ユニオンスクエア
毎週、月火水金土曜日は14丁目のユニオンスクエアでグリーンマーケットが開かれる。40年前、ヒューバーツレストランでシェフのニーナやピーターが両腕いっぱいのズッキーニの花や虹色のニンジンやサラダに使う青々とした葉っぱの入った籠を抱えてキッチンに入ってきた。その頃できたばかりの近所のユニオンスクエアのオープングリーンマーケットで仕入れてきたのだった。ピーターはそのマーケットの設立にも関わっていたらしい。
そのころは志ある若い篤農家や小規模農家たちが育てた農産物とそれを求めるニューヨーク市民の求めをニューヨーク市が支持して開催されるようになった。
四月になればライラックの匂いに気がつく。
ペチュニアの色とりどり、花に近づけば仄かな香り。
小さいけれど茄子も出始める。
グリーンビーンズとワックスビーンズ。この写真のようなのはグリーンビーンでもっと小さくて高価なのはフランス語のアリコベールと呼ばれるが実際はフランス語ではアリコベールに大小の区別はないらしい。日本と同じくアメリカでもフランス語にすると価値が増すらしい。vive!おフランスやね。
ナッパキャベージと呼ばれる白菜の色違いとホオズキのようなトマトィーヤは甘酸っぱくてソースにすると良い風味。
伏見唐辛子やね。シシトウもあるけどこっちで栽培されるととっても辛くなる。何がそうさせるのか、ふーむ。
週末の満席のディナー、慣れないカウンター内でお刺身や一品料理の押し寄せる注文に夢中になって一皿一皿を拵えていると中年女性の二人づれがおしゃべりをやめてぼくの手元を見ているのを気が付かないふりをしていた。
十席あるカウンターも満席でそれぞれ皆さんの注文のお刺身を作りながらその朝早くユニオンスクエアまで歩いて行き新鮮なにんじんや紫大根とハーブなどを仕入れてお刺身に付け合わせるツマに切って仕上げたものを添えた。
ボストンのマグロやメイン州産の雲丹はいい香りがする。
だいぶんと待たせてしまった目の前のカップルのお客さんの帰り際に、ありがとうございました、お待たせしてすいませんでしたというと二人とも料理はとても美味しかったありがとうと言った。席を立った女性は二、三歩して振り返り戻ってくるとあなたはよくやってるわ、グレートジョブね、ありがとうを告げた。その人の背中を見送りながら頭を下げて顔を上げるとカウンターのお客さんたちが頷いていた。
嵐のような注文がひと段落するとあちこち掃除をしているぼくに話しかけてきた女性二人連れがあなたはこの店では見ない顔だわね、いつ来たのと尋ねた。ぼくは二ヶ月前にニューヨークに来ましたと言い四十年前はこの店で働いたこともあると言うとそれはすごいわねと言った。
年上の方の女性が今日のお刺身に乗っかってる花や蝶々は綺麗だし食べたら
とっても新鮮なので驚いたと言った。ぼくは嬉しくなってその野菜は今朝ユニオンスクエアで買ってきました気がついて貰って嬉しいですと応えた。
若い方の女性はあなたはニューヨークでは他にどんなレストランで働いていたのと聞きぼくはヒューバーツレストランやプロヴァンスレストランそして
サヴォイレストランの名前を上げると女性は、サヴォイ!ピーターホフマン!
と声を上げた。彼女はピーターの友人だった。
彼女は写真家でミキオさんの友人でもあるらしかった。
二人はぼくの名前を聞いてきて二人はブロンドの頭を寄せて何やらメモを書きこんでそれを渡してくれた。
メモには二人のフルネームとメールアドレスが書いてあった。そしてなんか
ニューヨークで知りたいことや質問があったら連絡して、力になるからと行って二人は笑った。
土曜のレストランの長い夜は深まりお客さんたちは帰っていった。
今夜も100名以上のお客さんたちが食事していった。
良い夜だった。