でちゃんと受け答えろ的なことを言って後にした。2人のスタッフは僕の部屋を舐め回すように見ている。

「お部屋、綺麗ですね!」
女性スタッフが笑顔で僕に話してきた。

「まぁ。」
僕はぼそっと一言呟いてドヤる。

「いつも綺麗にしてらっしゃるんですか?」

「まぁ。」
もはや社会不適合者の受け答えである。しかも前日に3時間もかけて片付けをしたということは勿論言わない。

「へぇ〜すごいね!クローゼットの中も見せてもらっていい?」

僕は無言でクローゼットを開ける。もっとも丹精込めて整理整頓したところであるから、自分でも美しいと思ってしまうクローゼットである。

丁寧に畳まれたトップス。アウターに関してはグラデーションを意識してかけるようにしている。

「ここも綺麗ですねぇ〜!」
スタッフはそう言って僕はまたもドヤる。が、スタッフの表情の裏に陰りが見えた気がした。

「普段はどんな服着るんですか?」
僕は無言で白いボトムと白ベースにブルーのチェックがあるシャツ、ブルーのカーディガンを出した。

母が1週間前くらいに買ってきた服である。出かける時にはこれを着て、と指示されたものだ。逆に言うとそれ以外は野球のユニフォームやスポーツウェアばかりでまともに服を持っていない。

「ちょっと着てみてもらってもいいかな?私たちは一回部屋出るんで」
僕は頷き、彼らが部屋を出て扉が閉まったのを確認して着替えた。

※イメージ。なお、髪の毛は坊主。
首から上は磯野カツオをイメージしてもらうと良い。

着替え終わると僕は扉を無言で開けた。スタッフは僕の服をまた舐め回すようにして見て、「普通にオシャレ…」と呟いている。

僕の記憶にあるのはこれくらいで、それから再びフジテレビが家に来ることはなかった。だから勿論、僕の実家がテレビに映ることもなかった。

今思えば、番組の趣旨を全く理解していなかった。もし僕の部屋がグチャグチャのままだったら…もし1週間前に買った服がなければ……地上波デビューを成し遂げ、そのトーク力を買われて芸能人になっていたかもしれないというのにな。

まあリビングも同様、母が前日に気合いを入れてピッカピカに片付けられていたので僕の部屋以前の問題である。

あとはもう時期が悪かった。外面のイメチェンではなく、内面のイメチェンをやれということですな。内面のイメチェン企画、あればぜひお受けしますよ。伸び代たっぷりです。


【追記】
ていうか坊主頭だったので美容院に行ったところで切る髪ないやんけ!


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斉藤 夏輝
「押すなよ!理論」に則って、ここでは「サポートするな!」と記述します。履き違えないでくださいね!!!!